清 竜人×根本宗子×横山由依『HANARE RARENAI』特別鼎談 珠玉のバラードから生み出す、ドラマ作りへの新しい挑戦

清 竜人×根本宗子×横山由依 特別鼎談

 2009年のデビュー以来、既存の何かの範疇に入るものかとでもいうように、躊躇なく百面相的な活動をしてきた清 竜人。その謎めきを破るように、昨年「第2章」と称して精力的な活動を開始。どうやら底知れない可能性を出し惜しみなく見せる周期に入ったようだ。2月18日には、「痛いよ」以来12年ぶりとなる珠玉のバラード「離れられない」をリリース。それに先駆けて、ソニーミュージック発のソーシャルドラマYouTubeチャンネル「みせたいすがた」で、楽曲を原案とするドラマ『HANARE RARENAI』が公開となった。監督・音楽は清 竜人。脚本は根本宗子。出演は清 竜人&横山由依。3人をつないだもの、そして、ドラマを通じてそれぞれが見出したものを、制作秘話とともに聞いた。(藤井美保)

「EPISODE 1」 HANARE RARENAI

「ふと出てきたメロディからラブストーリーの方向になった」(清)

ーーまず、今回のコラボに至った3人の関係性を紐解かせてください。清さんは2019年の『月刊「根本宗子」』の舞台『今、出来る、精一杯。』に、横山さんは、2021年の『Cape jasmine』に出演しています。その出会いについて聞かせていただけますか?

根本宗子(以下、根本):劇団が10周年を迎えた2019年は、私自身が過去作を大幅にリメイクしたくなったタイミングで、代表作である『今、出来る、精一杯。』の音楽劇としての再演を思い立ちました。ならば、ずっとファンだった竜人さんに主演と音楽をやっていただきたい。そう思って、まずご本人にお手紙を書きました。竜人さんはご自身のプロデュース以外のものをやるイメージがなかったので、完全にダメ元でしたけど、想いを伝えてみようと。

ーーその時点で思っていた清さんの魅力というのは?

根本:音楽性も見せ方も目まぐるしく変わる印象で、根本的にとてもエンターテイナーだなと。セルフプロデュースが完璧だから、活動のなかでご本人の実体が捉えづらくもあり、本当はどんな方なんだろうと興味津々だったんです。実際会ったらすごく話しやすくていい人でした(笑)。

ーー横山さんについては、どう映っていましたか?

根本:AKB48時代からずっと見ていたんですよ。あのグループの総監督を長期間やるって絶対すごく大変なことなのに、横山さんって嫌な顔ひとつせずに務めていたと思うんです。相当負けず嫌いなはずだけど、画面のなかでは常に親しみやすい姿のまま。これはとんでもない人物だなと思ってました(笑)。さらに声も魅力的だなと。「その発声じゃダメ」といろんな演出家さんに言われていそうな声とも言えるんですけど、「そこがいいんだよ」と言いたくて舞台にお誘いしました。まだ何色にも染まってないから、女優さんとしていかようにも進化できるなと思ったんです。

ーーラブコールを受けて、また実際に舞台に立ってみて、清さんはどんなことを感じましたか?

清 竜人(以下、清):根本さんのご想像の通り、最初は全然やる気がなかったんです。自分のほうに誰かを呼び込むことはあっても、他所に飛び込むことはしてこなかったので。ただ、自分の作品でもミュージカルタッチや台詞を入れ込んだシアトリカルな構成は取り入れていたので、演じること自体に抵抗があるわけじゃなかったんですね。実際、初めての舞台はすごく新鮮でした。僕は純粋に演者としてそこにいればいいわけで、それがちょっとラクだったんです。たぶん、トータルを見てくれる人がいて、自分を俯瞰しなくて済むという環境が、ということだと思うんですけど。

ーー横山さんはどうでしたか?

横山由依(以下、横山):すべてがガラッと変わりました。それまでも舞台は何度か経験していて、その都度、発見や学びはあったんですけど、どこかでずっと「お芝居、すごく好きなのに苦手意識が抜けない」と思っていたんです。この声にしても「もっとハスキーなほうが味が出るんだろうな」とか、どうにもならないところで悩んでいました。お芝居の本当の楽しさがわかったのは、「その声だから、横山さんだから伝えられることがある」と根本さんが当て書きをしてくださった舞台に立ってからなんです。本当に特別な時間でした。

ーーでは、『HANARE RARENAI』のお話に行きましょう。この取り組みに至った経緯を教えていただけますか?

清:最初にいただいたのは、「『みせたいすがた』に役者として出ませんか?」というお話でした。ただ、自分としてはもう少し深く関われないかなという気持ちがあって、その希望をいろいろとお話するうちに、主題歌を書き、それを原案にドラマを作るという流れになっていったんです。紆余曲折がありましたけど、最終的に監督も僕がやり、音楽監督として劇伴も作るという形になりました。

清 竜人

ーーそこで根本さんに白羽の矢が?

清:舞台でご一緒して以来仲良くしているので、脚本を誰にするかとなったときパッと浮かびました。実は、最初は任侠モノみたいな話にしたかったんですよ。

根本:「殺し合いのシーンとかをやってみたい」とおっしゃったので、そりゃ結構なスケールだなと。私はそういう作風ではないので、思わず「適任ですか?」と聞きました(笑)。

清:だから、最初はそっちの世界観で曲を作るつもりでした。

ーー楽曲制作はそこからだったんですね。

清:はい。でも、いい曲が浮かばなかったんです。それで、ある日ピアノを触っていたときに、ふと「離れられない」のキーになるメロディが出てきた。これは何かのサインだなと思って曲を完成させて、当初の思いつきとは全然違うラブストーリーの方向になったんです。

根本:これは私の勝手な印象なんですけど、「離れられない」を聴いたとき、竜人さんの原点回帰というか、昔やっていた世界観に、今また向き合ってみるという部分を感じたんですね。私自身も過去作品に今の視点で立ち帰ろうとしたことがあるので、それと似ているのかなと思って、今回は竜人さんの世界をお借りして、私もちょっと前の自分を出して書きました。「ロマンティックな世界観を」というオーダーだったので、自分の舞台では書くことのない、また、お仕事でも依頼されることのない方向に思いきって振り切ってみたんです。こういうちょっと弱いというか、可愛らしい感じの男性を歌われるのって久しぶりじゃないですか?

清:フフッ、そうですね。

「台詞が余計な要素にならないように」(根本)

ーー相手役に横山さんを選ばれたのは?

清:もともと何人か候補はいたんですけど、内容も含めて紆余曲折があったので、再度打ち合わせをしようとなってーー。

根本:竜人さんと食事をしたんですよね。ちょうど、私が横山さんと舞台をご一緒した後くらいだったと思います。そしたら、竜人さんもたまたまテレビで横山さんを見かけたところで。

清:そう。それでひとしきり横山さんの話で盛り上がって、お願いしてみようか、ということになりました。

根本宗子

ーーオファーが届いたとき、どう思われましたか?

横山:まず根本さんから、「聴いてみて」と曲だけが届いたんです。すごくいい曲だなと思ったので、すぐに感想をバーッと書いて送りました。自分なりに竜人さんのことを調べてみたりもしたんですけど、見るもの見るものあまりにもビジュアルイメージが違うので、「えっ、どの人?」って思いました(笑)。自分が一歩踏み出すタイミングで出会った根本さんを介して、音楽という大きなくくりの中にいてもこれまで接点のなかった竜人さんとご一緒できるのが、なんだかすごく不思議で、嬉しかったです。

根本:キャストが決まり、世界観の共有ができたところで脚本書きがスタートして、一話上がるごとに竜人さんに確認してもらいました。

清:毎回「バッチリじゃん」って返してましたよ(笑)。

ーー脚本上、大事にされたのはどんな点ですか?

根本:例えば、4分の曲は4分間のメロディと歌詞で成り立っていますよね。でも、お芝居にはいくらでも言葉を詰め込める。ただ、台詞が多すぎて品がなくなるってこともあるんです。その限度は作家に委ねられるので、もし自分の作品であれば自分が書きたいと思うままに書きますけど、今回はあくまで曲ありきの企画なので、台詞が余計な要素にならないようにと気をつけました。

ーー台詞の行間の部分に、胸がキューッとなりました。

根本:激しい会話劇ではないということは共有していましたし、竜人さんも横山さんも、静かな一面が魅力でもあるので、自然とそういうものになっていきましたね。全部を私がコントロールしていたわけではなくて、監督としての竜人さんが緩急をつけてくださったところもあるんですけど。

清:監督をやるからには、脚本の持ってるスケール感を大事にしたいという思いがあったので、もちろん、ロケーションの選定から撮影のアングルに至るまで、枝葉末節にこだわりました。

横山由依

ーー演じ手としては、カメラマン役にスッとフィットされているように見えましたが。

清:言われてみればカメラマン役だったな、と思うくらいなんですけどね(笑)。

根本:カメラで撮る場面が一度あるだけですもんね。

清:でも、その設定があったので、静止画をフラッシュバックで挟み込むといった手法を取ったりはしました。

ーー横山さんはどう役作りをしていきましたか?

横山:根本さんがアドバイスをくださるだけじゃなく、電話で台詞回しの練習にもつき合ってくださったので、そこでベースを作って、現場では監督である竜人さんに委ねました。基本的にはすごく自由にやらせていただきましたし、本当にその場で、ふたりのやりとりの中で生まれるものもあったので、一瞬一瞬がすごく楽しかった。でも、とにかく寒かったんですよ。

清:そうだね。特に五話。昼間の撮影の途中で天気が崩れて、夜あらためて撮ったので、最後のほうのカットが本当に寒かった。3日間の撮影の最終日で、体力も精神面も結構キツかったんですよ。ふたりともたぶん意識下で、「寒いから早く終わりたい」と思ってるから、会話のテンポが想定よりどんどん速くなっていく(笑)。でも、それがリアルでいいなと、編集しているときに思いました。

ーー五話の、長回しで台詞のないほうの表情を捉えているのもいいなと思いました。

清:四話までしっかり流れてきたストーリーが、カットを割れば割るほどぶち壊しになる気がしたんですよ。ふたりの感情の交換の熱量を下げないままの画にしたかったので、どうしても業務的に割らなければいけないところ以外は一本で行きました。

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