鹿野淳、音楽フェスを取り戻すための挑戦 『VIVA LA ROCK 2022』が直面した課題と未来につながる出会い

鹿野淳、音楽フェスを取り戻す挑戦

 『VIVA LA ROCK 2022』の開催が目前に迫ってきた。新型コロナウイルスへの感染対策を徹底した上で昨年行われた『VIVA LA ROCK 2021』を経て、今年は一部エリアでのアルコール類の販売や、アリーナでのオールスタンディング観覧などが復活。解決できていない課題はまだあるが、厳しい状況下でも一歩ずつ、音楽フェス本来の祝祭空間を取り戻すべく、『VIVA LA ROCK』は率先して様々な施策に打って出ている。

 リアルサウンドでは今年も『VIVA LA ROCK』プロデューサーの鹿野淳を取材。音楽ライターの三宅正一氏をインタビュアーに迎え、開催に至るまでの入念なプロセスや、ライブやフェスを取り巻く現状に対する新たな本音を聞いた。来年でいよいよ10回目を迎える『VIVA LA ROCK』だが、アーティストやオーディエンスと絆を紡ぎながら育ってきたビバラのアイデンティティは、コロナ禍においてもますます強固なものになってきている。そんなストーリーも改めて感じられる、2022年の開催となりそうだ。(編集部)

「今年の開催は過去2年と比べても明らかに難しい」

ーー今年も『VIVA LA ROCK』(以下、ビバラ)の開催おめでとうございます。

鹿野淳(以下、鹿野):ありがとう。え、それはどういう意味合いで言ってくれたの?

ーーいや、もう今はフェスを開催できるってこと自体が特別じゃないですか。

鹿野:そうか。そうだよね、うーん。面倒で痛い奴な言い方で申し訳ないんだけど、正直もうそのムードは嫌なんだよね。それはもちろん、去年の春に開催できたからこその意見なんだけど。去年「ビバラが開催できたこと自体に意味がある」って言われたときは、「ありがとうございます! 自分たちとしても、何が何でも開催するために遮二無二ルール作りからいろいろしてきました!!」っていう気持ちで開催をして、そういうお話もして、あれはたしかに本音だったんです……ただ、あれから1年も経っているんだよ? なのにいまだに「開催できただけで幸せですね」とか「おめでとう」っていう言葉でエンターテイメント、ライブ、音楽フェスの開催が位置づけられるのは、正直めちゃくちゃ歯がゆいんです。その向こうにお互いに行きたいし、行ってなくちゃいけないはずなんだよ、本当は。

ーーまぁそうでしょうね。

鹿野:今年は、というか今年も、ライブもイベントもフェスも、みんな規制があるのが当たり前。むしろ規制があるから安全っていうポジティブな感覚すら定着している気もするんですよね。それもコロナ禍以降の一つの変化というか在り方だと思うんです。だから受け止めます。だけどこのままこれが音楽ライブの本質的な楽しみ方だっていうことになると、今後のライブやイベントの体感性や面白みは明らかに減るよ? いや、そうじゃなくてそれこそが進化だという考え方もあるよね。それはそれでいいと思うんです。だけど、オーディエンスがフェスの現場で自分のオモチャを作っていくような気持ちになって、ライブっていう砂場でめちゃくちゃ自由に遊ぼう! みたいな感覚にはそれじゃならないよね。僕はそういう快感性が失われるのはやはり寂しいです。もちろん過去の遊び方を蘇らせたいっていう話じゃなくて。だってコロナ関係なく、音楽シーンも時代もリスニング環境もいい意味で変わったからね。だから新しいシステム、新しい気分、新しいグルーヴで、新しい音楽ライブエンターテインメントを作れればいいじゃんとは思う。それなのに、おっかなびっくりライブやイベントをやるとか、それをやることに意味があるっていう感覚で2022年が進んでいくのは、なかなか辛い。

鹿野淳

ーー鹿野さんも去年のビバラが終わった時点で、2022年は状況が変わっていることを望んでいたと思いますけど、思った以上に事態は動いてないですよね。アメリカの音楽フェス『コーチェラ(『Coachella Valley Music and Arts Festival』)』は今年、ノーマスク、ワクチン証明もなしで開催されたけど、この島国にいると別世界のような話だなと思う。だから今の状況を踏まえた上でビバラが今年も開催できるってなると、音楽産業に身を置いている者としてはやっぱり「おめでとうございます」が、本音として一言目に出ますね。

鹿野:ありがとう。日本の独自の価値観はやっぱりあるよね。でもそれ自体が悪いわけじゃない、だってそれがこの国をここまでのものにしてきたんだから。ビバラやさまざまな音楽産業に関わっている人も、みんないい大人で、その人たちが今の日本のセンチメンタルや優しさや臆病だけど奥ゆかしいみたいな価値観を全部作ってきたわけだから。2020年はほとんどライブすらできなくて、フェスなんてもってのほかっていう時期だったから、オンラインでフェスをやろうということになったんですけど、「オンラインライブは1日に何組もやるもんじゃないし、やれるもんじゃない」って言われてた時期だからこそ、1日10組で3日間、合計30組のアーティストを呼んで「オンラインでもフェスを絶対やってやるんだ」という気持ちがあったんです。それが『ビバラ!オンライン 2020』だった。それは開催する側としては、矢面に立つという意味でも、モチベーションを保つ理由がめちゃくちゃ明確だったんですよ。

 そして2021年も、その前の年末から春フェスの時期にかけて、周りの多くは撤退するか、状況を鑑みて(開催を見送ることで)音楽ファンの安全を守る選択をした。その考え方を尊重した上で、本当にやれることはないのか? をずっと考えていきました。参加することに意義があるって言葉は大嫌いだけど、リアルでお客さんと共にフェスを開催することに意味があるんだったら、そのために手段を選ばずにルール作りをしていくぞと。それが音楽シーンもライブシーンもお客さんも守って進める手段なんだからっていうのが昨年でした。これもモチベーションを保つためには非常にわかりやすかったんです。ただそういった意味でいうと、今年は過去2年と比べて明らかに難しいんです。だってフェスもエンターテインメントも止まっていた訳じゃないし、進めるべきことを進めてきたんだから。今さらここで再始動するみたいな気持ちにはなれないんですよ。それよりもあるべき楽しみ、あるべきライブやフェスの在り方を、コロナ禍=日常な中で生み出すことが今、一番大事だと僕個人は思う。で、それをこのフェスがやるべき範囲でやろうと今、さまざまな最終準備をスタッフ一同でしています。

ーーその難しいというのは?

鹿野:何度も言いますけど、開催することに意味があるなんてもう、言いたくないし言われたくもない。最大限の感謝を持って、あえてそう思うんです。そもそも春フェスってこれからに向けるべきものじゃない? フェスシーズンって年末で1回終わって、新しい年のキックオフを春フェスが告げるわけで、春にやったことが夏に返ってくるから、必然的にその年のシーンの指針になってしまうんですよ。だから2022年は、「今までとコロナへの立ち向かい方が違うんだ。そして、その中で自分たちなりのコロナとの付き合い方や価値観をみんなでシェアして、でも悲しいことや危ないことが起こらないようにしよう」っていう風に進んで行きたかったんだけど、それ以前の話し合いがあまりにも多くて。その中であるべき開催に持っていくのはとてもしんどかったです。ただ、しんどかったというのは、打開しようと思ったからなんですよね。要はしんどい思いをしている=打開はしていると思うんです。思うような打開まで行かなかったというだけで、確かな打開はしているし、進化も変化もしているんですよね。それはご理解いただきたいし、楽しみに来場してほしい。わかりやすい部分でいうと、コロナ禍以降、さいたまスーパーアリーナで全面アリーナスタンディングの興行をやるのは、今年のビバラが初めてです。

ーーそれはビバラに対する、会場側からの信頼っていうことですよね?

鹿野:そうだったら嬉しいけど、そこまではわからないよ。ただ現実としてこのフェスがそうなったんです。それは確かな一歩ですよね。あと我々は今年、スタンディングであることに徹底的にこだわり続けました。椅子を置いたら、引き換えにこれができるとか、いろいろなチョイスがあったけど、何よりもまずスタンディング。フェスって、どの音楽を聴く、どのライブを観る、どこでライブ以外の時間を過ごす……そういったいろいろなことが本来は自由に選択できて音楽世界を回遊するものじゃないですか。だから、指定席とかスタンディングエリアを事前抽選制にするとかって、果たして2022年に開催する音楽フェスが取るべき選択なのかと考えると、少なくとも自分はそうじゃないと思った。ごめんなさい、これ、他のフェスを結果的に否定している言い方になっているよね。そんなつもりは毛頭ないし、大好きなフェスがいっぱいあります。だけど、自分の考え方はそこにどうにも向かないんです、今年は。その結果、一部できないことも出てきましたが、スタンディングでやること自体は、会場を通じて自治体に認めていただきました。

 そしてお酒の販売もできるようになりました。アリーナ・スタンディングエリアではお酒は買えないし飲めませんし、さいたまスーパーアリーナは一歩外に出た瞬間から近隣住民の方や買い物客などが多くいらっしゃいます。よってアルコール飲料を外へ持ち出すこともやめてもらいます。しかしその上で、自分のペースでお酒を飲みながらいい感じでライブを楽しめます。そもそもコロナ前だって泥酔して嘔吐でもされたら、それは厳重注意してましたから、参加者を信用して自分のペースでお酒も含めて楽しんでもらいたい。

 それと、去年できなかったさいたまスーパーアリーナを出た屋外での飲食販売もやります。ただ、その購入したフェス飯を屋外エリア「けやきひろば」で食べる場合は、入口と出口を設けた囲いを施したイートインスペースに入場してもらい、フェス客とフェス客以外をセパレートしながら楽しんでもらいます。

ーーなるほど。

鹿野:それでも十分に解放感は得られると思っています。そうやって昨年よりもやれることが増えたので、会場と自治体にはフェス全体としてとても感謝しているし、スタッフ一同達成感も持っています。ただ、それはあくまでも我々のフェスのストーリーなわけです。それ以上にお客さんに対して、音楽やエンターテインメントが現状の世の中の空気や価値観をどうポジティブにぶっ壊していくのかを、もっと体現したかったなっていう気持ちが『VIVA LA ROCK』としてではなく個人的にはある。そこが今年難しかった部分なんです。

ーーたしかにお客さん側が、制限のある中でいかに遊ぶかに慣れた部分もありますよね。もうお酒が飲めないフェスを経験した、それは去年の『FUJI ROCK FESTIVAL』然りで。ただ、それを解決する道筋を通したビバラに関しては、鹿野さんはじめ運営の人に対してありがとうっていう気持ちを持つお客さんの方が多いんじゃないですか。

鹿野:こちらこそありがとう。でも逆に「そこまでやって大丈夫なのか?」「不安だから逆に参加する気がなくなる」っていう人がいる可能性があることもわかってます。だから、僕らは自治体に対してもお客さんに対しても、ものすごくハードな挑戦をしてるんだという自覚はあります。その上で開催できることは、こうやってつべこべ言いながら、感謝しかないです。だからこそ、不安を持って会場に来た人にも、帰るときにはさらに音楽を好きになってもらって「これで良かったんだ」と思ってもらわなくちゃいけない。絶対にそうであらねばならない。フェス側のマスターベーション、ロックフェスとは何なのかという概念に対する独りよがりにならないためにどうすればいいのか? を考えながら、今もまだまだいろいろなことを進めています。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる