TAKU INOUEが考える“宇宙”と“クラブ”の接点 『ALIENS EP』制作の原動力を明かす

TAKU INOUE、宇宙とクラブの接点

 ゲーム音楽をはじめとして、数多くのアーティストのプロデュースや編曲、楽曲提供を手掛けてきた人気プロデューサー・TAKU INOUE。ダンスミュージックのエッセンスを封じ込めたキャッチーなサウンドは、ジャンルやコンテンツの垣根をこえて広く支持されている。2021年7月には、星街すいせいをボーカルに招いたシングル「3時12分」を携え、アーティストとしての新たなスタートを切った。さらに12月22日には、初のEPとなる『ALIENS EP』をリリース。星街すいせいに加えONJUICY、Mori Calliope、そして自身による歌唱をフィーチャーした本作は、TAKU INOUEの多面的な魅力をコンパクトに封じ込めた、リスナーの期待を裏切らないデビューEPに仕上がっている。そんな本作について、本人にくわしく話を聞いてきた。(imdkm)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

夜の街が「宇宙に思いを馳せる」くらい遠いものになってしまった

――7月に「3時12分」でTAKU INOUEというソロアーティストとして活動を本格化したばかりですが、今回の『ALIENS EP』の制作はいつごろから始まったんでしょうか。

TAKU INOUE:8月なかばくらいから作りはじめて、割と急ぎで作りました。

――5曲入りのEPというコンパクトな尺感ですが、最初のONJUICYさんをフィーチャーした「The Aliens EP」からアウトロの「Taillights (Outro)」までストーリーが濃縮されていて、まるでショートフィルムを見ているみたいです。

TAKU INOUE:まさにそういう感じにしたかったんです。単純に5曲作るよりは1つの作品として聴いてもらえるような感じにしたいなって思いましたね。最初から「3時12分」を収録することになっていたので、じゃあこれを基軸に広げていこうかなと。そこで、(「3時12分」のような)クラブ讃歌に加えて、もうひとつテーマを作りました。「夜に外出する」ってなんか宇宙旅行感あるよなぁって、自分の考えがあって。そこから「宇宙」や「旅」みたいな、クライアントワークでも使ってきた自分の好きなモチーフを絡めて、ひとつのストーリーを作ってみよう、と。

 やっぱり、この世の中の状況になってみて、たとえば「宇宙に思いを馳せる」みたいなことが、クラブだったり夜の街だったりに対して起こるようになってしまった。同じくらい遠いものになってしまったんですよね、夜の街が。そのへんの思いを吐き出した。そこが原動力になったと思います。

――冒頭の「The Aliens EP」はすごく渋いジャジーなビートで、類家心平さんのトランペットが印象的です。もともとこういうジャズのサウンドへの関心はずっとお持ちだったと思うんですが、今回のイントロでこういう打ち出し方をすることにしたきっかけは。

TAKU INOUE:「3時12分」があったので、今回のEPではジャズの要素を全体に使っていこうと考えていて。じゃあオープニングはどんなものがいいかな、と思ったときに、こういうフリーキーなジャズになったんです。なんなら最初はインストでもいいかなと思っていました。

――ここでONJUICYさんをフィーチャーした理由は?

TAKU INOUE:ラップをフィーチャーしたいというのが最近の気分としてあって。Mori(Calliope)さんの客演が決まり、自分の曲もなんとなくラップっぽい部分もあって、そこで流れはできてたんです。1曲目はもともと1分半くらいで終わらせようかなって思ってたところ、類家さんのトランペットが入ったことでめちゃくちゃかっこよくなってきて、これは単なるイントロにするのはもったいないなと思って。あと、ボーカリストの男女比を男2、女2に揃えたかったというのもあって、前から好きだったONJUICYさんにお声がけしました。

――ONJUICYさんはTREKKIE TRAX周辺ともつながりが深くて、こういうビートの強いダンスミュージックに乗ってもすごく存在感があります。

TAKU INOUE:この曲はBPMが120ちょいなんですけど、いろんなラッパーの人の曲を聴いてみると、このくらいの4つ打ちを歌える人って割と限られていて。そんななかONJUICYくんはおっしゃるとおりTREKKIEのCarpainterの4つ打ちの曲とかでもめちゃくちゃかっこいいものを作っていたので、これはイケるなと思ってお願いしました。

 『ALIENS EP』というタイトルが決まったときに、多様性みたいな考え方をコンセプトとして入れたくて。クラブってそもそもそういう場所だし、どんな人が来ても誰も気にしない。そういうところを匂わせたいなと思って。自分だけじゃなくて、いろんな人に歌詞を書いてほしかったんですよね。なので、エイリアンというコンセプトと、曲順を追っていくごとに時間が経過するような流れにしたいから、ONJUICYさんは午後8時半から午前1時くらいのところを担当、できればどっかに時間の表記を入れてください、とだけ伝えて、あとはもうおまかせしたんです。そしたらSFオマージュだらけ(笑)。

――注釈の入れがいがある(笑)。で、キメのフレーズとしてKIRINJIの引用も入ってくる。このへんの采配もONJUICYさんですか。

TAKU INOUE:完全におまかせでしたね。なるべく来た言葉をそのまま乗せたい、リテイクしないようにと思ってたんですが、そもそもさわる必要がなかったですね。Moriさんも含めて。歌詞に関してはその人の言葉をそのまま乗せています。

「Club Aquila」で描いた情景がそのままクラブという場を表すものに

――「The Aliens EP」がクラブが開いてからピークタイムを迎えるくらいまでの、期待感を盛り上げるようなところ。そうなると、リード曲の「Yona Yona Journey」はピークタイム?

TAKU INOUE:そうですね。1時から2時過ぎみたいなところです。

――実際、この曲にも時間の表記というか言及が出てきますね。Moriさんにボーカルを依頼した経緯は?

TAKU INOUE:もともと彼女のソロ曲を自分も聴いていて、すごくいいなと。ラップも面白いし、日本語がちょっと入ってくる感じもすごくいい。いつか一緒に曲づくりをしてみたいと思っていたところでした。すいせいさんと同じ事務所という流れもあって、ぜひ、と。

――こちらもラップパートはMoriさんご自身が書いたんですよね。

TAKU INOUE:サビの歌詞と1A・サビのメロディはこっちで作って、それをMoriさんに渡して。参考までに「3時12分」の歌詞と、さっきONJUICYくんに伝えたようなコンセプトを伝えて、バースの部分はおまかせでお願いします、と依頼しました。自分としては、リード曲なのに英語がっつりなところが面白いなと思ってるんです。世の中的にはどうかはわからないんですけど。彼女の英語のフロウから、サビでバコッと日本語に変わっていく感じがものすごく気に入っていて、サビの日本語も独特のグルーヴ感というか、日本人には絶対出せない気持ちよさを日本語でも出してくれた。VTuberだし、死神だし、『ALIENS EP』のコンセプトにもぴったりな人だったなと思います。

――やっぱり、Moriさんには英語と日本語のバランスの面白さがありますね。

TAKU INOUE:サビを自分で書いたのもよかったなと思って。サビとバースの対比が気に入ってます。なんていうか、往年のm-flo感というか。LISAさんみたいだな、って。そういうことを自分の曲でできてうれしいなと思いましたね。

「Yona Yona Journey / TAKU INOUE & Mori Calliope」MUSIC VIDEO

――そこに続いて「Club Aquila」。この曲は作詞・作曲・編曲、そして歌唱もイノタクさんです。

TAKU INOUE:今までも音ゲーの曲で歌ったことはあるんですけど、そういうときってやっぱりお題だったり、音ゲーというしばりがあったので、とっかかりがあったんです。今回は「自分が歌う」ということしか決まってなかったので、めちゃくちゃ迷いました。自分の声だと客観的に考えられなくて。人の声なら「こういうのがいいな」って思い浮かぶんですけど、自分の声となると……やっぱり苦労しましたね。作っては捨て、作っては捨て、でした。「Yona Yona Journey」から「3時12分」につなぐ役割というのがあったのと、自分が歌うとなると、しっかり歌い上げるよりは力を抜いて早口でしゃべってるくらいの印象のほうがいいだろうと思ったので、こんな感じの、ちょっとラップ調のものになりました。

 このEP全体のストーリーとして、1・2曲めでクラブに向けて出発して、目的地がこの「Club Aquila」という架空のクラブだったってことにしたくて。宇宙のどこかにある架空のクラブで、宇宙人やロボットだったり、いろんな人がいるよねっていう情景を描いた歌にしたかったんです。SFだけど、クラブって結局こういう場所だよね、っていう歌詞ですね。この曲で、『ALIENS EP』というところに一番リンクしたらいいかなというか。ただ、自分の気持ちみたいなことを歌っちゃうと違うコンセプトのEPになると思って、ここは映画的な、風景描写に重きを置きました。

――次がデビュー曲でもある「3時12分」。リリースされてからこれまでで、新たな代表曲になりましたね。

TAKU INOUE:おかげさまで。クラブには3時にしか呼ばれなくなり(笑)。逆にいうとみんなそれを期待してくれてるんだろうなって。かければすごくみんな盛り上がってくれるし。ああいうしっとりした曲調なのにもかかわらず、これだけ広く受け入れてもらえたというのがまずはうれしいです。

――EPのなかで聴くとよりいっそうドラマのなかに置かれて、曲と言葉のエモーショナルな感じがびんびんになっていて。

TAKU INOUE:おっしゃるとおり、それが狙いで。どうせまたリリースするんだったら違う感覚で聴いてもらいたくて、前の3曲で流れを作って聴くとまた違うでしょっていうのはやりたかったんです。

「3時12分 / TAKU INOUE & 星街すいせい」MUSIC VIDEO

――ここまでの4曲はボーカルが入っていて、最後にアウトロとしてインスト曲の「Taillights (Outro)」があります。

TAKU INOUE『ALIENS EP』
TAKU INOUE『ALIENS EP』

TAKU INOUE:これを作っているときには「宇宙人がカセットテープを持っている」という通常盤のジャケットの案があがっていて。どうせならジャケットにひもづけたような感じにしたくて、冒頭にカセットを再生する音を入れました。ほかにも、朝の鳥の声とか入れてみたり、わかりやすくエンドロール感を出せたらいいなって。

――ここでウォークマンからカセットテープを再生する、みたいなギミックが入ることで、ひとりで夜の街に出ていって、いろんな人と場所を共有したりしたあとでまたひとりに戻っていく……という流れがすごくきれいにきまっているなと思って。

TAKU INOUE:ああ、それはあまり考えなかったですね。たしかに、言われてみれば。クラブ帰りというコンセプトはありました。ほっとしたような、寂しいような、複雑な感情を表現できるアウトロを一個つけようと。ただ、インストを作るのが久々すぎて、できあがったときにいいのか悪いのか全然わからなくて。レーベルの人に「これ入れたほうがいいですかね? 3時12分で終わりのほうがいいですか?」なんて相談までしたんですけど。ほんとに入れてよかったなと思います。これがあることで、総尺15分もないようなEPですけど、満足感が得られるんじゃないかと。

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