Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸、黒澤明『七人の侍』にインスパイアされた“苦しみ”の描き方 闇鍋的1曲「踊りの合図」ができるまで

ラッキリ熊木幸丸『踊りの合図』に込めた想い

「苦しみ」に向き合うことで生まれた「踊りの合図」

Lucky Kilimanjaro「踊りの合図」Official Music Video

――最新シングル『踊りの合図』の話に移りますが、表題曲「踊りの合図」も、カップリング曲「あついきもち」も、個人的には『DAILY BOP』から1歩進んだラッキリのモードを感じる2曲だなと思いました。作ったのはいつ頃だったんですか?

熊木:「踊りの合図」は今年の2月から3月くらいに着手し始めて、最終的には野音が終わったくらいに作り終えたかな。「あついきもち」も同時期ですね。

――1曲ずつ聴いていくと、「踊りの合図」は、なんというか、サウンド的にすごく不思議な曲というか……。

熊木:闇鍋みたいな曲ですよね(笑)。サンバ、ボサノバのような南米の音楽と、ハウスミュージックと、民謡的な和の要素と、トラップと……みたいな(笑)。

――どのようにして生まれたんですか?

熊木:まず、今年の初めに「ボサノバ弾きたいな」と思って、新しくエレガットを買って弾いていたんです。ただ、今の自分がいざ曲を作りだそうとすると、「ボサノバやりたいけど、普通にボサノバやってもな~」という感覚があって、そこから「ハウスミュージックとボサノバをどう混ぜようか?」と考え始めたところが、「踊りの合図」のサウンドのベースにありました。ただ、作っていくと意外と「こういう感じ、よくあるな」っていう形に落ち着いちゃったんですよね。だからボツにしようかなと思ったんですけど、その頃、映画をいろいろ見返していて、『七人の侍』を観たんですよ。「あ、この感じいける!」となって(笑)。

――あとで詳しく聞きますけど、とりあえず、はい(笑)。

熊木:半ばやけくそなんですけど(笑)、「もういいや、どうにでもなれ!」っていうテンションで歌詞を書き始めたんです。そうしたら〈苦しいでござんす〉というフレーズも出てきて、「これ、いいぞ」となって。ハウスミュージックとボサノバを足して、そこに『七人の侍』からインスピレーションを受けた和の要素も入れてみて……この気持ち悪いバランス、不完全性や未完成感が、自分としては「これ、表現としていいかもしれない」と感じたんですよね。この曲はバグったままでよくて、これを調整してしまうと曲のテーマに合わないんじゃないかって。そこから、「もっと『苦しみ』の要素が欲しい」と思ってトラップの要素を入れたりしていって。

――今のトラップの話にしても、〈苦しいでござんす〉というフレーズにしても、「苦しみ」というのがこの曲のキーだった?

熊木:そうですね。最初、ハウスとボサノバを足しただけだと、ただ気持ちいいだけだったんです。そこで「違うんだよ、もっと葛藤したいんだよ」って、トラップのビートを入れてみたら、「そうそう、この苦しみが欲しかった!」みたいな(笑)。

――何故、そこまで「苦しみ」に執着したんですか?

熊木:なんというか、気持ちいい曲ではありたいけど、ちゃんと「苦しさ」のことを気持ちよく歌いたいっていうのがあったんです。今の世界って、不安定であることが安定している状態だと思うんですよね。それぐらい価値観はどんどん増えていくし、変わっていく。価値観が定住することがほぼない。そういう前提のなかで、自分はどう在るんだろう? 自分は誰を傷つけるんだろう? 自分はどういうふうに人とコミュニケーションをとっていくんだろう? 自分はどうやって自分の存在やアイデンティティを感じ取っていくんだろう?……今って、そういう「苦しみ」をみんなが抱えているような気がするし、今後、その感じはより強まっていくと思うんです。今回のシングルは、そういう僕自身も含めた人間の「苦しみ」の在り方に対しての提案というか、「不安定さ」に対して耐性を付けたいというのがあるような気がします。

――なるほど。

熊木:例えば、よく「苦しみは未来の成功の糧である」みたいな言い方があるじゃないですか。「ここを乗り越えればいいことがある」みたいなニュアンスの。そういうのには違和感があるんです。「言っても、この苦しみはあるからな」と思うから。そういうことじゃなくて、僕がこの「踊りの合図」でやりたかったのは、今あるこの苦しみを、苦しい状態のまま気持ちいいものに変えられないのか? ということ。その結果は正直、なんでもいいんです。その結果として未来がよくなってほしい、みたいな思いを入れているわけでもない。単純に、今のこの「苦しい」という気持ちが、〈苦しいでござんす〉というフレーズによってちょっとした快楽に変わるんじゃないかっていう。そういうことを試してみた感じなんです、この曲は。

――あくまでも、今ここにある「苦しみ」に向き合うこと。それが「不安定さに対する耐性」でもある。

熊木:そうです。あくまでも、今現在の、「ここ」にある苦しみに対してどうするか。それを歌いたかった。なので、苦しみを和らげるために書いた曲でもないんですよね。そういう効果があるなら、それはそれでいいと思うけど、僕の気持ちとしては、「苦しみ」自体に新しいエッセンスを注入するっていう、それだけがやりたかった。

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