【新連載】the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」 中高時代、メンバーの強烈な第一印象を振り返る

the band apart木暮栄一、新連載スタート

ギタリストの川崎亘一

 彼とは中学1年の時のクラスが同じで、入学時の席順も前と後ろだったので、時系列的に言えば一番長い付き合いになる。学校を舞台とする漫画などで、キーとなるキャラクターが初日に遅刻してくる場面がよくあるが、川崎の初登場はまさにそれだった。

 担任教師の自己紹介中にガラリと開くドア、無愛想に入ってくる鷹の目をした遅刻少年。

 僕が通っていた私立中学校には附属の小学校があり、そこからエスカレーター式に入学してきた生徒がクラスの半数近く。

 そいつらの騒がしい声で、入学初日の教室はホームルームが始まっても騒然としたままだった。

 単純に浮かれているのか、最初から知った顔ばかりという人間関係のイニシアチブをうっすらと利用しながら新顔に自分の存在をアピールしているのか、或いはその両方か。

 その中でも目立ってやかましかったKとOという二人は、教師が話を始めても小さく周囲を巻き込みながらじゃれ合い続けていたのだが、川崎の登場はそんな二人をも沈黙させた。それはまるで、モータウンやフリーソウルで賑わうフロアにMobb Deepの 「Shock Ones Pt.Ⅱ」が突然カットインされた時の、ほろ酔いオシャレ女子の反応のようだった。

 そんな川崎と僕は同じテニス部に入部し、彼の遅刻により試合開始時間に間に合わず、別にそれに怒るわけでもなくうどんを食って帰ったりする関係になっていく。

Mobb Deep - Shook Ones, Pt. II (Official HD Video)

ベーシストの原昌和

 知る人も知らぬ人も一見して注意喚起を促される彼の風貌、その大まかな印象は出会った13歳の頃からほとんど変わっていないように思う。髭はなかったけど。

 僕と帰る方向が一緒で仲の良かったTという男が、休み時間のトイレで鏡に向かって首をひねるようにして後頭部を確認していたので、ははは、何やってんだよ、と聞くと

「いやー、さっきセンパに廊下でパイルドライバーされて、超痛いんだよね」

という答えが返ってきた。

「何それ、ケンカ?」

「いや、なんか挨拶のつもりだったらしい」

 センパ、というのはセンパイを一文字略したニックネームで、原のことだった。小学生の頃から体が大きく年上みたいだったからという、子供らしいストレートな由来のあだ名である。

 挨拶でパイルドライバーをキメた、というのも、特に彼が粗暴な生徒だったわけではなく、よくある中学生特有のじゃれあいの延長だったのだが、割と厳格な校風だったこともあって、校内の様々な場所で教師から叱責を受ける彼の姿をよく目にした。普通の生徒なら注意で済むところを、原の場合は引っ叩かれる、という理不尽な場面もあったように思う。

 そんな経験が、後につながる彼の反骨精神のようなものを育んだのかもしれない。

ボーカル・ギターの荒井岳史

 背の高い男で、初めて会った17歳の頃にはすでに今と同じくらいの身長だった。今と全く違うのはウエイトである。

 すらりとした現在の姿からは想像もつかないが、当時の彼の容姿をわかりやすく説明するなら、

「相撲の新弟子審査会場に現れた期待のルーキー」

 ということになる。

 人生で一番長かった、と後に彼自身が振り返っていたほどの長髪を整髪料でオールバックに撫で付け、胸の開いたシャツにスラックスという姿で原付自動車にまたがり、原の住んでいたマンションの前に現れた姿を見て、「あ、ヤンキーの方なのかな」というのが第一印象だった。

 実際にはヤンキーでも何でもなく、原が突然つぶやく「ラミ......」という言葉に、即座に「エル」と答える程度には『エヴァンゲリオン』にハマりつつ、MetallicaやGreen Dayをギターでコピーする高校生だったのだから、人の見た目なんて当てにならないものだ。

 その後、荒井が地元のライブハウスで弾き語りをやっていた縁で、僕たちもその場所に出演することになりthe band apartは始まっていく。

 ......こんな風にゆるい感じの脱線を繰り返しながら、基本的にはバンドの始まった90年代後半あたりから時系列に沿って、今回は全く触れなかった私的ヒップホップ史に加え、当時のバンドとその周辺の話を書いていけたら面白いかな、と考えております。

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木暮ドーナツ Twitter(@eiichi_kogrey)

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