V6『僕らは まだ』90年代をキーワードに土岐麻子、Rin音、ReN参加曲を紐解く 3曲が映し出す過去との別れと化学反応

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 6月2日に発売されたV6の通算53作目となる最新シングル『僕らは まだ』が多くのメディアに取り上げられ話題となっている。今年11月をもって解散を予定している彼らが、表題曲にて〈僕らはまだ未完成さ〉と歌うことに胸が打たれる者も多いのではないだろうか。しかしその一方で、ひと際目を引くのがこのシングルに収録されているその他の楽曲である。「僕らは まだ」と並び両A面を飾る「MAGIC CARPET RIDE」の作詞には土岐麻子が、「95 groove」の作詞作曲にはTikTokなどで若者から絶大な人気を誇るラッパーのRin音が、「Heart Beat Groovin’」には様々なエフェクトを用いたギターの演奏で注目のシンガーソングライターのReNが、それぞれ参加。こうした異色とも言えるコラボレーションによって、今回のシングルは単なる人気グループの新作以上の意味を帯びたように思うのだ。

 たとえば、「MAGIC CARPET RIDE」はベースがうねるグルーヴ感抜群のサウンドの一曲で、歌詞には新しいステージへと飛び出そうとしている現在の彼らの前向きな姿勢がよく表れている。なかでも冒頭、青山のキラー通りで見かけた“過去の自分”が、主人公に問い掛けてくる場面で飛び出す以下のフレーズが印象的だ。

〈((You stepped out of the 90s))〉
(君は90年代から抜け出した)

 作詞を手掛けた土岐は、1997年に結成しポスト渋谷系の代表格として人気を誇ったバンド、Cymbalsのボーカリスト。Cymbalsは2004年に解散してしまったが、近年になってアナログレコードが再発されるなど、解散から20年近く経とうとしている今でも支持され続けている伝説的なバンドだ。まさに“音楽だけは時間を超える"を体現する存在である。

 「90年代から抜け出した」とは、要するに「過去の栄光にとらわれなかった」ということだろう。それはつまり、バンド解散後もソロ活動を続けた彼女が、同じ時代を歩んだV6というグループに向けた痛烈なメッセージであり、最大のエールでもある。ソロになってからもジャズのスタンダードやJ-POPのカバー、あるいはシティポップを再解釈した新しい作風などで評価を獲得し、年々歳を重ねるごとに魅力が増している土岐。そんな彼女が書いたからこそ、この言葉には説得力がある。

 加えて、沖井礼二や矢野博康といった元Cymbalsの他のメンバーもまた、アイドルソング〜アニソンといった現在の日本のポップミュージックシーンで優れたセンスを発揮している。Cymbalsが活動を続けていたら……と夢想することもいちファンとして正直無いわけではない。けれども、その血が流れる作品を様々な場所や形で楽しめる現状も悪くないのだ(というかむしろ良い)。

 そもそもこの「MAGIC CARPET RIDE」という曲名は、90年代に一世を風靡したピチカート・ファイヴの「マジック・カーペット・ライド」へのオマージュだろう。原曲は、深く愛し合う二人がやがて訪れる“別れ”を意識しながらも永遠を夢見るという、絶望と希望とがない交ぜになった名曲だが、土岐は今作で、間もなく“別れ”がやってくるV6にその独特の気分を重ね合わせたのだと思う。

 永遠に思えたグループ活動。しかし突然やってきた解散という現実……けれどこれからも音楽は永遠に残り続けるでしょう、私(土岐)自身が身をもって実現してきたように、と。

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