AI&三浦大知、歩み寄ることで築くニュースタンダード ダンスのポテンシャルが存分に発揮された刺激的なコラボ

AI&三浦大知、2021年にコラボする意義

 しかしながら、この楽曲にはもっと互いの活動を認め合うような力強い何かを感じる。というのも、近年のヒップホップやソウルなど、ブラックミュージックが浸透しつつある日本のポピュラー音楽の流れと、中学校体育でのダンス必修化や日本高校ダンス部選手権、TikTok人気、ダンスのプロリーグ『D.LEAGUE』が発足するまでに至った昨今の日本のダンス文化の流れ。これら2つの潮流が大きく影響を与えている現在の音楽エンタメ業界を考えたとき、その土台にこの2人の存在がいるという視点は、意外と見過ごされがちである。先述したAIに対して、三浦大知もデビュー当時から、まだ日本では珍しかったソロでR&Bを歌って踊るスタイルをポピュラーにすべく、活動を重ねてきたキャリアがあることから、両者はともに、“歌とダンス”をキーワードに自身のスタイルを貫き、それが世間に定着するまで戦い続けてきた2人だとも言えるのだ。だからこそ、冒頭の〈戦ってる/あなたは 誰と 何かと〉のフレーズに、その背後に連なる途方もない戦いの歴史を見出さずにはいられないのである。

AI - 「IN THE MIDDLE feat.三浦大知」"Dance Practice" with Commentary

 同曲のテレビ初披露となった8月16日の『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)では、2人が横に並んで立ち、左右で赤と青の2色に分かれた照明のステージで歌唱した。その2色がちょうど重なり合った紫色を境目として、2人が対峙するその光景は、さながら意見の異なる両者が頑なに対立し合っているかのようだ。あるいは、互いに違ったルーツを持ち、それぞれのフィールドで生きてきた2人の生い立ちを、背景に重ね合わせることもできるだろう。ダンスの動きはなめらかで、どこか力強さのなかにも“しなやかさ”を感じ取れる。途中でお互いの立ち位置が入れ替わり、最後にすべての照明が真っ白い光になると、2人は腕を突き合わせて“和解”したかのように柔らかな笑顔を見せた。

 一方で、8月20日の『ミュージックステーション SUMMER FES』(テレビ朝日系)で披露されたパフォーマンスは、それをさらにブラッシュアップしたものであった。ダンスの精度はもちろんだが、大きく異なるのがステージセットである。東京・豊洲のチームラボプラネッツ TOKYO DMMから生中継されたこの日のパフォーマンスは、まるで宇宙のような幻想的な空間で歌い踊る2人を、上下二層に分かれた画面で映し出した。上にはAI、下には三浦大知。最初はそれぞれが自由に動いているものの、途中で2人が交錯すると上下が入れ替わり、やがて合流。先述した音楽的、文化的なバックグラウンドを想像すると、ここですべてが視覚的に一点に集結したような不思議な感覚になった。ラストは同じ空間内で、息の合った完璧なパフォーマンスを披露。広大な宇宙空間をバックに、2人が積み重ねてきた歴史が重なり合った瞬間を目撃したかのようだった。

 ステージの“左右”、そして画面の“上下”で分かれて行われた今回のパフォーマンス。空間や光を駆使しながら、まさに2人の立ち位置がしなやかに移り変わる演出で視聴者を魅了していた。加えて、高い歌唱力で日本の音楽シーンで確固たる存在感を築いてきたAIが、もう1つのルーツであるダンスを軸に、華麗にジャンルを超えていく姿は、歌われているメッセージと合わせて、閉塞的な現代の壁を打ち破る希望として捉えられるだろう。この2人と同じように今戦っている誰かにも、このエールはきっと届くはずだ。

※1:https://www.billboard-japan.com/special/detail/2796#
※2:https://realsound.jp/2021/08/post-832688.html

AI「IN THE MIDDLE feat.三浦大知」

■作品情報
AI「IN THE MIDDLE feat.三浦大知」
8月13日(金)配信開始
ダウンロード/ストリーミングはこちら

AI 公式HP:https://aimusic.tv/
三浦大知 HP:http://avex.jp/daichi/

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