2021年の『NHK紅白歌合戦』が見つめ直すもの “カラフル”のテーマから考える

2021年の『NHK紅白歌合戦』が見つめ直すもの

 11月19日、今年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場するアーティストが発表された。紅白は例年、放送日の直前になって大物アーティストの追加発表がされるため、現在発表されているアーティスト以外にも出場する可能性はあるが、現時点で選ばれているリストから今年の放送への期待を記したい。

テーマは“カラフル”

 今回のテーマは「Colorful〜カラフル〜」。公式ページによれば、このテーマにはコロナによって彩りの欠けた日々から「世の中を少しでも彩りたい」という思いと、「多様な価値観を認め合おう」というメッセージも込められているという(※1)。これは非常に興味深いものだ。というのも、そもそも『紅白歌合戦』とはアーティストたちを赤と白という二色のグループに色分けして戦い合わせる男女対抗形式の企画である。その意味で、今年の『紅白歌合戦』のテーマは番組の根幹を見つめ直すようなものだと言えるだろう。

 この『紅白歌合戦』に対する多様性についての議論は、なにも今年突然噴出したものではない。最も印象的だったのは2018年の星野源だ。彼はこの年、音楽番組『おげんさんといっしょ』のスタジオを使った企画コーナー内で「紅組も白組も性別関係なく、混合チームでいけばいいと思う」と発言し反響を呼んでいた。2019年にはピンク色のジャケットを着用して登場したのも印象深い。また同年にはMISIAが、LGBTQを象徴するレインボーフラッグを背後に立てたステージで歌唱するなど、近年は出演者側からも“メッセージ”が飛び出してきている。今回のテーマはこうしたアーティスト側の動きや、昨今の時代の流れを汲んだものなのだろう。

 また性別における多様性とは別に、Awesome City Clubや平井大、King Gnuの常田大希率いるmillennium parade、まふまふなど音楽ストリーミングサービスや動画サイトで発表した作品が大きな支持を集める新鋭アーティストが初出場に多く名を連ねているのもある意味で“カラフル”を表すポイントのひとつである。特に女性アイドルグループの大手である坂道3グループと、男性アイドルグループの一大勢力であるジャニーズの面々に分け入る形で出場するBiSHとDISH//といったグループ系の新興勢力の存在はある種の多様さのひとつであり、出演者陣の多彩さを支えている。

2021年に起きた「マツケンサンバII」再評価の流れ

 そんななか、なんと言っても今年の目玉は松平健の出場だろう。「“カラフル”特別企画」と称して、2004年以来2度目の出場となる松平健。披露曲はかつて一世を風靡した「マツケンサンバII」だ。2004年に発売され一大ムーブメントを巻き起こしたこの曲。今年はすでに8月に『ミュージックステーション SUMMER FES』でも披露していて、その際もSNSで大きく話題となっていた。いったいなぜ今この曲なのか?

 「マツケンサンバII」の再評価の流れは、音楽プロデューサーのヒャダインこと前山田健一のテレビでの発言に端を発していると思われる。今年3月に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の企画「関ジャムJ-POP 20年史 プロが選んだ最強のJ-POPベスト30」にて、前山田が「日本にしか作れないクレイジーソング」として同曲をチョイス。「J-POPの素晴らしい点は色んなジャンルを節操なく取り込むところ」と前置きしたうえで、同曲の“ただただ楽しい”点を絶賛していた。その後、前山田は4月の放送でもこの曲について熱弁。これをきっかけにSNSでも話題となり今に至る訳だ。

 「マツケンサンバII」といえば、金ピカの衣装に身を包んだ白塗りの松平健が、豪華絢爛な演出で華やかに歌い上げる姿が痛快だ。すべてを忘れさせてくれる百花繚乱の世界観、何も考えずに純粋に楽しめるまさに“カラフル”なステージング。それは、今の世の中に最も欠けているものと言える。日本中からお祭りが消え、大型イベントも開催されにくくなっている今、この曲のもたらす解放感が人びとを明るくさせるに違いない。

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