Night Tempoが語る、中山美穂という“個性”　日本の80年代カルチャーと音楽への深い愛

文・取材＝森朋之

“真ん中”を見つけることが大事

ーーそして「WAKU WAKUさせて」も中山美穂さんの代表曲の一つ。

Night Tempo：「WAKU WAKUさせて」も挑発的な女の子のイメージですね。昭和のコンテンツは、音楽もドラマもアニメも、どんどん刺激を求め続けていた印象があって。「WAKU WAKUさせて」もすごく刺激的だし、それを表現できる中山美穂さんもすごいと思います。他のアイドルには歌えなかった曲だし、歌ったとしても話題にならなかったんじゃないかなと。それくらい、美穂さんが個性的だったということですね。女性らしいバラードからかわいらしいポップスまで、いろいろなタイプの曲を自分のものにできる方だと思います。

ーー作詞の松本隆さん、作曲の筒美京平さんは、日本のポップスに名を刻む才能。このお二人については、どんな印象を持っていますか？

Night Tempo：松本隆さんは女性アイドルの楽曲もたくさん書かれていて。どうして女の子に合う歌詞がこんなに書けるんだろう？　とずっと考えています。僕も今、自分のアルバムを作っていて、女性のシンガーに歌ってもらう曲もあるんですが、歌詞を書くのにすごく苦労しているので。筒美京平さんは、歌う人の声に合わせた曲を作り続けた方。それはすごく難しいことだし、それまでになかったものを生み出し続けたことは素晴らしいと思います。「WAKU WAKUさせて」は、船山基紀さんの編曲も大好きです。僕はもともとリミキサーなので、編曲が気になるんですよね。船山さんはWinkの曲もほとんど編曲されていて、それも素晴らしいです。

ーー「WAKU WAKUさせて」も完成度が高い曲だし、リエディットするのは大変だったのでは？

Night Tempo：失礼にならないようなトラックにしたいと思っていました。変え過ぎてはダメだし、かといって変化がなさすぎるのもヘンだし。もっとバキバキの音にしたり、サンプリングを使う方法もあったんですが、「これだとやり過ぎだな」と思ったり、何回もやり直したんですよ。やはり“真ん中”を見つけることが大事なんですが、結局、自分の色はそれほど入れず、少しアップデートさせたトラックになりましたね。

ーー中山美穂さんのアーティストとしての魅力についても聞かせてもらえますか？

Night Tempo：まず、声に特徴がありますよね。声質がシャープだから、サウンドに埋もれず、はっきり分別できるんです。あと、強い女性のイメージがあると思います。当時の女性アイドルは、やわらかく、かわいらしいタイプが多かったですが、美穂さんは10代の頃から大人っぽくて。彼女が出演しているドラマもビデオテープで観ましたが、とてもおもしろかったです。

ーードラマもチェックしてるんですね！　中山美穂さんはファッション、メイクなども、他のアイドルとは一線を画していました。

Night Tempo：派手ですよね（笑）。写真集も持っていますが、（写真集の内容は）ステージの雰囲気とはちょっと違っていて。僕はやはりテレビ番組やコンサートで歌っているときのファッションが好きです。当時流行っていたフワフワでかわいい衣装ではなく、トレンディでお洒落な服を着こなしていて。強い色も似合うし、今観てもカッコいいですね。

ーー中山美穂さんの楽曲のなかで、他に好きなものは？

Night Tempo：一番は「Withces ウイッチズ」ですね。7インチ（アナログシングル）を何枚も持っているんですが、本当にカッコいい曲です。作曲のCINDYさんのことも、角松さんと同じくらい好きで。もう亡くなっているんですが、彼女のアルバムも素晴らしいので、いつか「昭和グルーヴ」でリエディットさせてほしいと思っています。みなさんにもぜひ聴いてほしいですね。

ーーでは、中山美穂さんに新曲を作るとしたら、どんな曲にしたいですか？

Night Tempo：“今”のサウンドで歌ってほしいですね。僕はダフトパンクが好きなので、フレンチエレクトロやハウスなどを取り入れたトラックで、中山美穂さんに歌ってもらえたら嬉しいです。

ーーぜひ聴いてみたいです、その曲。それにしてもNight Tempoさんは、80年代のポップスやアイドルをめちゃくちゃディープに研究してますね。

Night Tempo：そんなすごいことではなくて、ただオタクをやってるだけです（笑）。細かく分析や研究をするのは、オタクとしてそれほど楽しいことではなくて。いろいろな曲を聴いて、一人で楽しんでいるというか（笑）。それを10代から現在までやり続けているという感じですね。

ーーなるほど（笑）。80年代の日本のカルチャーに惹かれ続ける理由はどんなところにあるんですか？

Night Tempo：あの時代の雰囲気が好きなんですよ。音楽はもちろん、映画やドラマ、ファッション、電子機器や家電もそうですが、すごく刺激的で。視覚的に惹かれるものを追いかけているところもありますね。

ーー見た目も大事だと。

Night Tempo：デザインですよね、つまり。映画のポスターだったり、ウォークマンやカセットテープもそうですが、80年代の日本にはデザインがカッコいいものが多くて。それは日本人のみなさんの誠実さ、細かいもの作りによって生まれたものだと思います。日本のカルチャーはある意味、80年代に完成しているような気がしますね。

ーー最後に今後の活動について。最初の話にもありましたが、「昭和グルーヴ」シリーズは今後も継続するんですよね？

Night Tempo：はい。すでに決まっている楽曲もあるし、制作も続いています。自分のアルバムも同時に作っているので、かなり大変ですね。

ーーオリジナルアルバムは、どんなテイストに作品になりそうですか？

Night Tempo：テーマは、日本のシティガールですね。80年代を生きていた都会の女性を描くアルバムにしたくて。一番のインスピレーションは、やっぱり角松敏生さんの音楽。その他にも、いろいろな日本の音楽に影響を受けながら制作を進めています。

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