櫻坂46 藤吉夏鈴、作品を重ねるごとにみえる変化 「偶然の答え」MVで輝く表情

“変わること”を着実に見せてくれる藤吉の物語

櫻坂46『BAN』(通常盤)

 この曲のセンターを担当し、MVでも主人公を務める藤吉夏鈴は、櫻坂46の中で独特の立ち位置を確立しているメンバーだ。先週の記事で「BAN」に描かれる感情を説明するにあたり、過去のインタビューでの彼女の発言を例に挙げたように、藤吉は改名という急激な環境の変化の中で“取り残された”感覚を正直に話している(参照)。センターに選ばれながらも、グループの変化にうまく順応できていない面を持つメンバーなのだ。

 しかしながら、彼女が1stシングル収録曲でセンターを務めた楽曲「なぜ 恋をして来なかったんだろう?」はとびきり明るく、むしろ“変化”に対しての前向きな言葉が並んでいた。それゆえ彼女自身も表現するのに苦労したという。同インタビューで藤吉は、MV撮影の際になかなか切り替えができず、「私にはできないです」と監督や振付師のTAKAHIROに一度伝えたことを明かしている。その後話し合いを重ねてなんとか完成まで持っていったというが、そんな経緯もあって「なぜ 恋をして来なかったんだろう?」をステージでパフォーマンスする時の彼女には幾ばくかのぎこちなさも感じるのだ。

櫻坂46 『なぜ 恋をして来なかったんだろう?』

 一方で、この「偶然の答え」での彼女は何かを掴んだように楽曲に入り込んでいる印象を受ける。ブログでも「すごく甘酸っぱい青春で本当に心の底から胸が苦しくなったり気持ちが弾むような感覚になったり」(※1)と、作品に感情移入している心境を綴っているが、自分の役に心から納得して取り組めているような、生き生きとした演技を映像の端々に確認出来るのだ。特に校舎の屋上でのダンス中の表情は、今までにないほど輝いているように思う。

 以前は曲で歌われているものと自分との距離感に戸惑うことがあった彼女も、今作が変わる一つのきっかけになるのではないか。まさに“自分ではない誰か”に変化する藤吉の新鮮な魅力が作品に表れている。とはいえ、同ブログに「私にはまだ受け止め切れないほどの青春ですね」とこの曲に多少のギャップも感じているのが彼女らしいところ。リリースを重ねていくごとに、“変わること”を一歩ずつ着実に見せてくれる彼女の成長が今面白い。

(※1)https://sakurazaka46.com/s/s46/diary/detail/38258

■荻原 梓
J-POPメインの音楽系フリーライター。クイックジャパン・リアルサウンド・ライブドアニュース・オトトイ・ケティックなどで記事を執筆。
Twitter(@az_ogi/https://twitter.com/az_ogi)

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