あっこゴリラが明かす、音楽活動と心の相関関係 揺れるアイデンティティの間で得るもの

あっこゴリラが考えるアイデンティティ

 様々な才能のラッパーがひしめく群雄割拠の状況下で、抜群の身体感覚による表現を突き詰めている最右翼があっこゴリラだろう。

 あっこゴリラの音楽は、良い意味で雑味だらけである。むしろ、雑味があることで音が四方八方に飛び散り、思いもよらない地点でそれらが反応し合い、躍動していく面白さを教えてくれる。その音楽性自体もますます拡散を続けており、ヒップホップ的なビートミュージックを軸に、ベースミュージックの妖しさ、J-POPのドライブ感などあらゆる要素が雪崩れ込みトライバルなグルーヴを生んでいる。

 ニューアルバム『マグマⅠ』でも、その運動神経はあらゆる方面に拡散されぶちまけられていた。パンデミック以降、身体性に関する問いは多くの局面で重要なテーマとなっている。いま、あっこゴリラから湧き出てくる身体性をいかに捉えるかで、音楽のみならず世の中に浮上している様々なテーマを考えるきっかけにもなり得るはずだ。あっこゴリラがアーティストを超え一人の人間として、揺れる自らのアイデンティティについて打ち明ける生々しいインタビューをお届けする。(つやちゃん)

立てた計画を壊す瞬間が好きな自分とコンプレックスに感じる自分

ーー最近、コラボが活発なように見受けられます。NHK Eテレ『天才てれびくん hello,』の曲も作られてましたね。

あっこゴリラ:『天てれ』は、小さい頃からの夢だったんですよ。ずっと子どもと音楽をやりたかった。私、あふりらんぽが音楽のルーツなんですけど、あふりらんぽの二人が子どもと一緒にオーケストラをやったりドラムのワークショップをやったりしてて、それを見て「カッコいい!」と思ってて。だから私も9月に子ども向けのワークショップ兼ライブみたいなものを始めるんです。

ーー実は、今日はあっこさんのずば抜けた身体感覚を探っていきたいと思っていまして。また後ほど話しますが、近年のポップミュージックやヒップホップにおいて身体というものが非常に大きなテーマになってきています。たとえば、まずはコラボひとつとっても、あっこさんの場合はその身体感覚が大きく関係している気がするんです。『天てれ』は特殊かもしれませんが、いつもコラボにはどのように発展していくんでしょうか。

あっこゴリラ:コラボはいつも友達とやってる感じなんですよ。会ったことない人でコラボに発展したことってない。Moment Joonだけかな。でもMoment Joonはもう会う前から「うちら一緒にやるよね!」っていうバイブスがあったから。連絡来て「もちろんやるやる」って(笑)。

Moment Joon - BAKA feat. あっこゴリラ, 鎮座DOPENESS, HUNGER, ACE COOL & Jinmenusagi (Official Video)

ーーそもそも友達に発展するケースが多そうですよね。普段からフットワークは軽い?

あっこゴリラ:めちゃくちゃ軽いですね。最近、はじめましての人とその場で曲を作るソングライティングキャンプにも参加してて。知らない人とのセッションも楽しくて好きです。でも、そもそも最近コラボが活発と言われて驚きました。その自覚がなかった! 自分としては全然足りなくて、もっともっとやりたいと思ってます。

ーーアーティストも、「何年後にこうなりたい」と未来を戦略的に描いている方と、偶然の出会いを大事にしながら今の積み重ねで自由に活動されている方と、両方いらっしゃいますよね。

あっこゴリラ:自分は完全に後者ですね! 私、自分で計画立てたことをなし崩しにしちゃうタイプなんですよ。それが最近特にコンプレックスで。立てた計画を壊す瞬間の自分が好きなんです。ライブもいっぱい練習してセトリも組んだけどその通りに絶対やらないんですよ。周りには「もっと考えた方がいいよ」って言われるんですけどね……どうしたものか……。

ーーなるほど。計画を立てるけど壊すという。

あっこゴリラ:思惑を超えていっちゃうようなアーティストに憧れてきたんですよね。自分は、頭の中の整理整頓が全然できないタイプで。考えれば考えるほどうまく整理できずにバッド入っちゃう。ライブをやることでようやく空っぽになれるんです。でも、そういうものが自分のメンタルにもネガティブに影響してる部分があるって最近分かってきて、どうしようかなぁって。それでも、ある程度コントロールできる部分も増えてきたんだけど。普段から、「墓に持っていくはずだったのに、なぜ自分はこんな大人数の前でこんなことを言ってしまったんだろう」みたいなことばっかりなんです。

ーーそこがまさに、あっこさんの類いまれなる身体性を支えているポイントでもある気がします。予期せぬ偶然性を望んでしまうと。一方で、それが音楽制作にプラスに働くこともあるのでは。

あっこゴリラ:ステージ上で音楽をやってる状態が自分は一番幸せなんですよ。だから、作った曲がライブでさらに化けるっていうのは確かにありますね。自分のことをライブアーティストだなって思います。ライブがないと本当に壊れちゃうんです。

ーーあっこさんの音楽って、ストリーミングやCDという形態がその音楽の熱に追いつけてない感じがします。どうしてもデジタルの幅に収まりきらないというか。

あっこゴリラ:ライブだともっと音が伸び伸びします。そういう気質ではある。でも、本当に最近悩んでるんですよね……だから、今年からライブをたくさん増やしました。あと、日常生活でも色々試したんですよ。私って汗かいた方がいいのかな? とか。めっちゃ運動して疲れて横になって、でも気がついたら憂鬱……みたいな。やっぱりライブでかく汗じゃないとだめなんだって分かったり(笑)。

ーーあぁ……それは大変だ……。

あっこゴリラ:本当に大変なんですよ。皆どうしてるんだろうって思います。なんでこうなっちゃったんだろう、甘えてたのかな、とか色々考えるし。最近は、元々こういう人間なのかなって自分を納得させてますけどね。

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