TENDRE、“個の表現”と向き合ってきた軌跡 「音楽で大事なのは何かに気づける場面を作ること」

TENDRE、“個の表現”と向き合った軌跡

「2020年は孤独という一つのコンセプトと向き合った」

ーー言葉の主体性という意味でも、昨年9月にリリースされた2ndアルバム『LIFE LESS LONELY』からグッと変化した気がしますね。自分はどう生きたいのか、どのように第三者に音楽を渡したいのかというところにフォーカスが当たっているなって。

河原:そうですね。去年に関しては、こうした(コロナ禍の)時代なので、自ずと大きな得体の知れないものに対して表現を投げかける人が多かったと思うんですけど。僕は一人でいる時間が多かったからこそ、「孤独ってなんだろう?」という一つのコンセプトと向き合ったところがあって。要は、個ですね。自分自身の気持ちの整理整頓もそうだし、人に投げかける音楽としても、個の時代を生きていると思っていて。それは、たとえば参加してくれたRyohuもそうだし、個で音楽と生きている人たちを通しても見えてくるところもあって。

ーー盟友で言えばAAAMYYYもソロで個の音楽表現を追求しつつ、Tempalayのメンバーとしても個の重要性を重んじていると思うし。

河原:俺は完全にそのイメージだから。AAAMYYYのことも、Ryohuのことも個として見ているし、SIRUPというシンガーソングライターもそう。自分はバンドの美しさを知っているからこそ、個の力強さみたいみたいなものが最近余計にギラついて見えるというか。いろんな人がTENDREを個として見てくれている実感が増えてきて、じゃあTENDREとしてできることは何かを考えた結果が『LIFE LESS LONELY』というアルバムだったと思います。

TENDRE - LIFE(Official Music Video)

ーーその地平に立って、ついにTENDREの真髄を照らす歌が始まったんじゃないかと。

河原:そんな気がする。調子のいいことはいつだって言えるし表現もできるけど、マジなときって本当にその瞬間しかないと思うから。去年はより一層、自分の中でそういう部分に磨きをかけられたのかなと思いますね。

ーーサウンドプロダクションに関してはどうですか。大掴みな言い方をしてしまうと、いかにメロウかつグルービーであれるかという音楽的な視座がずっと中心にあるのかなと思うんですけど。

河原:たぶん理想像がないんですよね。だって自分の中でスタンダードを決めてしまったら面白くない気がするし。でも、そうは言いながらもたぶんあるんですよ(笑)、芯みたいなものが。だから、芯があるということを自分の中でわかっていればいいというか。TENDREを始動した当初の趣味嗜好ーーたとえばトラックメイクにおけるコードワークやメロの作り方を年々振り返ると、自分の中ではかなり変化してるんですね。その上で「TENDREのサウンドってこういう感じだよね」って言われて、そこで「なるほどね。そういう解釈もあるのか」って自覚するというか。あとはもともとベースを弾いてきた影響もあると思うけど、有機的なものと無機的なものの絶妙な共存みたいなことは、ずっとどこかで意識しているかもしれない。

ーー生音とプログラミングしかり。

河原:簡単に言えばそうですね。そのどちらかに振り切ったら楽しい場合ももちろんあるけど、主軸としてはその2つを織り交ぜた塩梅を考えることが好きな作業なのかなと。たとえば、生音だけだったり、ピアノと歌だけだったり、逆に全部プログラミングだったり、その塩梅の振り幅も増えてきたから、振り切っていい振り幅を知れたのも最近ですね。TENDREだから音が歪んじゃいけないというルールなんて誰も設けてないし、振り幅が増えてきている中で、まだまだ自分が知らない領域が絶対にあると思うから。それはすごく楽しいなって。

ーー曲を作ってるときは、がむしゃらになっている瞬間もあれば、土臭いときもあると思うけど、楽曲の洗練されたトリートメント力もあるからこそ、鬼気迫るような様相はこれまで出してないところなのかなと思うんですね。

河原:そうですね。去年までは鬼気迫る感じを見せたくないと思っていたところもある。それが悪いとも思ってないし、飄々としていたいという願望はずっと変わらずあるんですよ。でも、たとえば自分の顔つきにしてもサラッとした表情でいるというターンを経たからこそ、汗臭い場面を見せることがこれからあってもいいのかなと最近思ってます。

「本当に向き合うべきは“日常のふとした瞬間”」

ーーそして新曲「PIECE」なんですけど、この曲はいつ頃生まれて、メジャーデビュータイミングでリリースする曲として選ばれたんですか?

河原:去年の12月くらいからレコーディングし始めて、そのとき2曲録ったんですね。でも、アルバムをリリースした直後だったから、正直あまりテーマが定まっていなくて。最初は「PIECE」とは別にアッパーで割と踊りやすいような曲を何も考えずに作って。それはシンプルに『LIFE LESS LONELY』で内省的なところに迫った分、その反動で楽しい曲を作りたいという心の動きがあったからだと思うんですけど。ただ、それを今回のタイミングでリリースするのかどうかは、年明けの1月・2月まで曲を作ってから考えていこうということになって。そのとき、うちのボスと定例のZoomミーティングをやっていたんですけど、コロナの前はボスが家に来て、俺がデモを作ってる姿を横で見るみたいなこともやっていたんですよ。そういう流れもありつつ、ZoomミーティングのときにTENDREというアーティスト像について改めて向き合って考えて、どういう曲があったらいいか話し合ったんです。そういう時間を1月くらいから重ねて、その中でできた曲が「PIECE」だったんです。

 ユニバーサルからリリースするにあたって、最初に出すべき名刺を考えたとき、メジャーとインディーの垣根がないと思いながらも、どこかで自分の中で景気づけになるような曲がいいんじゃないかという気持ちがあって。だから、最初に作ったアッパーで踊れる曲をメジャーデビュー曲として出したほうがいいんじゃないかと思っていたんだけど、ボスと話してるときに「TENDREらしくやっていけばいいんじゃないの?」と言ってもらって。そこで「たしかに」って思ったんですよね。さらにボスが「パーカッションが入った曲が聴きたいんだよね」というアイデアを出して、俺が反応してアレンジを詰めていった感じです。

TENDRE 「PIECE」 Music Video

ーーそれこそ先ほどの生音とプログラミングの塩梅じゃないけど、打ち込みのビートと松井泉氏による生のパーカッションの融和が肝になっている。

河原:プログラミングしたビートという無機質なものの中に入るリズム楽器として、パーカッションは一番人間味を感じるというか。それによって波打つ感じだったり、鼓舞するような要素を入れたくて。

ーー歌詞の面でも、今日話してくれた太朗くんの音楽人生の軌跡だったり、個や孤独と向き合った上で、いかに人と共鳴できるかということを描いていると思いました。しかも『LIFE LESS LONELY』を経たものを感じさせるシンプルな筆致で。

河原:Disney+で『ソウルフル・ワールド』を観て、あの作品にめちゃくちゃ感銘を受けたんですよね。

ーーなるほど。めちゃくちゃいい作品だったよね。

河原:よかった。ミュージシャンの話ではあるんだけど、音楽に頼ってない感じもよくて。あの作品で描いてることって言葉にすると平たくなりがちだけど、日々の機微ということだと思うんですよね。「日常のふとした瞬間を大切にしよう」って言葉では簡単に言えるけど、本当に向き合うべきなのはそこなのかなと。「PIECE」ってまさにそういう自分自身も何かしらの欠片であるということなんです。『ソウルフル・ワールド』では煌めきのことを「スパーク」と言っていたから、「SPARK」というタイトルもいいかなと思ったけど、それよりもあの映画を観て自分の中から生まれてきた言葉をタイトルにしたいと思ったんですね。そこで最初に出てきた言葉は「EVERY」だったんですよ。それは「いつでも持ってる」みたいなニュアンスで。さらにそこからいつでも持ってる自分の気持ちの欠片を拾っていくことが大事だなと思って、「PIECE」になった。

ーーこの曲で描いていることは、音楽家として見る今の世界の実感でもあると思います。

河原:いろんな曲を聴いてる中で、歌詞で「こんな世界」みたいなことを歌ってる曲って結構あるけど、俺はそういう言い方になんの魅力も感じなくて。実際にそう思うことは自分にもあるけど、自分が音楽を届ける上で大事にしたいのは、ポジティブやネガティブを押し付けることじゃなくて、お互いが何かを気づける場面を作ることなのかなと思うから。音楽って何かのきっかけにしかならないと思うけど、言い方を変えればきっかけにはなると思う。そういう場面を音楽的にも、言葉の面でも、あとは人間的にもいろんな形で伝えていけたらと思っています。

TENDRE「PIECE」

■配信情報
TENDRE「PIECE」
4月7日(水)配信開始
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