さとうもか、新たなJ-POPの担い手へ 配信ライブでの“距離の近さ”と“自由な表現”

さとうもか、新たなJ-POPの担い手へ

 同じ「友達系」の2曲でも、前者は女友達について、後者は好意を持っていた男友達の歌だったりと、それぞれテーマは異なるのだが、共通しているのは楽曲の根底にある切なさ。〈一緒に帰る口実探しちゃって/なんかわたし好きみたいじゃん...〉というパンチラインのある「My friend」は夏をテーマにした『GLINTS』の収録曲だが、同じく夏を舞台にした松任谷由実の名曲「Hello,my friend」を思い出したりもした。さらに、原曲ではエレキギターをかき鳴らす3連バラッド「愛ゆえに」、原曲ではTomgggによるトラックをフィーチャーした「Loop」をそれぞれ弾き語りのアレンジで演奏し、そのニュアンスの変化も印象的だった。

 再びステージに戻ると、恋する気持ちを歌う「melt summer」と、失恋を綴った「melt bitter」というストーリー性のある曲を続けて披露。途中で大きなクマのぬいぐるみが運び込まれて、一緒に歌う姿が実にキュートだった。ちなみに、以前からさとうのファンを公言していた川谷絵音が年明けの『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で「melt bitter」を2020年のベスト10に選んだことも彼女の知名度をさらに高めるきっかけとなったが、さとうの楽曲のアレンジの広さ、ポップさ、切なさ、ユーモアのバランスは、確かに川谷の楽曲とリンクする部分が多々感じられる。川谷は早い段階で藤井風やVaundyも推していたように、今やミュージシャンであると同時にトレンドセッターとしての顔も持つが、さとうもまた彼らと同様に2020年代のJ-POPの担い手の一人となっていくであろう。

 もう一度魔法のステッキを振りかざすと、今度は画面がモノクロに変わって、ミュージカル風の演出も取り入れた「歌う女」では、バーカウンターでドリンクをもらってフロアに戻ると、なぜか女装をした男性がいるというシュールな場面も。彼女は『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』のファンらしいが、こうしたやりたい放題っぷりも楽しい。しかし、ここから雰囲気が一転して、最後にシリアスなトーンの弾き語りで披露されたのは「Wonderful voyage」。彼女が最初に発表したEPと同タイトルの楽曲で、「EPを出したときに、これからも音楽を頑張ろうと思って作った曲」であり、〈夢はきっといつか叶うよ〉という歌い出しで始まるこの曲は、もともと地元の岡山からネットを通じて楽曲を発表していた彼女が、ここから新たな航海に出ることを告げる一曲でもあったと言える。

 この曲の演奏後、DJコーナーのニュース速報という形で<EMI Records>からのメジャーデビューが発表され、5月にシングル『Love Buds』をリリースすることが伝えられると、最後に表題曲を初披露。ラストはさとうの目玉のアップで終わるという、最後までシュールな映像で記念すべきライブが終了した。たくさんの可能性をばら撒きながら、新たなアイコンの誕生を確かに感じさせる一夜だったように思う。

■公演情報
配信ワンマンライブ『さとうもか “Sugar Science Station”』
2021年3月19日(金)渋谷WWWX
M1. Glints
M2. old young
M3. オレンジ
M4. Poolside
M5. Lukewarm
M6. ラムネにシガレット
M7. パーマネントマジック
M8. アイスのマンボ
M9. 友達
M10.My friend
M11.愛ゆえに
M12.Loop
M13.melt summer
M14.melt bitter
M15.歌う女
M16.wonderful voyage
Encore
M17.Love Buds

さとうもか Official Site

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる