2021.05.05 10:00

Aimer、Uruに続く存在に？　期待の新人アーティストWON、リスナーを惹きつける感情豊かな歌声に注目

文＝森朋之

　そして4月23日には新曲「咲かない」（作詞：WON／作曲：100回嘔吐）が配信リリースされた。ノスタルジックな雰囲気をたたえた有機的なバンドサウンド、穏やかさと切なさを内包したメロディを軸にしたミディアムチューンだ。作曲、編曲を手がけた100回嘔吐は、ずっと真夜中でいいのに。、原因は自分にある。などの楽曲アレンジで知られるボカロP出身のクリエイターだが、「咲かない」では、オーセンティックなJ-POPを体現。WONの声に含まれる叙情性を上手く引き出している。

　〈知らない町にさ君をさらって行くよ〉という印象的なラインからはじまる歌詞も秀逸。夢を実現させるために生まれ育った場所を離れ、新しい未来へと進む姿を描いたこの歌詞は、J-POPの定番である春ソングの形式を使いながら、〈咲かない桜〉をモチーフに新鮮な表現に結びつけている。オーソドックスなスタイルと斬新な言葉の表現を組み合わせからは、作詞家としてのセンスの良さを感じてもらえるはずだ。

咲かない - WON

　すべてのMVに同じ女性のイラストを使用。WONが表現する音楽のイメージを的確に描き出しながら、一貫したストーリー性を感じさせるブランディングも功を奏し、彼女の存在は広がりを見せている。たとえばAimer、Uruがそうであったように、デビュー当初は顔を見せず、まずは歌声と楽曲の良さを確実に浸透させ、アーティストとしての知名度を上げていくタイプとも言えそうだ。2曲のオリジナル曲だけで、ここまで強い個性とポピュラリティを感じさせるアーティストはきわめて稀。ぜひ今後の活動にも注視していきたい。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。