EXILE、三代目 J SOUL BROTHERS……T.Kura×michicoが担うクリエイターとしての覚悟 「佳作どまりじゃ許されない」

音楽の前だけでは不真面目じゃない

ーー7月9日に日本で劇場公開された『唐人街探偵 東京MISSION』の挿入歌である三代目 J SOUL BROTHERSの「Welcome to TOKYO」は、「I Wish For You」と同じくmichicoさん作詞・ボーカルディレクション、T. Kuraさんとmichicoさん作曲、T. Kuraさん編曲・プロデュースです。2016年の楽曲ですが、ビートをT.Kuraさんが作って、michicoさんがトップラインを作るスタイルだったんでしょうか?

T.Kura・michico:そうです。

ーー制作時のポイントはなんでしょうか?

T.Kura: LDHから、「東京」がテーマの曲が欲しいというオーダーがあって。

michico:東京であり、江戸でもあり、みたいな。

T.Kura:そうそう、ちょっとカオスな感じが合いそうだなと考えて、近未来だったり、『ブレードランナー』っぽいものだったり、いろいろ想像して。あのときすごくダブステップが流行ってたので、どうしても入れたかったんですよね。彼らは踊る人たちなので、踊りがバッキバキに入るような音を提供してあげたいって、いつも思うんです。ダブステップのウォブルベースから考えてトラックを作りはじめたけど、ダブステップの曲ってウォブルベースの影響で1個のコードの曲が多いんです。michicoとメロディを考えたときに、やっぱり1個のコードだと、全然キャッチーにならないよねって話になって、コードをいくつも入れた覚えがありますね。

michico:東京オリンピックも控えていたので、外国から来た人にアピールしやすいタイトルを考えて。私は2、3カ月に一回日本に帰ってきていて、いつも空港に「Welcome to Japan」って書いてあるわけですよ。でも、「Welcome to TOKYO」は「ようこそ東京へ」っていう優しい感じではないんです。一筋縄じゃいかない街だから、志半ばで夢破れていく人がたくさんいて、そういう思いの上に成り立っているものがたくさんあって。東京は競争の多い街なので、その覚悟をどうぞという意味での「ようこそ東京へ」っていう曲なんです。

三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE / Welcome to TOKYO

ーー一筋縄で行かない要素も入っているわけですね。LDHのアーティストへの楽曲提供が多いですが、おふたりにとってLDHはどんな存在でしょうか?

T.Kura:ずっと自分をクオリティアップしていくことを目指している人たち。だからいつの時代も一生懸命って感じですよね。プロのエンターテイナーとして、どうやって次のものを見せていくかっていうことに、すごく真摯。今までずっと見てても本当にブレたことがないですね。

ーーかつ、音楽的な部分でも共鳴するからこそ、こんなに関係性が続いているのかなという感じがするんですよね。

T.Kura:そうですね。アップテンポでビートが効いているものが好きで作ることが多いので、ダンスも含めて体現してくれるってなると、彼らが求めているものと近いので、長いお付き合いになってるんじゃないかなって思うんですよね。

michico:アスリート並みのトレーニングを積んだり、追及度が高い。忙しくなればなるほど、レコーディングも短時間で済ませなきゃいけない状況が出て、すごい集中力をつけてきたりね。新人だった人たちが、必ずスキルを上げてくる集団で、何人もの人が育ってきて、デビュー後、大きくなって5万人の前で歌いきるのを見ると、本当に感慨深いものがあります。彼らはライブで以前の曲を何回もリバイバルしてやったり、後輩が先輩の曲をカバーしたりすることが多くて、作家としてはすごくありがたいなと思うし、リスペクトを感じられるんですよね。そこが際立ってるな、って。

ーークリエイターから見ても音楽を大事にしてくれているわけですね。おふたりが今後やりたいこと、挑戦したいことはあるでしょうか?

michico:ボーカリストはボイストレーニングを受けているんですけれども、管理するところがないんですね。健康面や歌唱法、メンタル面のケアとか、そういったことで「ボーカル管理部」を立ち上げたくて。私は歯学を学んでいたので口腔内の知識があるんです。歌唱って声帯のコントロールだけのように思われているんですけど、実は口の使い方もとても重要なんだと私は思うんです。

T.Kura:LDHに限ってしまえば、若手がエンターテイナーとしてやっていけるような環境を作れるようにサポートをしたいなと思ってます。K-POPのやり方を見てすごく思いましたね。日本のほかの事務所さんも、今までは楽曲クオリティやアーティストクオリティを上げるのに特化したやり方は取りづらかったので、それは「ここまでやっちゃっていいんだ」ってK-POPから学びました。

ーーGIANT SWINGはそろそろ30周年が近づいていますが、活動する予定はないんでしょうか?

T.Kura:今のところはないかな。

michico:もう一回やろうよ、って言ってるんですけど。

T.Kura:もともとアーティスト気質じゃないので、最初も問題提起の意味でアルバムを作ったんですよ。「日本でこういう風なものを、もっとやろうよ」的な気持ちがすごくあって。2007年に『GIANT SWING DELI』を出したときは、アトランタのミュージックシーンのいい人たちを紹介する意味で出したんです。今回はどういう意味を持たせるかっていうのは、自分の中であんまりよくわからないんですよね。

michico: 30年音楽で生きて、メンタルも変わった。私たち化石みたいに生き抜いてきてるわけじゃない?

ーー逆になんで自分が生き残れたと思いますか?

michico:ラッキーと誠実さ。私は音楽の前だけでは不真面目じゃない。すごいロクでもない人間なんだけど、音楽を前にしたときだけはすごく純粋な人間だと思っていられる。音楽を長年クリエイトし続けるっていうのは、心の負担もあって、精神の崩壊も何度も経験してるんです。メンタルの病気を抱えながらにして音楽を作ってきたんですよ。だから「I Wish For You」を作ったときも、正直言うと普通の状態ではなかった。追い詰められるんです。プレッシャーの中で、結果も絶対出さなきゃいけない。心の中じゃ、曲を作ること自体がもう怖くて怖くてしょうがないんですね。1曲を完成させることが怖くてできない時期があったんです。それでも何とか完結させる。でも、佳作どまりじゃ許されない。

ーーそんな恐怖を乗り越えられてきたのはなぜなんですか?

michico:完全なひとりではなかった。T.Kuraっていう人が常にいて、ちょっと威張りんぼだけど(笑)。でも、誘導されるんですよ。私は参謀だと思ってやってきたので、将軍が「こっち」って言ったら、そっちに合わせていろんなことをコーディネートしているわけです。私が27歳ぐらいの時に出会って、今52歳だから、25年。5年ぐらいに感じられるけど、 25年ずっと頭の上で大きな岩をグラグラ支えてる状態みたいな感じ。でも、外国暮らしなのがちょうどいいんでしょうね。

ーー外国にいるのが逆にいい?

michico:旅人っていろんなことを発見するでしょ? それと一緒。私は、アメリカにいて外国人のままだから、新しい発見がたくさんある日常で。自分は日本人気質だから、アメリカに慣れてなくて、いろいろキラキラしたものを吸収できるのかもしれませんね。

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T.Kura Sony Music Publishing オフィシャルサイト 
https://smpj.jp/songwriters/tkura/

michico Sony Music Publishing オフィシャルサイト
https://smpj.jp/songwriters/michico/

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