東京事変、10年ぶりのアルバムがチャート好調 時代の空気を切り取る椎名林檎ならではの“自作自演”

 長くなりましたが、そんな東京事変の久しぶりのアルバムです。『音楽』もまさに東京事変にしかありえない「バンドであることのスリルやバトル」の極み。1曲目「孔雀」がいきなりラップから始まることにも驚くし、2曲目「毒味」もメインは歌なのか亀田誠治のベースなのか判断がつかないようなファンクチューン。6曲目「青のID」に至っては、主役は間違いなく伊澤一葉の鍵盤でしょう。〈一層突き破りたい壊し足りない思い知りたい〉と暴れる歌詞よりも、鍵盤が派手にアジテートをし、奔放な振る舞いを見せているのです。これぞバンド! 相互作用によるケミストリー! そんな快感が全曲で楽しめます。

東京事変 - 緑酒

 そんな楽曲の中でも興味深かったのが、3曲目の「紫電」。〈若い世代を憂うのは日本の伝統です〉から始まり〈わたし新しくて結構利口です〉〈切れ味冴える獰猛性はぼかします〉〈どうでも良くて厭ダサい煩い古臭い〉など辛辣な言葉が並ぶナンバー。冒頭に書いた「うっせぇわ」にとてもよく似ている、ような気もします。

 ただこの曲、行き場のないフラストレーションをぶちまける曲にはまったく聴こえないんですよ。とても品があって、言葉と音が気持ちよく溶け合っていて、音がふっとなくなる空間にこそ芳醇な余韻があって。後半は歌詞よりもドラムこそが主役になる展開もある。なんて見事なポップス的大衆性と個人的毒性の同居。「わたしが主人公」ではないってこういうこと。時代の空気を遠慮なく、むしろエグいまでに切り取りながら、ただ否定や拒否のアルバムにはしなかった。あぁ、これが椎名林檎の自作自演! と膝を打ちました。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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