コロナ禍で爆誕したZoomgals 令和ギャルサーが打ち出す“生きづらさ”と“自己愛”の共存

 2020年1度目の緊急事態宣言下、valknee、田島ハルコ、なみちえ、ASOBOiSM、Marukido、あっこゴリラのラッパー6人がマイクリレーで制作した楽曲「Zoom」をきっかけに、令和のギャルサーZoomgalsが爆誕した。このような環境下でギャルサーが爆誕したこと自体が“約束されたブチアゲ”だが、公式YouTubeを見ると「超わかる」「めっちゃ勇気出る」「何回みても楽しい」などエンパワメントされた旨のコメントが並ぶなか、「なんで私はこの中に居ないんだろう」という“一緒に横に並びたい”旨のコメントも散見された。本稿ではZoomgalsがリスナーをエンパワメントすると同時に“一緒に横に並びたい”と思わせる理由は何なのか、歌詞に注目して読み解いていく。

キャッチーさに惹かれ、そのリアルさに共感

Zoomgals『生きてるだけで状態異常』(feat. valknee, 田島ハルコ, なみちえ, ASOBOiSM, Marukido, あっこゴリラ & CARREC)
Zoomgals『生きてるだけで状態異常』

 まず、Zoomgalsのファッションやヘアメイクはとてもカラフル。そして「生きてるだけで状態異常」のMVは“どれだけデコれるか”が勝負だったプリクラやガラケーといったY2K文化を彷彿とさせ、2000年代を知らない人間には新しく映り、知っている人間には懐かしく映る。それは歌詞にも言えることで、「Zoom」には〈記念カキコしてきなBitch〉という、個人・友人同士・クラスでガラケーを駆使して作っていたHPを思い出させるラインがある。そしてギャルのHPにはたいてい上部に「鬼絡み強制」「キリ番踏み逃げ禁止」と並んでこの“記念カキコ”を促す文言が書かれていた。これらは“HPにアクセスした人は掲示板に書き込め”という2000年代特有の文化だ。Y2K文化のリバイバルも手伝って、Zoomgalsは非常にキャッチーな存在に見えるだろう。

Zoom - valknee, 田島ハルコ, なみちえ, ASOBOiSM, Marukido, あっこゴリラ

 しかしいざその音楽に触れてみると、その内容は2000年代に青春を過ごしたZoomgalsが今日までに感じてきたリアルそのものであった。思うに、グループ(サークル)の強みのひとつとして、メンバーそれぞれの人生が交わることで、より多くの人の共感を得られることが挙げられる。それが聴いた人の人生とリンクして「超わかる」に繋がるのであろう。実際、私はアイドルファンであるvalkneeの「SUPER KAWAII OSHI」MVを観て、自分も推しに向けて曲を作っていた経験から(私がいる……?)と共感し、そこからZoomgalsに興味を持った。すると“生きづらさ”や“エンパワメント”な歌詞が並ぶなか出てくる〈寿蘭ちゃん一生崇める みほなはマリア〉〈フェイバリットなあいつは寝てるかな スポギャルの美由並みに一途に愛す〉という藤井みほな『GALS!』への強い愛に、私は「超わかる」と頷いたのだった。

valknee - SUPER KAWAII OSHI (MV)

生きづらい世の中で自己愛を持つことに共鳴

 それでは、まず“生きづらさ”について踏み込んでいこう。Zoomgals名義初となる楽曲「生きてるだけで状態異常」には〈朝起きてすぐ死にたい〉〈ポリスより怖い近所の主婦 昼間に帰るとジロジロ見る 大学中退モーマンタイ Slackまでもハブられて 豊島区鬱の相談会〉〈起床即毎日ヒットポイント0 から起き上がり(ウー)に5時間かかり(アー) 気付いたら夕方行くメンクリ でけえ音に基本めっちゃビックリ(うわっ) なんでも過敏(破裂音)で頭痛に下痢〉と身に覚えのある内容がズラリと並ぶが、特徴的なのは同じ曲のなかで〈あたしのカムバ待ってるギャルのため 横になって整えるメンタル〉と自己愛を提示していることだ。それは次の楽曲「GALS feat. 大門弥生」においても同様で、〈いま死んでも来世はビヨンセみたいになれないから生きるmy self 「自分大事に〜」がぎゃるちゃんのおきて♡ 鉄則とか知らねえ〜わ I'm not おk♡〉と“生きづらさ”と“自己愛”が共存している。自己愛はHIPHOPで頻繁に扱われる自己賛美(セルフボースティング)と親和性が高く、ラッパーが6人集ったZoomgalsが打ち出すメッセージとしてピッタリだ。コロナ禍で生きづらさが増している今、コロナ禍で爆誕したZoomgalsが放つからこそ、そのメッセージはより説得力を持ち、リスナーが自分ごととして「めっちゃ勇気出る」と共鳴するのではないだろうか。

横の繋がりで世の中を変えていくことに共振

 Zoomgalsの歌詞のもうひとつの特徴として、価値観のアップデートやあらゆるボーダーの破壊といった“エンパワメント”が挙げられる。Zoomgals全員の楽曲は2021年5月現在「Zoom」、「生きてるだけで状態異常」、「GALS feat. 大門弥生」の3曲だけだが、〈ルッキズムの沼で溺れちゃ令和 Over game〉(「Zoom」)、〈若いだけでチヤホヤして来る奴は 関わりたかねー〉(「生きてるだけで状態異常」)、〈令和は横社会You know?〉〈うちら誰かの所有物じゃねえ 1人で立ち手つなぐ〜!〉〈ジャンル分けも野暮になる するもされるもジャッジがどうでもいいなー〉〈年齢なんてnumber 好きにやるわっ〉(「GALS feat. 大門弥生」)とパンチラインの連続である。

Zoomgals - 生きてるだけで状態異常 (MV)

 そして〈晋ちゃんとおうちでダンスとか無理〉〈選挙は大事 学びまじくやしー〉(「Zoom」)〈いまどきカフェでtalking about 政治〉と、積極的に政治に参加して生きづらさをなくしていこうという姿勢を打ち出している。特に〈生きてるだけですごいでしょ〉(「GALS feat. 大門弥生」)という歌詞には痺れた。実際に私自身、理不尽な目に遭うたびに(は? “生きる芸術”の私に今何をした?)と内心キレても、実際にそれを口に出すことはなかなかできない。Zoomgalsはあくまで各々が選んだ表現をしているだけなのに、それが“マジ”だからこそ、あたかも自分の代わりに言ってくれたような気持ちになる。そして「なんで私はこの中に居ないんだろう」とZoomgalsを親友のように感じ「自分も好きにやろう」と共振するのではないだろうか。

Zoomgals - GALS feat.大門弥生 (YAYOI DAIMON)

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