古川貴浩×千葉”naotyu-”直樹が語り合う、音楽制作に大切な視点 未来のクリエイターへのメッセージも

古川貴浩×千葉”naotyu-”直樹対談

 サウンドプロデュース、作曲、アレンジなど様々なアーティストや劇伴の音楽制作を手掛ける古川貴浩と千葉”naotyu-”直樹。作詞家・作曲家・編曲家・プロデューサーのインタビュー連載「Music Generators」第7回では、二人の対談を通してそれぞれのクリエイティブに対する目線を探っていった。

 音楽制作に関わることになったきっかけや、転機となった楽曲、インストや歌もので異なる制作のディレクションなど、多種多様な楽曲制作を行う両者だからこと聞くことができたクリエイターとしての経験や意識。これから音楽クリエイターを目指す人にとっても貴重なテキストになるだろう。(編集部)

全ての楽器を考えながら、音楽を作るアレンジャーに惹かれた

ーーまずは、お二人がどのような経緯でサウンドプロデューサーになったのかをお聞かせいただけますか?

古川貴浩(以下、古川):僕はもともとベーシストで、二十歳くらいからアレンジの勉強をするようになりました。それでもしばらくはベーシストを軸に活動していたのですが、やっていくうちにアレンジの方が楽しくなってきて。全ての楽器を考えながら、音楽を作っていくところに惹かれたという感じです。ベースという楽器がアンサンブルを前提にしているというのもあって、俯瞰で他の楽器を把握できるのも(アレンジにはまった理由として)大きかったと思います。もちろん最初は駆け出しだったので、アレンジャーとしての仕事がそんなにあるわけでもなくて。作曲仕事も一緒にやるようになり、いろいろな経験をしていく上でサウンドプロデュースもしていくようになったという感じです。ソニー・ミュージックパブリッシング(SMP)に所属したのをきっかけにそちらに舵を大きく振っていくようになりました。

千葉”naotyu-”直樹(以下、千葉):僕は中学生くらいからDTMを始めたので、完全にパソコン音楽からのスタートでした。高校生くらいの時もずっとそればっかりやっていたんですけど、上京して二十歳前後くらいからDJをやったりトラックを作ったりするようになって。それから1年くらいで作家活動を始めて何年かアシスタントっぽいことをしつつ数年くらい経った頃、今の事務所(SMP)と出会って10年弱くらいここで活動させてもらっています。

ーーお二人の代表曲、または転機になった曲というと?

古川:代表曲と言ってしまっていいのか分かりませんが、声優の戸松遥さんのお仕事にはすごくたくさん関わらせてもらっているので、そこで学ぶことが多かったし成長させてもらえたなと思っています。自分にとって重要なプロジェクトの一つですね。

千葉:ひとつ「名刺代わり」として大きく関わらせてもらうことが出来たのは、声優の三澤紗千香さん。デビューシングル曲「ユナイト」(『アクセル・ワールド』エンディングテーマ)と、2年目に作詞作曲編曲を初めてやらせてもらった「リンクス」(『とある科学の超電磁砲S』の後期エンディングテーマ)が大きく取り上げられたのは嬉しかったですね。それと同じタイミングで、アンティック-珈琲店-というV系ロックバンドのサウンドプロデュースをがっつり関わらせてもらったんですけど、それもSMPに入ったばかりの自分にとっては大きな経験値となりました。

【期間限定】三澤紗千香_2ndシングル_リンクス_MUSIC VIDEO

ーーでは、影響を受けたサウンドプロデューサーは?

古川:僕は冨田恵一さんが昔から好きですね。全ての楽器を操るプロデューサーがそもそも大好きなんですけど、冨田さんの場合は演奏力も特筆すべきものがあるなと。

千葉:僕は平田祥一郎さんです。もともと平田さんはコナミでゲームBGMを作られていた方で、そこから作家としての活動をスタートしてハロプロ楽曲のアレンジや、SMAPの「Dear WOMAN」などを手掛けているんですよ。僕自身、音ゲーが好きで、同人音楽にハマってDTMをやり始めて作家になったので、平田さんは一つの目標ですね。あとはデヴィッド・フォスターさん。劇伴からオリンピックの公式テーマソングまで手がける幅広い活動にすごく憧れていて。目標というにはあまりにも大きな存在ですが、いつかは彼のようになりたいです。

ーーお二人はコンポーザーとしてもたくさんの楽曲に関わってこられましたが、いつもどこからメロディが思いつくのでしょうか。

千葉:僕は車を運転しているときが多いですね。おそらくパソコンの前に向かっているときとは全く違う思考になっているからじゃないかと。そういうときはいつも車を停めてレコーダーを回しています。後で聞き返すと使えないものもかなり多いんですけど(笑)、いいなと思ったアイデアは家に持ち帰ってパソコンでブラッシュアップしていますね。

古川:散歩しているときとかも、リズミカルに動いているからかふとメロディが思いつくことがあります。ただそれが繁華街だったりすると、どのタイミングでレコーダーを出して回したらいいのか分からなくていつも困りますね。急に鼻歌とか吹き込み出したら、ただの変な人ですから(笑)。あとは提供するアーティストや目指す曲調によって、作曲するときの楽器を持ち替えたりもします。例えば柔らかい曲調がほしかったりするときは鍵盤で、リズム感のある曲をイメージするときはギターで作ることが多いですね。

古川貴浩

ーー作曲のオファーが来るときには、大抵リファレンス(参考曲)も同時に渡されると思うのですが、それはどのくらい参考にしていますか?

千葉:参考にしたり、しなかったり(笑)。もう何度か仕事を一緒にしていてお互いを理解している相手の場合、変化球を投げてみることもありますが、初めてご一緒させていただく場合はその変化球の塩梅が分からないので難しいところですね。

古川:基本は”参考曲と同じカテゴリに入るくらいの曲”というのを前提にして自分の色だったり得意な感じに落とし込む感じにしています。編曲だけのオファーの時はアーティストから送られてきたデモと、「こんなふうにしたいんです」みたいに渡されたリファレンス曲が全くかけ離れたイメージの時もあるんですけど、そういう時こそ腕の見せどころだなと思って燃えますね。

千葉:確かに、そういうときはやりがいがありますし、うまくいったときには達成感がありますよね。

ーー歌モノとインスト曲では作り方にも違いはありますか?

古川:あります。歌モノの場合は、まず下絵を描いてからそこに色を塗っていくようなイメージですが、インストの場合はいきなり絵の具で塗り始めるようなイメージ。一つの楽器で何か気に入ったリフやフレーズが思い浮かんだら、まずはそれをレコーディングするところから始めます。要するに、メロディという主役があるかどうかによって違ってくる。歌モノの場合は歌がその主役を演じることが決まっていますが、インストの場合はどの楽器が主役になってもいいし、場合によってはメロディという主役がないインスト曲もある。なので、弾き始めた楽器を「主役」に見立てて展開していく方がうまくいくんですよね。

ーーなるほど。最初に弾いたフレーズや音色に触発されて、次に重ねる楽器のフレーズや音色も決まっていくのは、ちょっとセッションに近い感じがありますね。一人で「脳内セッション」をしているような感覚というか。

古川:それは確実にありますね。あと、歌モノは退屈な瞬間というか、間延びしてしまうところをなるべく排除していくことが多いのですが、インスト曲の場合はそれも「込み」で作っていくことが多い。その意識の差って結構大きいと思います。とはいえ最初からあまりにも決め込み過ぎるとものすごく時間がかかってしまうので、ある程度の枠組みを作ってから細かいところを詰めていく場合が多いですね。

千葉:歌モノを単発で作る場合と、劇伴をまとめて作る場合の違いも大きいですよね。前者の場合は1曲の中で抑揚をつけたり、様々な展開を考えたりしますが、後者の場合は20曲とか30曲をまとめて作るので、全体の中で抑揚をつけていくことが多いです。しかも劇伴の場合、限られた期間にたくさん作らなければならないので、にかくスピード勝負なところもあって。そういう意味では歌モノとインストでは、作るときに考えていることや、脳内から出ている物質も違うんだろうなと思います(笑)。劇伴を作っている期間は、寝ているのか起きているのか分からないような状態になっていることは多いですし……。

古川:わかる(笑)。劇伴と歌モノを同時に作っているときとか大変だよね。ただ、僕らのように歌モノと劇伴の両方を手掛けている作家の場合、両方を行き来しながら曲作りができるのは強みだと思う。例えば歌モノの中に劇伴的な要素を入れたり、逆に劇伴の中に歌モノの要素を入れたり。

千葉:そういうフィードバックは、作っていても楽しいですよね。僕は分島花音さんのアレンジをよく担当させてもらっているんですが、彼女は非常にストーリー性のある楽曲を書くし、本人がチェロも弾けるので、歌モノとも劇伴とも言えないような、垣根を超えたアレンジをよく作らせてもらっていて。「僕にしかできない」とまでは言わないけれども、自分の強みを生かしてもらっていますね。

千葉”naotyu-”直樹

ーー実際のレコーディング現場で、ミュージシャンに演奏をお願いする際に心がけていることはありますか?

古川:サウンドプロデューサーの立場だと、まずは「誰をキャスティングするか?」が重要です。その曲にとって必要なサウンドやリズム感を、的確にイメージできるミュージシャンを集めるようにしていますね。次に心がけているのは「譜面をしっかり作る」ということ。現場ではアレンジャーもプレイヤーもエンジニアもみんな同じ譜面を見るので、そこに情報がしっかりと書き込まれてあるかによって作業が円滑に進むかどうかが決まりますから。

ーー楽曲のイメージを、全員が共有できているかどうかが重要ということですよね。

古川:はい。「音作り」ですね。演奏自体は1、2回やってもらえば基本的にOKテイクが出るような人たちばかりですので、それよりも音作りのほうが毎回時間がかかっています。ドラムもスネアをいくつか試してもらったり、ギターも何本か持ち替えてもらったりアンプを替えてみたり。エンジニアさんにマイキングを変えてもらったり。あとは、「ここ」という部分は譜面通りに演奏してもらうけど、それ以外のところは好きに演奏してもらっていますね。

 僕らアレンジャーは自分でデモを作っていると、ついつい細部まで作り込んでしまうんですけど、結局自分の頭の中で考えていること以上のものは出てこない。そこはもうプレイヤーに丸投げした方が、予想もしない面白い方向に転がっていく場合が往々にしてあるんです。

千葉:スタジオでの盛り上がりは曲のクオリティにほぼ直結しているので、そういう雰囲気作りも大切です。

古川:そこがnaotyu-はいつも上手いなあと思う。彼の現場にベーシストとして呼ばれることもあるんですけど、年配のミュージシャンがたくさんいる中でもいつも中心にいて可愛がられているんですよ。それって誰もが身につけられる才能ではないと思うので、シンプルに羨ましいですね(笑)。

千葉:みなさんにとても助けられています(笑)。

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