ケツメイシ「さくら」が時代を超えて支持される理由とは オリジナル版・令和版、2つのMVから考察

ケツメイシ「さくら」が時代を超え支持される理由

 春と言えば、桜。桜の花が咲くとき、私たちは春の訪れを実感する。そんな桜に託してこれまで実に多くの楽曲が作られ、人々に愛されてきた。

 なかでもケツメイシ「さくら」は、代表的ヒット曲のひとつだ。楽曲は2005年2月にリリース。美しく心地良いメロディとラップが融合した同曲は、彼ら初のオリコン週間シングルチャート1位、さらに同年間チャートでも2位という大ヒットとなった。いまでも音楽番組の春ソングや桜ソング特集では、必ずと言っていいほど登場する一曲だ。

 この「さくら」のヒットに大きく貢献したのが、同曲のMVだった。萩原聖人と鈴木えみの出演で、恋人同士だった2人がいまは社会人となり、当時を回想するという内容。かつて萩原は映画青年だった。自主映画も撮っている。だがその夢は挫折し、彼女との仲も結局うまくいかなくなってしまう。

 当時を思い出すきっかけは、どこからともなく落ちてきた一枚の桜の花びら。出会ったのも桜の木の下なら、彼女を自主映画で撮影したのも、喧嘩して仲直りしたのもそうだった。その映像に〈花びら舞い散る 記憶舞い戻る〉というリフレインが重なり、見ている私たちも切ない思いをかきたてられる。

ケツメイシ「さくら」

 そして今年、「さくら」のMVが新たに制作されて話題を呼んでいる。「さくら(2021年 ver.)」と題されたMVは、3月31日発売のメジャーデビュー20周年を記念したベストアルバム『ケツノパラダイス』のために撮り下ろされたものだ。

 こちらの出演は伊藤あさひと久間田琳加。2人は、高校の同級生だ。そして卒業の際、桜の木の下でお互いの夢を語る。ミク(久間田)はK-POPアイドルになること、リツ(伊藤)は陸上選手として全国駅伝大会に出ること。ところが、ミクが努力の末にデビューを果たし一躍人気者になったのに対し、リツは練習中にケガをして夢を断念せざるを得なくなる。苦悩するリツ。しかし彼は、ミクの歌い踊る姿に励まされ、パイロットという新たな夢へ向かって歩み出す。そして桜の木の下で再会した2人は、相手への思いを確かめ合う。

ケツメイシ / 「さくら」ミュージックビデオ(2021年 ver.)

 この2021年の令和版と2005年のオリジナル版を見比べると、そこには時代の変化がうかがえる。

 たとえば、2人の間をつなぐツールに、それは表れている。オリジナル版で重要な役目をするのは、書物だ。2人を近づけるのは、『映画理論講義』というタイトルの分厚い本。鈴木えみ演じる女性も、いまは図書館で働いている。この時代、もちろんすでに携帯電話はあった。「着うた」サービスが人気を呼んだ頃だ。だが大切な過去を追想する内容に、ずっしりとした書物がぴったりだったということだろう。

 一方、令和版では、SNSやスマホが登場する。韓国に旅立つミクを見送るためにリツが空港に駆けつけるのはSNSでのやり取りからだし、リツが再起する転機となるのはスマホで見るミクの映るMVだ。オリジナル版では、別れてもう会えない2人の距離が強調されているのに対し、令和版では離れてもつながっていることが強調されている。

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