櫻坂46、変化への戸惑いも? 「BAN」で歌われる“取り残された”心情の意味

櫻坂46が歌うことで意味を持つ“取り残された”心情

 イントロを終えると、まずは櫻エイト(前列と中列のメンバー8名)の出番で、その後、後列の6名にバトンタッチする。どのシーンもそれぞれ表情が凛としていて、パフォーマンスへの意気込みの高さや意志の強さを感じることができる。そんななか歌詞は、カップ麺の例を出しながら、いつしか時間が経ってしまって後悔している主人公の“取り残された”心情を描き出す。

「みんなどこへ行ったんだ?」
「僕だけ退場ってこと?」
「変わらないっていけないことなの?」

『B.L.T.』2021年1月号
『B.L.T.』2021年1月号

 こうした歌詞は、昨年改名した彼女たちが歌うとより深みが増す。改名を機に多くの点で変化が起きた。グループ名はもちろん、選抜などの体制、グループカラー、冠番組、関わるクリエイター陣など様々な面が変わっている。しかしながら、メンバー全員がその変化に付いていけているとは言い難い。たとえば、今作のセンターに選ばれた3名のうち、藤吉夏鈴はインタビューで以下のようなことを口にしていた。

「ラストライブの時は、自分の中で気持ちを切り替えられていたんですけど、むしろ今の方が……自分だけ”欅に取り残されている感”がすごく強くて。(中略)ラストライブの時は本当にスパッと切り替えられていたのに、櫻坂のMVとかを撮っていくにつれて、なんかだんだんと……。たぶん、欅の曲が自分の中でマッチしすぎていて、だから自分だけが今は取り残されているっていうのが、正直な気持ちなんです」(『B.L.T. 2021年1月号』より)

 このインタビュー記事を読んだとき、メディアの取材にも正直な言葉で語る彼女の姿勢に非常に感心したのを覚えている。なぜなら、グループ全体が変わろうとしている最中に、こうした本音は発言しにくい空気があるはずだからだ。今現在の彼女の気持ちがどうなのかは不明だが、同誌の発売時期からそれほど時間が経ってないことを考えれば、今作の歌詞は、藤吉のような思いを抱えたメンバーの心情が率直に表現された歌詞だとも言えるだろう。

 変わっていく周りを尻目に素直な思いを吐き出すこの曲の主人公像。それは、改名という環境の急激な変化にうまく順応できない一部のメンバーの思いに重なる。あるいは、価値観の変容を強引に促す現代社会に対するいち個人の本音をすくい取っているとも言えるだろう。バックラッシュとまでは言わずとも、「そこまで劇的に変わらなければいけないの?」という感情は、多くの人々が少なからず抱いているものではないか。

 ただ、変わろうと一致団結しているグループにとって、見方によってはある種反抗的にも映りかねない歌詞のため、彼女たちも歌いこなすのはなかなか難しいだろう。そういう意味では、欅坂46時代から通してみても非常に難度が高い曲だと思う。ダンスのレベルどうこうではなく、この曲の歌詞を自分自身の中でどう納得させるのか。この曲を彼女たちがどうやってステージから発信するのか、非常に気になるところだ。

■荻原 梓
J-POPメインの音楽系フリーライター。クイックジャパン・リアルサウンド・ライブドアニュース・オトトイ・ケティックなどで記事を執筆。
Twitter(@az_ogi/https://twitter.com/az_ogi)

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