細美武士とTOSHI-LOWをつなぐ、深く太い“縁” the LOW-ATUSとして生み出す言葉の先にあるもの

細美武士とTOSHI-LOWを結ぶ“縁”

自分の言葉を一生懸命獲得すべきだと思う

一一ふふふ。あとはメッセージソングも後半いくつか出てきます。どう書くかはセンシティブな話になりますよね。たとえば〈原発〉とか〈差別〉って言葉を使うことに対しても。

TOSHI-LOW:the LOW-ATUSで歌ってきた場所、福島とかも多いしさ、それ出すのも俺らの中では自然だった。こういうフォーキーなサウンドってある意味乗せやすくて、ポロンと「嫌なものは嫌だ」って言える。普段話してることと、生ギターでポンと出すことの距離が近いというか。バンドの音でやるよりも目の前に出しやすい。でもこれ、メッセージっていうより普段話してることだからね?

一一うん。重たくは聴こえないです。どれも楽しく響く。

TOSHI-LOW:だって楽しいんだもん。楽しくなきゃやってない。

細美:あとTOSHI-LOWは、MCもそうだけど渡し方が上手いよね。ほんとに渡したいものを受け取りやすいような容れ物に入れてあげられる。これは才能だと思う。

一一そのあたり、TOSHI-LOWくんはどこまで頭で考えてるんですか?

TOSHI-LOW:考えてない。

細美:直感的にやってるんじゃない? なんつうの? 人と人とのやり取りで、喧嘩であろうと言葉を介したコミュニケーションであろうと、自分なりのやり方とかロジックって、人間として生きてりゃ確立されていくじゃん。その練度がすごく高いんだと思う。

一一それって被災地で身をもって掴んでいったことなんですか? 絶望してる人に寄り添おうとしても、最初は声のかけ方もわからないですよね。

TOSHI-LOW:そもそも俺たち、とっくの昔に世界になんて絶望してるから。自分の思いが100%伝わることなんか一回もないし、思い通りになるどころか、理解できない人たちばっかりで。そういう世界を諦めてしまうのか、「そんなもんだよ」って思いながら、されどそこに生きてるわけだから、じゃあどうするか考えるのか。昔だったら「もういい、こんな世界終わっちまえ」って言ってたし、自分の人生も諦めればいいと思ってた。でも震災があって、自分たちの精神的問題なんか関係なく、状況的にモロ困ってる人たちがいっぱいいてさ、その中で汗かいて体動かしてる途中に気づくことがいっぱいあって。その根底には、自分の人生を「もういいよ」って諦めかけた経験があると思う。自分自身が終わるんじゃないかっていう景色が。

細美:言葉って、コミュニケーションツールとしてはすごく不便で、ほんとに言いたいことが相手に伝わるなんて、あんまり期待できないぐらい難しいツールだよね。だからこそ丁寧に伝えなきゃいけないし、あとは誤解もしょうがねぇっていう思い切りの良さがないと何も言えなくなる。結局人間同士、心の中で感じてることを100%共有はできないじゃん。でも分かり合うことへの欲求っていうのはどうしてもあって、それが言葉を使うことだから。だからこそ、自分の言葉って一生懸命獲得すべきだと思うんだよね。

一一わかりあえない絶望や諦念が先にあるからこそ、考える。

細美:うん。震災後にその熟練度が増したのか自分たちではわからないけど、ただ、一緒に反戦歌とか10年くらい歌ってきて、たとえば高田渡さんの「自衛隊に入ろう」を歌い出した瞬間、the LOW-ATUSを見たくて来たはずのお客さんがゾロゾロ帰っていく光景もいっぱい見てるから(笑)。そういう経験値を今までthe LOW-ATUSで重ねてきたとして、それがこのアルバムに発揮されてるんだとしたら、それはとても嬉しいことですよね。

一一いい温度だと思いますよ。どんな言葉もスッと入ってくる。

細美:そういう感覚に人一倍TOSHI-LOWは敏感っていうか。いいこと言ってるみたいなのに一個もこっちに伝わってこない人もいるし、その逆もあって、口ではクソみたいなこと言ってるけど気持ち入ってるなぁってわかる言葉の使い方とかさ。で、今回TOSHI-LOWは歌詞書く時、確かに〈原発〉とか〈戦争〉って単語を入れるけど、実は本当に渡したいものが他にあるから、あえてそれを先に出したりもしてるんだよね。それは本能的にやってるんだろうなと思う。

一一ええ。大事なのは〈原発〉って言葉が入ってるかどうかじゃなくて、その後に来る世界を諦めたくないっていう思い、あとはそれを受け取る側の問題なんだってことで。

TOSHI-LOW:そうね。原発とか戦争の話も、別にそれを知ってるからどうこうじゃなくて、知ったあなたがどうするかのほうが重要で。俺たちも別に啓蒙したいわけじゃない。いつだって決めるのは受け手の人たちだから。それはthe LOW-ATUSをやることでできた腹の括り方ではあるね。

一一あとは「いつも通り」がラストに来ることに、すごく希望を感じますね。

細美:コロナになってからもわりとずーっと一緒にいて、仕事もないのにしょっちゅう会って飲んでる奴に、なんでいまさらラブソングを書いてるのかって自分でも思うんだけど(笑)。ただ、俺が寂しいと思うのは旅に出られないってことでさ。今も早く旅に出たいなぁって思ってるし、それが一番楽しみ。だからすごく正直に、俺はこのthe LOW-ATUSをやる時のいつもの気分、「好きなように振り回してくれ俺のこと」って思ってるから、それをそのまま歌詞にした。

TOSHI-LOW:今「振り回してくれ」って言ってたけど、俺も振り回されてるからね、酩酊した細美さんに(笑)。でもそれも自分たちの「いつも通り」。はっきり言うと震災だろうがコロナだろうが「いつも通り」なのさ、っていうか。でもみーちゃんの曲って永遠性とか普遍性があるから、どこ行っても伝わると思う。俺に書いてくれたものであっても、そうじゃない他の人たちにもちゃんと伝わるから。そこは素晴らしいなと思ったよ。聴いててグッと来る。

一一素敵なラブソングですよ。正直、照れませんでした?

TOSHI-LOW:全然。もっと欲しい(笑)。なんなら名前入れた「TOSHI-LOW」って曲が欲しい(笑)。

細美:あぁ、ちゃんとね。もっとはっきり言って欲しいっていう(笑)。

一一ははは。素朴な疑問だけど、なんでそこまでウマが合うんですかね。

細美:なんだろうね? 単純に俺の目線でいうと、俺はけっこう形がイビツだから、俺の中での当たり前とか普通って、他の人と擦り合わないことがすごく多いんですよ。その場合いつも「なんでそうなんですか?」って聞かれて説明しなきゃいけないし、全部話すの面倒くさいじゃん(笑)。でもTOSHI-LOWだと1から10まで話さなくても誤解が生じない。説明する必要もないっていうか。すげぇ安っぽい言葉で言えば同じ側にいる感じ。そういう人間って意外と少ないんだよね。

TOSHI-LOW:もちろん全部思想が合うわけでもないんだよ。仲いいけど、一個一個話していけばすれ違うこともあるし。でもそんなのどうでもよくて。山の登り方と同じで、どのルート辿ってもいいけど、同じところ目指してるんだっていう安心感がずっとある。行き着く先が似てる、同じ風景を見てるなって確信があるから。

細美:俺は「縁」っていう日本語が好きなんだけど、それも絶対あると思う。で、縁って0か100かじゃないし、それぞれ濃さや深さも違うんだろうけど。ただ、TOSHI-LOWと俺の縁はだいぶ深いっていうか、太いんじゃないかなと思う。輪廻転生をまるっきり信じてるわけでもないんだけど、もし前世があったとしたらきっとそこでも一緒にいただろうし、次の人生でもまた「なんか足りないな」っていう気分で会えるまで探し続けるんじゃないかな。そういう縁だって考えてますね。

■リリース情報
『旅鳥小唄 / Songbirds of Passage』
発売:2021年6月9日(水)
価格:2,500円(税込)
1. 通り雨
2. サボテン
3. 空蝉
4. 思草
5. ダンシングクイーン
6. みかん
7. オーオーオー
8. 丸氷
9. 君の声
10. ロウエイタスのテーマ
11. いつも通り

【アナログ】
<RSD Drops>2021年7月17日(土)発売
・LP 3,500円(税込)
Side A
1. 通り雨
2. サボテン
3. 空蝉
4. 思草
5. ダンシングクイーン
6. みかん

Side B
1. オーオーオー
2. 丸氷
3. 君の声
4. ロウエイタスのテーマ
5. いつも通り

・RECORD STORE DAY詳細
イベント名:RSD Drops
開催日:2021年6月12日(土)、7月17日(土)
詳細はオフィシャルサイトにて:https://recordstoreday.jp/

■ライブ情報
『the LOW-ATUS「旅鳥小唄ツアー2021」』
6月15日(火) 大阪 Zepp Namba
6月17日(木) 名古屋 DIAMOND HALL
6月21日(月) 札幌 Zepp Sapporo
7月2日(金) 新木場 USEN STUDIO COAST
7月19日(月) 福岡 Zepp Fukuoka
and more…
※各公演は、時短要請などの状況にあわせ変更の場合あり
 
チケット一般発売日:5/29 (土)

the LOW-ATUSオフィシャルサイト

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