NHK『SONGS』制作統括に聞く、リニューアル後も変わらない軸 番組における大泉洋の役割も

NHK『SONGS』、変わらない番組の軸

大切にしているのは“歌に向かって番組を作る”こと

――4月からは放送時間も45分に拡大していますよね。

加藤:去年の秋ごろ編成から内々に土曜日の夜11時〜30分から木曜日の夜10時半〜45分に枠を移動しないかと言われて。その時は、正直無理だと思いました(笑)。『SONGS』は14年間、25分から30分の番組で。今回45分番組になるにあたって、結構スタッフと議論をしました。

 その頃ちょうど松田聖子さんがデビュー40周年を迎えて、『松田聖子スペシャル』を作ることになって。松田聖子さんというアーティストの40年を『SONGS』で括ると、いつも通りの『SONGS』だから「こんばんは、松田聖子です」で始まる一大ヒストリーでもいいわけですよね。でも『松田聖子スペシャル』では、もちろん聖子さんは出るんですけど、彼女を支えてきた関係者、松本隆さんや松任谷由実さん、財津和夫さんそして篠山紀信さんの証言で綴るドキュメントにしたんです。スタジオで聖子さんがそれぞれの証言者のVTRを見て自分の40年をじっくり振り返る演出。結果的には高視聴率を記録する事ができました。それまでの『SONGS』がアーティストの一人称で自らを語るスタイルだとしたら、これからは複眼的に、立体的にアーティストを掘り下げて、それを受けて大泉さんとアーティストが語るというスタイルに演出を変えたんです。

 例えばいきものがかりの回では、ずっと担当してきたディレクターやアレンジしてきた本間昭光さんが、改めて彼らのすごさや苦労を語ると、本人やファンにとって「知らなかった、そうだったんだ!」と発見があるわけですよ。関係者の証言は45分になった番組の中で、アーティストの魅力を掘り下げるための新たなフックになります。これまでは『SONGS』って敷居が高いとか、アーティストの真剣なところばかりを見せるイメージがあったんですが、最近は大泉さんが入ることによって見やすくなったというか、楽しく見られるようになったと言われるようになりました。

――たしかに『SONGS』はリッチな番組というイメージもあります。

加藤:そこは大事にしつつ、土曜の11時と木曜の10時台って視聴者の気分が全く違うじゃないですか。平日に仕事から帰ってきて、今だったらニュース番組をつけるか『SONGS』をつけるかってなった時に、深刻な話題が多い世の中ですが嫌なことを忘れて少しでも楽しめるコンテンツとして『SONGS』を見てもらえたらありがたい限りです。

――パフォーマンスも華やかで毎回こだわりを感じます。

加藤:NHKの「101」スタジオを最大限に活かした、10年以上の蓄積と経験でやっています。『SONGS』は例えばNiziUのような、デビューして1年経たないようなアーティストも出れば、郷ひろみさんのように来年50周年を迎えるようなアーティストも出る。どんなアーティストが来ても『SONGS』での歌の演出のかたちは僕らの中で培われているので、そこは変えていないかもしれないですね。生演奏で、出来るだけテレビサイズにはしない、しっかり音楽の世界、歌詞の世界を伝えることも『SONGS』ではこれからも大事にしていきたいので。放送開始当時から、歌をしっかり伝えるという事は意識的にやってきたし、“歌に向かって番組を作る”ことを強く意識しています。

 先ほどのいきものがかりで言うと、デビュー曲である「SAKURA」がどれだけメンバーにとって思い入れがあるかをVTRや対談で構成して、視聴者が「そろそろ『SAKURA』聴きたいな」と思った時に気持ちよく「SAKURA」へつなげる。アーティストの深い思いが伝わるなと思ったここぞという瞬間に気持ちよく歌へと導くという演出を『SONGS』としては昔から意識しています。それはアーティストの一人称で語っていた時もそうでしたし、大泉さんと一緒にアーティストの道のりを楽しく辿るスタイルになってからもやっていくんだろうなと思います。

NHKならではのアーカイブの蓄積

――4月からスタイルを変更して、アーティスト側からの反応はいかがですか?

加藤:いきものがかりの回に関しては、収録が終わった後、(吉岡)聖恵さんから「水野(良樹)さんが泣いたの初めて見ました」と言われました。アーティストってデビュー以来ずっと走り続けてるから、後ろを振り返ることがあまりない。5周年、10周年、15周年とやっていく中で、メンバー同士、改まって話したりすることはないらしいんです。そこで「15周年おめでとうございます、いきものがかりさんの歩みを僕たちがまとめてみました」と僕らの思いを様々な証言と共に恐る恐るVTRで提示して、「ちょっと違うな」と思うこともあるかもしれないけど、「確かにこういう面もありましたね」「あの時実はこうだったんですよ」と語ってもらえるようなスイッチになるかなと。節目節目でアーティストにNHKに出てもらっていて、ありがたいことにその時々のディレクターたちがインタビューしたり、ロケをしているので、NHKならではのアーカイブの蓄積があるのも大きいと思います。

 『SONGS』にはとにかく決まった形がないので、毎回アーティストと「今回はどんな『SONGS』にしましょうか?」と議論しています。フォーマットがない中でも決まっているのは、例えば1本の番組で3曲やるとしたら、3曲をどういうストーリーで構成するかということと、いかに歌を深く、場合によっては感動的なパフォーマンスとして演出できるか、という部分もとても大事だと思っています。

――最後に今後の展望を教えてください。

加藤:来年『SONGS』は15周年になるんですけど、理想としてはコロナが収束して、『SONGS』という番組が継続する中で、『SONGS』 というブランド使ったフェスやイベントなど行って、番組の間口がもっと広がるようなことに挑戦したいと思います。最近だと番組から派生した動画が話題になったり、番組からイベントが立ち上がったりすることもあるじゃないですか。NHKではまだそういう展開をあまりできていないので、やってみたいなと。音楽って、若い人からお年寄りまで、それなりに接点があるものじゃないですか。そこを任されている者として、『SONGS』を通じてNHKの音楽番組をもっと見てもらえるようにできたらいいなと思いますね。

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