Silk Sonic＝ブルーノ・マーズ＆アンダーソン・パークによる高揚感 ブラックカルチャーと接続する“スケート”をテーマにした意義
ブラックミュージックと根強く繋がるローラースケート・カルチャー
2018年にアメリカの衛星放送局 HBOが制作したドキュメンタリー『United Skates』（製作総指揮はジョン・レジェンド）ではスケーティングが自身の解放を意味していたと語られ、最近ではメンフィスが生んだ世界的ダンサー＝リル・バックの自伝的映画『リル・バック ストリートから世界へ』（8月20日より日本でも順次全国公開予定）でも、ローラースケートリンクが街の若者たちの犯罪防止の役割を担っていることが言及されていた。
70年代のローラースケート場を舞台にした映画『ロール・バウンス』（2005年）も主演はバウ・ワウとニック・キャノンが務めていたし、あのN.W.Aのキャリアも始まりは地元のローラースケートリンクだった。ヒップホップやブラックコミュニティとは切っても切れない縁なのだ。
そうやって独自のカルチャーを形成するローラースケートリンクでは、クラブヒットと同様に、古くから多くのローラースケート・アンセムが存在する。タイトルが分かりやすく物語るDe La Soulのクラシック「A Roller Skating Jams Named “Saturdays”」（1991年）のように、滑っていて心地よくなるようなアップテンポの楽曲が主に好まれ、ディスコからエレクトロ、ヒップホップ、R&Bなど時代を超えた楽曲がプレイされる。ちなみに本楽曲「Skate」のリリックで登場する〈roll〉〈ride〉〈float〉〈Slide〉もすべてスケーティングを連想させるワードたちだ。
近年ではコロナ渦の影響もあってか、エクササイズとしてもローラースケートの人気が再燃。InstagramやTikTokではローラースケートで華麗にダンスを披露する動画が多く投稿され、本作のMVでも著名なローラースケートダンサーたちが軽快に滑り踊る姿が楽曲に華を添えている。以前アンダーソン・パークがゲスト参加したドモ・ジェネシス「Dapper (feat.Anderson .Paak)」やビヨンセ「Blow」などでは室内のローラースケートリンクがフィーチャーされていたが、今年に入って発表されたコモンの「What Do You Say (Move It Baby) feat. PJ」や今回の「Skate」では野外のシーンが中心となっている。音楽に乗って運動できて換気も抜群と言えるローラースケートは2021年の機運にちょうどハマるのかもしれない。
Silk Sonicといえば、楽曲と同等もしくはそれ以上に楽しいライブパフォーマンスを見せる。「Leave The Door Open」では発表直後にグラミー賞授賞式や「BETアワード」などビッグステージに立て続けに出演し、それぞれ異なる演出とアドリブを散りばめて、同じ曲でも新鮮に味わえるパフォーマンスを展開した。「Skate」もライブでどのような形で具現化され、どんなライブアレンジが施されるのか、自ずと期待が高まるばかりだ。
自分の好みのジャンルに特化し、それだけを中心に聴く音楽ライフを過ごすのが決して難しくない現代において、老若男女・人種国境を問わずにプレイされるヒット曲は生まれにくい。Silk Sonicのやっている音楽を過去の名曲の焼き直しと揶揄する声があるとしたら、それはあまりにも野暮で退屈だし、頭で考える前に体が動いて顔がほころんでしまうのが本能として明快だ。ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークが愛し、共に聴いて育ってきたように、世界中が同時に楽しめる至福のポップミュージック。それこそがSilk Sonicが生み出す音楽の魔法だ。
※1：https://music.apple.com/jp/station/silk-sonic/ra.1578309297
■リリース情報
Bruno Mars, Anderson .Paak, Silk Sonic「Skate」
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