イングヴェイ・マルムスティーン、『パラベラム』で語る表現者としてのメッセージ「自分の中のアートを吐き出さないといけない」

イングヴェイ・マルムスティーン、表現者としてのメッセージ

画家がやるように、全体像を描いている

ーーシンガーとしてもだいぶ板についてきた感が強まっていますが、シンガーとして大切にしていることはありますか?

イングヴェイ:メロディをちゃんと伝えないといけないことかな。俺の叔父は王立オペラのテノール歌手だったので、彼が音を長く伸ばして歌うのを聴いて育った。俺はスウェーデンにいた頃も歌っていたけど、あのときはそこまで歌っているわけではなかった。今はもっと本格的にやっているよ。俺はほかの誰かのようになりたいんじゃなくて、ただ正直なパフォーマンスをしたいだけなんだ。

ーーイングヴェイはギタリストとしての絶大なる評価がまず取り沙汰されると思いますが、本作を聴いてもわかるようにソングライター、メロディメイカーとしての才能も高く評価されるべきだと感じています。特にボーカルを含む楽曲で制作時に注力していることは? また、インストゥルメンタルナンバーとボーカルナンバーとでは、作曲する際に注力する点は異なりますか?

イングヴェイ:俺は、たぶんみんなが思っているよりもずっと複雑な人間なんだよ。単に走り回ってギターを弾いているだけの男じゃない。画家がやるように、全体像を描いているんだ。「おい、この半分を描くのを手伝ってくれないか?」というのはロックンロールじゃ普通のやり方だけど、俺はそういうことはしない。俺がこういう振る舞いをするのは傲慢だからじゃなくて、自分のアートを画家や作家のように扱っているから。スティーヴン・キングは自分の本の半分を人に書かせてなんかいないだろ?

ーー確かにそうですね。

イングヴェイ:例えば、ヨハン・セバスチャン・バッハが「ブランデンブルク協奏曲」を作曲したとしよう。そこへ2列目の5番目にいるチェロ奏者が、「ここはFの代わりにF#で弾きたい」と言い出した。するとバッハは「それは素晴らしいね。でもそれは、君自身の協奏曲のために取っておきなさい」と言った……もちろんこれは単なる冗談で、彼はそんなことは言わなかったよ(笑)。でも、俺が言いたいのはそういうことなんだ。

ーーわかります。

イングヴェイ:アマデウス・モーツァルト、ヨハン・セバスチャン・バッハ、アントニオ・ヴィヴァルディ、チャイコフスキー……彼らは全体像を描いたんだ。ピカソやダ・ヴィンチやレンブラントだってそう。そして、俺も同じなんだ。俺のお気に入りのバンド、Deep PurpleやThe Rolling Stones、Van Halenではギタリストがリフを考えて、ドラマーとベーシストがプレイして、シンガーがそこに歌を乗せている。それはそれで素晴らしい。Led Zeppelinはあの4人でなければZeppelinにはなり得なかった。素晴らしいよ。俺だって大好きだ。ただ、俺には完璧なビジョンがあるから、あんなふうにはやれない。いくら強力なメロディを書いても、誰かが〈Come on girl, hold on to the night〉なんて歌ったらダメ。俺には浅いものはいらないからな。

ーーでは、アートワークについても聞かせてください。ジャケットにはイングヴェイの肖像画が用いられていますが、この絵を選んだ理由は?

イングヴェイ・マルムスティーン『パラベラム』
イングヴェイ・マルムスティーン『パラベラム』

イングヴェイ:これはすべて妻のエイプリルのアイデアなんだ。コーヒーを飲んでいたエイプリルが突然、「あなたは自分の絵を描いてもらうべきよ。そしてそれをアルバムジャケットにして、絵はオークションに出して子供たちのチャリティにするの」と言ったので、俺は「わかった」と答えた。それで、デヴィッド・ベネガスという画家に描いてもらった。素晴らしいアイデアだと思ったけど、あの絵を最初に見たときは本当にぶっ飛んだね。すご~く良い出来だったから。結果にはとても満足しているよ。ありがとう、エイプリル。

ーー話題は変わりますが、イングヴェイは昨年からYouTubeチャンネルでの動画投稿に力を入れていますよね。YouTubeを通じてやりたかったこと、伝えたかったこととは?

イングヴェイ:こんなに長くツアーから離れてみて、初めて人とのつながりの大切さに気がついたんだ。俺はミート&グリートをやって来たし、ファンとはしょっちゅう会っていた。だから、彼らと話をする必要があると感じたんだ。特にみんなにとってひどい時期だからね。あとみんなには……勇気を持てというのは正しい言葉じゃないけど、何かをやりたいと思ったら、たとえやってはいけないと言われたってやるべきだってことを言いたかった。「自分の心の中に何がある?」「何を吐き出さないといけないんだ?」と問いかけて、何かがあればそれを表現しないといけない。もちろんそうする必要のない人もいるけど、自分の中にアートがあってそれを吐き出さないといけない人もいるんだ。それがギターだろうが、どんなタイプの音楽であろうとも、だよ。スポーツだって何だっていいんだ。それに対して忠告する奴は必ずいるし、蹴落とそうとする奴も大勢いる。特にこのネット時代においてはそうだろ? 日本はどうだか知らないが、こっちでは子供たちがネットでいじめを受けていて、それが大きな問題になっている。

ーー日本でも同様で、子供に限らずネットでの誹謗中傷は後を絶ちません。

イングヴェイ:そうなのか。というわけで、俺はみんなにインスピレーションを与えたいからYouTubeをやっている。それだけなんだ。

ーーインスピレーションと言えば、イングヴェイが40年近くにわたってギタリストとしてのキャリアを貫いている中で、音楽制作や創作活動の刺激になるものは、どのように変化しているのでしょうか?

イングヴェイ:変化したとは思わないな。俺にはなんだかわからないチャネリングが備わっていて、それを神だとか好きに呼んでくれていいんだけど、何かが降りてくるんだ。これは俺のテクニックや能力とは何の関係もないし、何の警告もなく俺に起こることなんだよ。テレビを観ているときに突然降りて来ることもあって、そうするとスタジオに駆け上がってレコーディングするんだ。

 俺はどんな曲だって書けるよ。MTVに求められるような曲だって、カントリーやレゲエやデスメタルだって書ける。でも、最高のものができるのは、何らかのチャネリングが起こって音楽が生まれるときだけ。そういう瞬間を俺は大切にしているし、特に今回のアルバムはすべてがそういう瞬間を通じて生まれた曲なんだよ。ほとんどのアルバムにはそれが半分しかないけど、それは時間が足りないからだな。

ーー今回のアルバム収録曲を、ライブで聴くのも今から楽しみでなりません。『GENERATION AXE』での来日(2017年、2019年)を除くと、イングヴェイの単独日本公演は2015年から実現していませんよね。現在はコロナの影響で来日公演もままならない状況ですが、ファンは本作を携えた日本でのライブを楽しみにしていると思います。

イングヴェイ:いや、俺が楽しみにしているほどじゃないだろ? 俺に連絡してくる人たちにはみんなこう言っているんだ、「俺を日本に呼びたいなら、今すぐ呼んでくれ!」って。もちろん今は無理だけど、早く行きたいよ。ここのところ1日6~7本インタビューを受けているけど、この間「あなたには日本のファンとの特別な絆がありますよね?」って言われたので、「ああ、あるよ。100%な」と言ったんだ。初めて日本に行ったときのことはよく憶えているよ。1984年1月のことだったけど、(大阪)フェスティバルホールや(中野)サンプラザでプレイしたことはまるで昨日のことのように憶えている。名古屋にも行ったな。すべて憶えているよ! 無名時代にスウェーデンを出てからまだ1年半くらいしか経っていなかったんだから、本当に素晴らしいよ。だって、若きギタリストが日本に行って、大きなことをしでかしたんだから。みんな、大好きだよ! 早く日本に行きたくて仕方がない。それまではニューアルバムを丸々聴いていてくれ。次のツアーでは新曲も昔の曲もミックスしてプレイするから。ドウモアリガトウ! 

■リリース情報
『パラベラム』
発売:2021年7月23日(金)
価格:¥3,080(税込)
【収録曲】
01.Wolves At The Door
02.Presto Vivace in C# minor
03.Relentless Fury
04.(Si Vis Pacem) Parabellum
05.Eternal Bliss
06.Toccata
07.God Particle
08.Magic Bullet
09.(Fight)The Good Fight
10.Sea Of Tranquility
※世界同時発売
※日本盤のみBlu-spec CD仕様

KING RECORDS イングヴェイ・マルムスティーン オフィシャルサイト
https://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=44583
イングヴェイ・マルムスティーン Official YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCBECXcD_7erYQLK-VSfghcA

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる