milet、ちゃんみな、AK-69らプロデュース Dr.Ryoに聞く、海外での挫折や成功で培った音楽制作メソッド

Dr.Ryo、海外で渡り合うための音楽制作メソッド

日本人で初めて<INTERSCOPE Records>と契約

ーー本場のサウンドに洗礼を受けたと。

Sakai:それで帰国して2週間くらいで今のスタジオの物件を見つけて、自宅の作業部屋から引っ越したんです(笑)。クリスに聴かせてもらったサウンドが忘れられなくて、それに近づけるために機材も入れ替え試行錯誤しました。そうすると、今度は海外のアーティストをプロデュースしたくなってくるんですよ。そんな時に、ある方の紹介で2014年ごろからLAのスタジオでコライトセッションをするようになりました。最初は10曲くらい作ったのかな。いい感じで出来たと思って米国ソニーの副社長さんにデモを聴いてもらったところ、全く評価してもらえなくて。「何がいいのかさっぱり分からない」と言われてしまいました。自分がいいと思っているものと、本場で良いとされているものはかなり違うことをそこで思い知るわけです。なかなか厳しいスタートでしたね(笑)。

ーーそんなに違うものなのですか?

Sakai:今思うと、音の太さが全然違う。向こうのシンガーにセッションで歌ってもらっても、「Ryosukeの作るトラックはひどい」とかめちゃくちゃダメ出しされるんですよ(笑)。俺、日本でそこそこ頑張ってきたはずなのにおかしいなあ、みたいな。

ーーそれはキツいですね……。

Sakai:そこで諦めてしまう人も多いと思います。でも俺は、その2、3カ月後にはまたLAへ飛んでセッションをしていました(笑)。結局その時は年に4、5回行くようになっていましたね。もちろん全て自腹で。とにかく研究しまくって。だんだん「そうか、こういうことか」と分かってきて。こればっかりは、現地で体験しないとなかなか違いが理解できないと思うんですよね。とにかくそのグルーヴを文字通り身体で体得していくみたいなことをやっていました。

ーーその行動力と粘り強さは圧巻です。

Sakai:日本でずっとやっていたら、結構いい歳にもなってきたし、ダメ出しをされるなんてこともおそらくなかったと思うんですよ。でも37歳とかのタイミングでもう一度原点に帰るというか、味わったことがないくらいどん底を経験したのは(笑)、すごく良かったと思いますね。とにかく純粋に「かっこいいトラックを作りたい」としか思っていなくて、「苦しいからやめよう」なんて微塵も考えませんでした。

 それを2年くらいやっていたら、自分でも気づかないうちにレベルが向上していて。海外のクリエーター勢からもダメ出しされるどころか、ものすごく褒められるようになっていきました。それはもう、ただがむしゃらにやってきたおかげだったのかなと思っています。

ーービリー・アイリッシュやセレーナ・ゴメス、レディー・ガガを擁する<INTERSCOPE Records>とマネージメント契約をすることになった経緯は?

Sakai:いいトラックが作れるようになると、優秀な人たちともどんどん繋がっていくようになるんです。まあ、それは日本も同じですね。で、日本のカルチャーが大好きなPoppyという女性アーティストのプロデュースをやりました。そうしたら、たまたま彼女のマネージメントが<INTERSCOPE Records>だったんです。マネージャーのニック・グローフが僕のことを気に入ってくれて、「Ryosukeのこともマネージメントしてみたい」と。それが縁で契約の話が進んだんですよね。ニックは音楽のセンスが良くて、ジェイコブ・コリアーやYUNGBLUD、古くはロビン・シックやBlack Eyed Peasなども担当していた人物です。

ちゃんみな、miletらとの共作秘話

ーー日本では、ちゃんみなやmilet、AK-69などへの楽曲提供もされていますが、Sakaiさんから見たそれぞれのアーティストの魅力についてお聞かせいただけますか?

Sakai:ちゃんみなとはタッグを組んで4年くらい経ってきているのですが、最初の頃に比べると彼女のアーティスト性もどんどん上がってきていますよね。サウンド先行で作って、それに合いそうなリリックを考えようという感じで制作していたのが、最近は彼女の中で「こういうことが歌いたい」というイメージがはっきりとある場合が多いので、それに合いそうなサウンドを考えながらトラックを提案して、それに対して彼女がまたトップラインを考えるみたいな。より多くのキャッチボールをしながら作るようになってきました。

 彼女はジャンルに囚われない人だし、音楽に対するハングリー精神もすごくある。音楽のスタイルよりも、伝えたい物事の本質を常に探している印象があります。言葉の使い方も独特なんだけど、みんなの心を使うキラーフレーズを生み出す力もある。そういう人って、今はいそうでいないんじゃないかなと思います。あと、トップラインのセンスもすごくいいんですよ。海外のクリエーターとコライトするのも楽しいのですが、ぶっちゃけ彼女と僕がいれば海外に行かなくても事足りるなと思う時もあります(笑)。

ーーmiletさんの印象は?

Sakai:miletもすごく面白いですね。僕と会う前はコライトセッションを全く経験してきていなかったのですが、僕と初めて会って作ってきた曲とか「本当に作ったことないの?」っていうくらいのレベルでした。あの小柄な風貌から、あの歌声が出てくることも驚きですよね。それに、根底で流れている音楽が僕と一番近いのはmiletだと思っています。なので、特に会話をせずとも「あ、そういうことだよね」みたいな阿吽の呼吸もある。「この展開には、こういうメロディを付けてくれたら嬉しいな」と思ったことを、パッとやれちゃうようなところがあって作業がしやすいです。

ーーラッパーのAK-69さんとは、プライベートでも交流があるそうですね。

Sakai:彼はめちゃくちゃ面白いですね(笑)。知り合いのエンジニアさんに紹介してもらったんですけど、彼もヒップホップに軸足を置きつつ貪欲にいろんな音楽を吸収しているし、「世界のクリエイティブを見たい」という気持ちもすごく強い人。初めて出会ってひと月後には「じゃあ一度、一緒にLAに行こう」となりました(笑)。そこでの吸収力もすごいし、向こうのソングライターともすぐ仲良くなるんですよね。彼も自分が出したいサウンドやリリックのビジョンが明確にあって、バンと打ち出す人なので一緒に作業がしやすいです。

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