いま、ジャスティン・ビーバーは皆を肯定し続けるーー新作『ジャスティス』で果たした役目

ジャスティン・ビーバーが新作で果たした役目

 また、単純に1つのポップアルバムとしても本作は非常に高い完成度を誇る。近年のトレンドの1つでもある70~80年代を彷彿とさせるファンクポップな「Die For You」や、音数やビートを削ぎ落として歌声の質感そのものに重きを置いた「Unstable」など、今作は再び現代のメインストリームを正面から射抜いた多彩な楽曲で構成されており、彼の最大の魅力である「声」がそれらを最高のポップソングに引き上げている。特に『パーパス』以来のタッグとなるスクリレックスが手掛けた「Loved By You」は、彼らしい特徴的な音色のビートが彩る独特なダンスホールサウンドが絶品の1曲であり、ナイジェリア出身のシンガーソングライター、バーナ・ボーイの歌声が本楽曲にさらに深みを与えている。

 本作におけるリード曲としてMVも制作された「Peaches」にはダニエル・シーザーとギヴィオンという若手注目株のR&Bシンガー2名が参加しており、太陽の光が差し込む光景が目に浮かぶような、爽やかで陽気なポップR&Bナンバーとなっている。BPM90の緩いビートが非常に心地良い本楽曲は、瞬く間にポップリスナーを中心に話題となり、現在進行形でSpotifyのグローバルチャート1位を独走中だ(3月27日現在)。まさに今の彼は1人のポップアーティストとして、ファンベースを超えて世界中にポジティブなエネルギーを届ける存在となっている。

Justin Bieber - Peaches ft. Daniel Caesar, Giveon

 ジャスティンは本作に対して「このアルバムで目指したのはみんなに喜びを届けること」であると語っている(※1)。そしてそれを実現するためには、単にポジティブであるだけではなく、それを阻む障害や困難を乗り越える必要がある。彼と同様に若くして絶大な成功を収め、何より彼の大ファンでもあるビリー・アイリッシュとの関係性が象徴するように、ジャスティン・ビーバーは今や10年以上のキャリアを積み、ポップカルチャーの残酷な犠牲となりながらも、それを乗り越えたロールモデルとなっている。そんな今の彼だからこそ届けることのできる、本当の意味でポジティブなエネルギーが、『ジャスティス』には溢れている。

※1:『ジャスティス』CD+DVD版 付属DVD収録インタビューより

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
Twitter : @neu_mura

ジャスティン
『ジャスティス』

■リリース情報
ジャスティン・ビーバー
『ジャスティス』
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