田渕ひさ子、間近で見てきたアユニ・Dの成長 ギタリストとしても刺激的だったPEDROの3年間を振り返る

田渕ひさ子、PEDROの3年間を振り返る

 PEDROが11月17日に3rdアルバム『後日改めて伺います』をリリースする。12月22日の横浜アリーナ公演『さすらひ』をもって無期限活動休止することを発表しているPEDRO。活動休止前にリリースされる最後の作品となる今作は、全ての楽曲をアユニ・Dが作詞作曲しており、これまで以上に「ミュージシャンとしてのアユニ・D」「ソングライターとしてのアユニ・D」の実像を刻み込んだ一枚となっている。

 今回は、2018年の初ライブからサポートメンバーとしてPEDROを支え、アユニ・Dからの信頼とリスペクトも厚いギタリスト 田渕ひさ子へインタビュー。全国13都市14会場を回る『SAYONARA BABY PLANET TOUR』真っ最中のタイミングで、アユニ・Dの変化について、アルバム『後日改めて伺います』について、そしてPEDROというバンドへの思いについて、語ってもらった。(柴那典)

アユニ・Dに感じる“フロントマン特有の包容力”

ーーまずは2021年のPEDROの活動を振り返っていかがでしょうか。武道館単独公演『生活と記憶』もあり、2本のツアーもあり、そしてアルバム制作もあり、かなり密度の濃い時間だったと思うんですが。

田渕ひさ子(以下、田渕):そうですね。武道館が終わって、アルバムの制作に入って。8月から『SENTIMENTAL POOLSIDE TOUR』が始まったんですけど、そのうち2本がコロナ禍で振り替えになったので、次の『SAYONARA BABY PLANET TOUR』とそのまま繋がってるような日程になったんです。ただ、去年の『LIFE IS HARD TOUR』が昼と夜の1日2回公演でとにかく大変だったんで、そこでバンドとして鍛えられたような感じがあって。今もまさにツアー中なんですけど、成長している感じがします。

ーーロックバンドが昼夜2公演やるって、あまりないですよね。

田渕:なかったです。NUMBER GIRLとかだったら、やらないと思う。できません(笑)。

ーー今回のインタビューでは、田渕さんの視点からアユニさんがどう変わってきたかを振り返っていければと思います。まずはミュージシャンとしてはどうでしょう? 2018年に新代田FEVERでデビューライブをやった頃からかなり変わったと思うんですが。

田渕:全然違いますね。顔つきも違うし、技術的にも、人間的にも、全然違います。距離が近くなったというのもあると思うんですけど。

PEDRO / 「自律神経出張中」from first live “happy jamjam psyco” @新代田FEVER

ーー2019年には初のツアー『DOG IN CLASSROOM TOUR』も開催されましたが、ツアーをやるようになってから距離が近くなりましたたか。

田渕:そうですね。一緒に過ごす時間が長くなるので、いろいろ見えてくるものもあって。大変な場面を一緒に乗り越えていくので、それが多くなれば多くなるほど信頼度が高くなってくる。それはスタッフの方も含めてですけど。

ーーPEDROがバンドになっていくことをを実感したのはどんなタイミングでしたか。

田渕:ツアーを回るごとにバンド感が増していくものなので、これというタイミングはないんですけど。最初はアユニさんも、いいライブをするために何をどうしたらいいかというのが全然わからなかったと思うんですね。レコーディングで歌うのとライブで歌うのは全然違うし、毎回ハコも違う。例えばどう注文したらモニターから自分の歌が聴こえるかもわからない。「いい歌を歌うため、いい演奏をするためにはどうすればいいのか」というのがわからない。そこから回数を重ねるごとに、どう歌うのかもわかってきたし、楽器のことについても「ベースの音をもうちょっとこうしてみよう」とか、アユニさんもちょっとずつ心を開いて相談して話し合うようになってきた。だんだんライブに向けてどうするかわかってきたという感じです。

PEDRO / Dickins [DOG IN CLASSROOM TOUR FINAL] @ TSUTAYA O-EAST

ーー田渕さんがアドバイスしたりは?

田渕:あったとは思いますけど、めちゃくちゃ細かいことだと思います。「これってどうやったら音が出るんですか?」とか「どこに刺したらいいんですか?」みたいな機材のこととか。武道館の前に、バンドメンバー3人だけで10畳くらいの狭いスタジオに入って何日か練習していたこともあったんです。スタッフの方もいなかったんで、マイクを繋いだりセッティングするのも、自分たちでやって。

ーーアマチュアのバンドがやっていることと同じことを武道館前にやっていたと。

田渕:何日かやってました。そういうの、いいですよね。私はすごく好きなんです(笑)。

ーーステージ上のアユニさんについてはどうでしょう? 観ている側からは、どんどん堂々としていくように感じられましたが。

田渕:フロントマン特有の包容力みたいなものが出てきたと思います。お客さんが身を委ねていいんだと思えるようなものが出てきたというか。MCでも演奏でも歌でも、メンバーも含めてみんなが安心してライブと向き合える。

ーー歌が上手いとかパフォーマンスが巧みだとか、それとは違う佇まいの魅力ですね。

田渕:そういうのってありますよね。お客さんが「ここでノッてもいいのかな」って不安にならない包容力があるから、みんなが自由に楽しむことができる。MCも、すごく真面目に喋るんです。一緒にツアーを回って近いところで見ていても、嘘が一切ないことをちゃんと言おうとして喋っている。そういうのは本当にすごいと思います。

「自分で作る曲が増えていくのはいいこと」

ーー最初はBiSHのプロデューサー 渡辺淳之介さんに言われてベースを始めて、数カ月でステージに立ったというのもあって、「どうなるんだろう?」と見守る感じが周囲にもあったと思うんです。でも、徐々にアユニさんがフロントマンとしてバンドを引っ張っていく感じに変わっていった。

田渕:そうですね。「バンドやってみない?」と言われて始まって、BiSHの活動の中でいろいろな仕事をしているうちの一つという感じだったと思うんです。だから「やれって言われただけなんですけど」みたいなムードがもしかしたらあったのかもしれないですけれど、次第にアユニさん自身から「バンドをこうしたい」という気持ちが出てきたというか。曲も作るし、バンドを引っ張るし、ビジュアル面も含めて、PEDROがどういうバンドかというのをアユニさんが全部ちゃんと作っている。そこは目まぐるしく変わりました。

ーー人としての変化はどうでしょう? 移動だったりスタジオだったり打ち上げだったりで一緒になる場面も多いと思いますけど。

田渕:以前から真面目というか、自分が言わなきゃいけないことをちゃんと伝えてくれる一面はあったんですけど、楽屋とかでもみんなに気を遣うようなところがすごくあると思います。アユニさん中心のプロジェクトで、リーダーでフロントマンでもあるから、「その他大勢」という顔でしれっと居ることがない。先頭に立って挨拶したり、みんなに気を配ったり、「この場の当事者じゃない」みたいな顔を一切しない。本当に偉いと思います。

ーーアユニさんを見ていて、そういう面でのなんらかのターニングポイントになったことってありました?

田渕:あると思うんですけど、徐々にだと思います。私は最初に会ってから少し間が空いて、アルバムを作ったりツアーをして頻繁に会うようになってから「田渕さん好きです」って言ってもらうようになって(笑)。そこからは別人のようです。

ーー田渕さんにとっても、同じバンドメンバーからそんな風に言われる経験はあまりなかったですか。

田渕:ないですよ! そもそも今までやっていたバンドは自分が一番後輩ということが多かったし、他のバンドに呼んでもらったときも同じ世代が多かったので。こんな若い子から「好きです」「可愛いですね」と言われて……照れます(笑)。私も好きになっちゃいますよね。いつかボロが出て嫌われるんじゃないかと思ってドキドキしちゃうんですけど。

ーー好きなものを教え合ったり、共有したりすることもありますか。

田渕:音楽の話はよくしますね。お互い聴いている曲を「そういうの好きなんだ」とか「それいいよね!」みたいに教え合うような話はします。最近のものから昔のものまで。

ーー例えばどのあたりの名前が挙がったりします?

田渕:アユニさんも毛利(匠太/Dr)さんも、ライブ前にYouTubeをよく観てるんです。ライブ前に観ると、やる気が出るというか、いいライブをしようというポジティブなイメージが出てくるらしくて。私は本番前にそういうことをやったことがなかったので、「何観てるの?」って聞いたりします。毛利さんはOasisとかDeep Purpleとか、1970~90年代のバンドの映像を観ていて。アユニさんはNUMBER GIRLを観てたりしましたね。

ーーソングライターとしてのアユニさんについても聞かせてください。最初はアユニさんが作詞して松隈ケンタさんが作曲した曲がほとんどですが、『浪漫』(2020年8月)あたりからアユニさん自身が作詞作曲を手掛ける曲が増えていった。その変化はどう見ていましたか?

田渕:すごいなと思ってました。バンドを始めてからまだ3年で、そういう初期衝動的な良さを感じる曲もあったりして。どんなバンドでも初期の名曲ってあるじゃないですか。そういう感じがしてすごくいいなと思います。今しかできないからたくさん作ればいいのにと思っていたので、アユニさんが自分で作る曲が増えていくのはいいことだなと思いました。

ーーまさにバンドを結成したばかりの人のソングライティングの才能が磨かれていくのを間近で見ていたと思うんですが、それって、どういう感じのものなんでしょう?

田渕:年齢もあると思うんですけど、趣味がすごく変わっていくんです。その中で自分が好きなものというか「自分はこういう部分を大事にしていく」というのが、だんだん固まっていく。アユニさんもすごくいろんな音楽を聴いてますし、その中から自分の好きな要素が固まっていって曲ができていく。作り始めた頃の曲って、そういう要素が詰まっていて。その時期にしか出せないよさがありますよね。

PEDRO / 浪漫 [LIFE IS HARD TOUR FINAL] @ LINE CUBE SHIBUYA

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