BUMP OF CHICKEN、「クロノスタシス」がロングヒット記録 リスナーを開拓し続ける攻めの姿勢

BUMP、リスナー開拓し続ける攻めの姿勢

 昨年、通常のサービス料金の枠内で一部の大手ストリーミングサービスの音源がロスレス(スタジオ録音のオリジナルデータとほぼ変わらない音質を再現)化したことは、音楽のリスニング環境に激変をもたらした。(世代がバレるが)個人的にも、アナログレコード、カセットテープ、CD、MD(はほとんど使用しなかったが)、ストリーミングという時代の変遷を体験してきて、よりいいサウンドを求めるために、時にはアナログレコードに回帰したり、時にはハイレゾ音源を購入したりしてきたここ数年の落ち着かないリスニング環境が、一気に解決してしまう出来事だった(アナログ音源にはアナログ音源の良さがあることを否定するわけではないが)。

 こういうことを言うと、それはオーディオマニア的な話だろうと思われるかもしれないが、ストリーミングサービス音源のロスレス化が、データ通信の高速化と大容量化、そしてヘッドフォン(イヤホン)リスニングの一般化と足並みを揃えてのものであることは重要だ。より良い聴取環境を求めて試行錯誤してきた我々のような世代を飛び越えて、あるいはそれと並行して長年存在してきた違法ダウンロードや違法動画の劣悪な音源を浴びてきた世代を飛び越えて、新しい世代はいきなりロスレス音源で音楽に接するようになった。そのような「高音質の民主化」は、きっと新しい世代が生み出していく音楽の質や中身にも反映されていくに違いない。

 さて、話はBUMP OF CHICKENである。 CDセールスのピーク期(1998年)直後の1999年にインディーズでデビュー、その翌年2000年にはメジャーデビューして、右肩下がりの2000年代の音楽マーケットにおいて右肩上がりのセールスを更新し続けてきた彼らも、2019年にはストリーミングサービスに(ごく一部のレア曲を除く)インディーズ時代も含めた全キャリアにわたる楽曲の提供を開始。20年以上に及ぶその充実した音源のアーカイブは、活動初期からのファンを狂喜させたのはもちろんのこと、若い世代のファンにも改めてバンドの歴史の分厚さを知らしめることとなった。

 もっとも、そこまでは音楽シーン全体の趨勢の中での出来事だった。BUMP OF CHICKENが一転して新しいリスニング環境において攻めの姿勢に出たのは、2021年6月に開始されたApple Musicのロスレスオーディオ対応、及びドルビーアトモスによる空間オーディオ化を受けて、2001年リリースの「天体観測」を新たにレコーディングし直して今年3月にリリースしたことだ。「天体観測」といえば、言うまでもなくBUMP OF CHICKENにとって代表曲中の代表曲。多くのファンにとってもパーソナルな記憶と結びついた「聖域」とも言える曲を、あえて「2022 Rerecording Version」として世に問い直したことに、見違えるようにリズムがタイトかつクリアになったサウンドとともに大いに驚かされた。

 そんなBUMP OF CHICKENが今年4月にリリースした最新曲「クロノスタシス」は、6月に入ってからも各チャートの上位をキープし続けていて、2022年上半期を代表するヒット曲の一つとなった。現時点で興収90億円に迫るロングヒットとなっている映画『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の主題歌ということで、新しいリスナーを開拓したこともその成功の要因の一つだろう。しかし、自分が「クロノスタシス」で注目したいのは、結成から四半世紀以上というキャリアを歩んできながらも、今なおBUMP OF CHICKENというバンドが音楽的進化の過程にあることだ。その背景には「天体観測(2022 Rerecording Version)」でのトライアルもふまえて、彼らが現在のリスニング環境に対して意識的に取り組んでいることがあるのではないか。

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