ヒトリエ、『Amplified Tour 2021』の熱量を全て出し切ったファイナル公演 “3人の音”で交わした観客との約束

ヒトリエ、3人の音で交わした観客との約束

 3人体制で初のアルバムを引っさげてのワンマンツアー『ヒトリエ Amplified Tour 2021』、いよいよ辿り着いた大阪・心斎橋BIGCATでのファイナルは、波乱含みの幕開けとなった。最初の一音が鳴り響いた瞬間、いきなりすっ転んでステージの床にダイブするシノダ(Vo/Gt)。演奏のテンションも高まってさあいくぞ、というその瞬間……シノダが「ちょっと待って!」と叫んで音が止まる。どうやらギターのトラブルらしい。

 「えー、ファイナルがこれかね? ぜってえ忘れねえ、俺、今日のこと」と話すシノダにフロアからは拍手。冒頭から予測不能な展開に、メンバーも苦笑いをするほかない。スタッフに預けたギターがなかなか戻ってこないなか、「どうしたもんかね」とシノダが独り言をいえば、イガラシ(Ba)は「ギター、いらないかも……っていうか、(アンプの横に置いてあるサブのギターを指して)そのギター、なんで置いてあるの?」と突っ込む。メンバーはじめ現場の焦りは相当なものだろうが、観ているこっちとしてはなんだか特別なものを見せてもらっている感じである。

 そんなトラブルのおかげで肩の力が抜けたのか、しばらくしてようやく戻ってきたジャズマスターを背負って、仕切り直して始めた「センスレス・ワンダー」はいきなり最高だった。前のめりの勢いと、ガチっと歯車が噛み合ったアンサンブル。ゆーまお(Dr)の刻むハイハットも、シノダのギターリフも冴え渡っている。「ヒトリエです、よろしくどうぞ!」。シノダの名乗りに大きな拍手が巻き起こった。

 そこからは『REAMP』収録曲のオンパレード。ヘヴィで破壊的なグルーヴとシノダのハイトーンボイスが鮮やかなコントラストを見せつける「curved edge」から、ゆーまおによるカウントをきっかけに疾走するアッパーチューン「ハイゲイン」へ。密度の高い3ピースサウンドが、ツアーを回って築き上げてきた強靭な三角形を描き出す。筆者はこのツアー、東京公演もこの前日の大阪公演の配信も観たが、演奏のテンションと塊感という点ではどう考えてもこの日がベスト。3人体制となって練り上げてきたバンドの形が、メンバー自身の中でも新たな確信を生んでいるのであろうことが、その出音から伝わってくる。そして何よりシノダの放つ熱量。オープニングのトラブルを取り戻そうという気持ちもあったのだろうが、目で見えるよりも10メートルくらい前で歌っているような近さを感じるパフォーマンスである。

「転んだってまた立ち上がればいいということを、まさかこのツアーファイナルで教えられるとは思ってもいませんでした。走り出したからには最後まで駆け抜けていきたいと思います」

 そんなシノダの言葉は、先ほどの事件に対するセルフツッコミであると同時に、ここまでのヒトリエの歩みを総括するものでもある。まさにこのツアーでヒトリエが見せてきたのは、再び立ち上がったバンドの姿に他ならなかったのだと思う。シノダがハンドマイクで歌い出したのは「bouquet」。音源の何倍もエモーショナルに響くこの曲の変化が、バンドの充実ぶりを物語っているようだ。

 『REAMP』はそのタイトルが象徴するように、wowakaとともに歩んできた歴史をリスペクトしながらも、3人でもう一度ロックバンドを始めていこうというアルバムだ。ヒトリエというバンドのパブリックイメージに固執することなく、この3人だからこそ鳴らせる音、生み出せる曲に徹底的に向き合ってでき上がった。そんなアルバムに込めた意思が、ステージ上で次々とむき出しになっていく。抑制されたメランコリックな音の連なりが、かえってそこに注ぎ込まれた想いの激しさを感じさせる「tat」(この曲のシノダのギターソロは本当に泣ける)、穏やかなギターのストロークと優しげなベースラインが切ない「うつつ」は中盤におけるハイライト。とりわけ「うつつ」のシノダのボーカルは壮絶という言葉がぴったりの素晴らしいものだった。

シノダ
イガラシ
ゆーまお
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