悠木碧が声優業で培った七色の声とテクニックとは? 唯一無二たらしめる、これまでの歩み

声優業で培った七色の声とテクニック

 近年は、『僕の彼女がマジメ過ぎるしょびっちな件』(AT-X、TOKYO MXほか)、『ヲタクに恋は難しい』(フジテレビほか)、『彼女、お借りします』(MBS・TBS系)など、ラブコメ作品で安定感のある演技を披露する一方で、先述した『蜘蛛ですが、なにか?』など異世界転生ものの作品にも出演している。

 『幼女戦記』(AT-X・TOKYO MXほか)では、エリートサラリーマンが転生し、軍人としてキャリアを積んでいくターニャ・デグレチャフ役を怪演。ターニャとして歌ったエンディングテーマ「Los! Los! Los!」は、ドイツ語や〈殲滅だ!〉などのセリフを交え、たたみかけるように歌う。頭脳明晰なターニャが無慈悲に戦場を闊歩する狂気が、見事に表現された1曲だ。

 『蜘蛛ですが、なにか?』は、蜘蛛に転生してしまった「私」が、過酷なサバイバルを乗り越え成長しながら世界の真実を知る物語。悠木は、体担当や魔法担当など4役の「私」を一人で演じ、超ハイテンションな一人語りを繰り広げている。「私」として歌った前期エンディングテーマ「がんばれ!蜘蛛子さんのテーマ」は、アイドルソング、演歌、メタル、テクノがミックスされたハイパーなナンバーで、同曲で聴かせる早口はまさに神業だ。同様に後期エンディングテーマ「現実凸撃ヒエラルキー」は、デスメタル調のラウドなサウンドに乗せ、声優生命を賭けて、喉がはち切れんばかりのスクリームやデスボイスを聴かせている。

TVアニメ「蜘蛛ですが、なにか?」EDテーマ「がんばれ!蜘蛛子さんのテーマ」歌:「私」(CV:悠木碧)

 また、『スライム倒して300年』オープニングテーマ「ぐだふわエブリデー」は、悠木のソロ最新曲。異世界に転生した主人公が、のんびり生きたいのにレベルMAXがゆえに、いろいろなことに巻き込まれていく、アットホームな作品だ。「ぐだふわエブリデー」は、ジャズロックの軽快なサウンドに乗せて、ふわっとしたボーカルやコーラスを聴かせ、主人公の状況を早口でまくしたてるところはいかにも悠木らしい。同曲のカップリングに収録された「異世界管理局創造課」もまた、これまでの多彩なボイステクニックが総動員された悠木碧印と呼べるものだ。悠木が作詞を手がけ、異世界転生ものを数多く演じている彼女だからこそのユーモアがたっぷりと込められており、最後のオチがぞわっとする。

悠木碧 / ぐだふわエブリデー(TVアニメ「スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました」オープニングテーマ)
悠木碧 / 異世界管理局創造課(Official Lyric Video)

 声優業と音楽活動を明確に分ける人もいるが、彼女の歌には必ず声優としての悠木碧が見え隠れしている。声優業で培った七色の声とテクニックが凝縮された悠木の歌は、いずれも本人しか歌えない歌ばかりだ。声優としての心意気が、彼女の歌を唯一無二たらしめている。

■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

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