関取花、今までの歩みが1本につながった原点回帰作 音楽を始めたての衝動にもう一度向き合えた理由とは?

関取花、衝動にもう一度向き合えた理由

 関取花は本当に豊かな表情を見せてくれるシンガーソングライターである。前作『新しい花』(2021年)で〈あなたはあなたのままでいい〉(「美しいひと」)というメッセージを放った彼女が、これまで以上に多彩かつ骨太な音楽性を携えて、メジャー2ndアルバム『また会いましたね』を7月6日にリリースした。鉄壁のサポートメンバーとして関取のライブを支える、谷口雄(Key)、ガリバー鈴木(Ba)、岡田梨沙(Dr)の3人が初めて全面的にレコーディングに参加し、まるでバンドを組んだ喜びが詰まったようなグルーヴィな演奏を展開。そこに乗るのは、内なる情熱を燃やしながら、色褪せることない夢や初恋について歌い上げる、“衝動的”とすら言える歌詞である。おそらくメジャーデビュー以降にリリースされたミニアルバム&アルバムの中では、もっとも本質的な“関取花の核”が詰まった作品だが、そこに立ち返るまでにはどんな経緯があったのだろうか。本心で歌いたいことをしっかり抱きしめながら、シンガーソングライターとして次なる扉を開いた関取に、じっくり話を聞いた。(編集部)

「本当に望む作品を作れたら、隣の芝は青く見えない」

ーー『また会いましたね』はサウンドも歌詞も原点回帰を果たしたような作品に感じました。前作『新しい花』以降、どのように今作の制作に入っていったんですか。

関取花(以下、関取):まさに原点回帰の意味も込めたタイトルになっています。メジャーに来てから1枚目のフルアルバムを出すまでは、まずポップスをちゃんと体感してみようと決めていたので、いろんなプロデューサーさんとご一緒してみたり、そこで学んだことを活かしてセルフプロデュースで「新しい花」という明るい曲を書いたりしてみたんです。その後どうするかを考えたときに、1回ポップスと向き合ったことで、結局自分は何が得意なのかがよく見えてきたんですよ。去年の夏に「きんぎょの夢」をリリースしたのも、原点回帰的な弾き語りの曲に手応えを得られたからなんですよね。その後の秋のツアー(『関取 花 2021 TOUR 激闘編』)も1部を弾き語り、2部をバンドセットでやってみたことで、今まで自分がやってきたことのいろいろな点が線でつながって、「次は原点回帰的なアルバムにしよう」と決めました。とはいえ、そもそもインディーズでやり切ったからメジャーに来たわけで、過去の自分を模倣するだけでは意味がないなと思ったときに、ツアーを一緒に回ったバンドメンバーと作れば、今の関取花の作品にできるんじゃないかなと思ったんです。

ーーそれが全曲ツアーメンバーでのレコーディングにつながると。再認識した得意分野というのは、より具体的にはどういうものでしょうか?

関取:やっぱり歌詞と曲が同時にできるのが一番得意なんですけど、たぶん頭でっかちに考えていないからなんですよね。そういう曲ができるときは職業作家っぽい作り方をしていないし、技術じゃない部分はある種の個性になるじゃないですか。代え難い私らしさがそこにはあると思っていて。

ーーむしろメジャーデビュー以降のここ2年はーー。

関取:わかりやすくメロディが先でした。ネガティブな意味ではなく、タイアップが取れそうなメロディを書いてみるっていうポップスへの前向きなチャレンジだったんですけど、なんとなく頭で考えすぎてしまう自分がいて。「いい曲だけど私である必要がないかもしれない……」というのは、やってみて少し感じたところではあったんです。

ーーそれで今作は完全セルフプロデュースになるわけですか。

関取:そうなんですけど、バンドメンバーとセッションしてああだこうだ言いながら作ってるだけなので(笑)。頭じゃなくて、身体と心で作っていけるメンバーを自分で集めた、という意味でのセルフプロデュースです。

ーーそういう理由も相まって、今作は純粋に音楽を楽しんでいる作品という気がしたんです。逆に言うと、インディーズ時代に『君によく似た人がいる』(2017年)を生み出したあたりから、“関取花”の名を背負って制作している感覚が強まりましたよね。

関取:おっしゃる通りですね。それこそ『君によく似た人がいる』までの作り方って、「いい曲が出揃ってきたから、そろそろアルバムにしようか」みたいな、割とピュアに好きなものだけ詰め込んだ感覚だったんですけど……思えば、私はその中から推し曲を決めることがすごく苦手で。1曲だけが特別なわけじゃなくて、アルバム通して全部好きですからね。今でこそ「もしも僕に」はYouTubeとかですごく再生数が伸びてますけど、推し曲として戦略的に作ったわけではないし、あくまで後から聴かれる曲になっただけなので。一方で、亀田誠治さんや野村陽一郎さんのようなプロデューサーさんとご一緒した曲って、関わるミュージシャンの数が増えるので、必然的に推し曲になっていくんですよね。それ自体は本当にありがたいことなんですけど、全曲好きな気持ちでピュアに書いているだけの身からすると、1曲だけ特別になるのはちょっと不思議な感覚もあって。仕上がりの良し悪しではなく、全曲をフラットに捉え直すという意味で、ナチュラルなバイオリズムで作りたかったというのはありました。

関取花 もしも僕に

ーーラジオ番組のタイアップ曲や先行配信曲があるとはいえ、ミニアルバムやシングルで事前に打ち出された曲はなかったので、すごく純粋にアルバム然とした成り立ちの作品ですよね。

関取:そうなんですよ。昨年の「きんぎょの夢」も大好きだったけど、アルバムに入れる曲ではないと思ったので。そういう意見を言えるようになったことも変化かなと思いますし、スタッフさんにも感謝ですね。

ーーそういう作品をメジャーで作れたことで、手応えを得ている部分はありますか。

関取:「本当に望む作品を、望む人たちと作れたら、隣の芝は青く見えないんだな」ということを感じました。『君によく似た人がいる』は自分でも大好きなアルバムなんですけど、それを超えられないことが自分でコンプレックスになってしまって。

ーーそれだけ強烈な名盤でしたからね。

関取:ありがとうございます。いちリスナーとしても、もし20年後くらいに『君によく似た人がいる』を見つけて聴いたら、「こんなにとんでもないミュージシャンがいたのか」と思えるだろうなっていうくらい気に入ってるアルバムで。自分がそういう気持ちで聴いてきたキャロル・キングの『Tapestry』とか、ジョニ・ミッチェルの『Blue』みたいな、記念史的な1枚になったと思うんです。ただ、それと同時に「ヤバい、自叙伝を書き終わっちゃった」という焦りもあって。昔観に行った舞台に「自叙伝までなら誰でも書ける」みたいな印象的な台詞があったんですけど、確かにその通りだし、そりゃあ誰だって話せば面白い人生を歩んでるよなって思ったんです。だから自叙伝の先に行くことが大切だったので、メジャーでポップスに挑戦してみるのはすごく意味のあることだったと思っています。それを経て、今回のアルバムで書いた曲は「小説だな」「自叙伝だな」みたいな感覚もなく、全部が自分事だと思えるものになったので、すごくナチュラルになったんじゃないかなと。

背中を預けてみて気づいたサポートメンバーの凄み

ーーその“ピュアさ”はサウンド面にも効果的に表れていて、バンドを組んで「やるぞ!」みたいな熱量が詰まった音になっていますよね。

関取:そうですね。『君によく似た人がいる』のときは、まだそういう作り方ではなかったし、表現できる音楽の幅もそこまで広くなかったと思うんです。サポートミュージシャンもどれくらい私の現場で遊んでいいのか探り探りだったと思うし、結局バンドではないから、良さが一番伝わるのは弾き語りだと思ってた部分もまだあって。でも、ライブをやっていくうちに自分も精神的に強くなって、サポートメンバーに背中を預けられるようになったんですよね。谷ぴょん(谷口雄/Key)はつき合いが一番長いんですけど、間違いなく私が望む楽器のプレイをしてくれる人なんです。もともと私自身、森は生きている(谷口が在籍していたバンド)が大好きだったし、人としても尊敬していますけど、それゆえに頼りすぎてしまって、精神的にもプレイ的にも隙間を埋める作業を谷ぴょんに委ねすぎたんですよね。でも、今回はガリバーさん(ガリバー鈴木/Ba)とりっちゃん(岡田梨沙/Dr)のリズム隊をがっつり前に出すことにした結果、谷ぴょんが隙間を埋めるんじゃなくて、余白を楽しむように弾いてくれて。景色や心情のわずかな揺れを描くことに徹してくれて、歌詞に寄り添った鍵盤を弾いてくれたことで、谷ぴょんのプレイヤーとしての素晴らしさにも改めて気づきました。

ーーなるほど。

関取:ガリバーさんもライブのサポートは長いですけど、がっつり制作に入ってもらったのは初めてでした。去年のツアーを経て、ガリバーさんは一緒に作ったときが一番良いプレイをしてくれる人だし、私の音楽が変わる気がすると思って。ミックスのアイデアとか、低音を弾いたときのカーブの描き方とか、職人気質なこだわりをたくさん発揮してくれたことで、ベースが前面に出る楽曲に変わったと思います。

 あとは、りっちゃんがサポートに入ったことは精神的にも大きくて。女性のメンバーがいてくれると、ツアーの楽屋で1人じゃなくなるから、孤独な時間が減って心強いんですよ。ライブが終わってみんなで「イェーイ」って盛り上がってるのに、私だけ「先に楽屋戻ります」っていうのも寂しいし、かといってずっとメンバーの楽屋に入り浸るのも、気を遣わせてしまうかなとか(笑)。自分の化粧直しで待たせてる時間とかも、すごく申し訳なくなっちゃうんですけど、今は隣で一緒にお化粧しながら話せるりっちゃんがいるし、そういう姿をさらけ出せる相手が1人いるだけで、ありがたいなって思うんです。

ーーささやかだけど大事なことですよね。

関取:めっちゃ大事ですね。「明大前」を今回2人編成でやりましたけど、ドラムがりっちゃんじゃなかったら絶対できなかったので。

ーー去年のツアーは、関取さん史上もっとも楽しさが溢れ出たライブだったんじゃないかと思います。それはきっと谷口さん、鈴木さん、岡田さんというサポートメンバーも、“関取花らしさ”を体現する大事なピースになったことの証明でしたよね。

関取:そう思います。私自身、「常に明るくいなければならない」とか、「MCも綺麗に回収せねばならない」とか勝手に背負いすぎていたんですけど、「たとえ上手く行かなくてもメンバーが拾ってくれる」って思えたことは大きいです。レコーディングも、今のメンバーなら何を言っても前のめりで聞いて、根気よく試してくれますし、誰かが私の通訳者になってくれたりするので。こんなにレコーディングが楽しいと思えたのは初めてでした。

関取 花「新しい花」( TOUR激闘編 ver.)

ーーソリッドな音作りのアルバムになっている理由がよくわかりました。曲ごとに見ると、さっき曲名が出た「明大前」はギターとドラムだけの荒削りな演奏になっていたり、「ミッドナイトワルツ」は関取さんのルーツを感じさせるワルツナンバーだったり、「障子の穴から」にはブルースロック的なテイストがあったりして、J-POPやフォークだけではない、関取さんの音楽好きとしての側面がしっかり出ているアルバムでもあるなと思いました。

関取:嬉しいです。バンドの音楽も普通に好きですからね。今までカテゴライズされるのが嫌だと言いながらも、結局どこかの層にはまろうとしていたんだなと思いました。『新しい花』はもっとお茶の間層にはまりたいと考えていたし、『君によく似た人がいる』は洋楽のシンガーソングライターが好きな人にはまってほしいと思いながらやってたので。でも、今回はただ良い曲になればいいと思ってやれた気がします。

関取 花『明大前』Music Video

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