Mr. Bigは、なぜ被災地に寄り添うのか 日本のファンとの間に生まれた深い絆

Mr. Big、被災地に寄り添い続けた軌跡

 さらに伊藤氏は、映画内では描かれていない人物背景にまで斬り込んでいく。なぜMr. Bigは被災地に寄り添うのか。それは、1989年のロマ・プリータ地震、1994年のロサンゼルス地震を目の当たりにしたメンバーの経験によるところが大きいと言うのだ。

 とはいえ、精神論だけで物事は進まない。来日するためにはお金が必要である。そこで当時のレコード会社の担当者が「ベスト盤を出して、そこから費用を捻出しましょう」と言い出し、Mr. Bigのベスト盤『Big, Bigger, Biggest! The Best Of Mr. Big』(1996年)が発売された経緯が語られる。すると川西氏と初田氏が「僕も買いました!」と口を揃え、伊藤氏を含めて場内から笑いが起きていた。そんな想いもあって、同作は当時のオリコンチャートで1位を獲得。様々な関係者たちが協力し、「どうしてもMr. Bigを日本に呼びたい!」というファインプレーが積み重なった結果である、という話も非常に興味深かった。

 そして、初田氏が「スーパーグループはすぐに解散するイメージありますけど、Mr .Bigはどうして仲がいいんですか?」と質問を投げかけると、伊藤氏は「彼らは一人ひとり本当にいい人たち」と返した。さらに傑作2ndアルバム『Lean Into It』収録の「To Be With You」で全米チャート1位を獲った後も、変わらず応援し続けてくれる日本のファンに対してMr. Bigは特別な恩を感じているし、活動する上でも原動力になっていると伊藤氏は付け加えた。

 イベントの途中には、ビリー・シーン(Ba)によるメッセージ映像も流れ、コロナ禍を生きる人たちにエールを送った。「自分はPCで世界中の人たちと連絡をとっていて、届いたメールは2万通にも達した。彼らにとにかく返事をして、前向きな言葉で励まして、練習して、曲を書いて、レコーディングする。これが自分に今できるすべてだよ」と、世界中の人たちに平和な日常生活が戻るように願う言葉も話してくれた。

ビリー・シーン

 トークイベントの終盤は、自然とMr. Bigの今後について話題が及ぶ。「2024年にはMr. Bigが35周年を迎える。日本人はアニバーサリーイヤーに何かを仕掛けるのが得意」と伊藤氏が語ると、「これがゴールじゃない、次のプロセスのための映画。現時点での一里塚に過ぎない」と川西氏の言葉も熱を帯びていく。それこそ、Mr. Bigの仙台公演がファンによる署名活動で実現したように、一人ひとりの力がまたMr. Bigを突き動かす日が来るかもしれない。3月18日(初日)から公開される本編バージョンを観てもらえたら、きっと何か感じるものがあるはずだ。

■荒金良介
99年からフリーの音楽ライターとして執筆開始。メタル/ラウド/パンク/ミクスチャーなど激しめの音楽を中心に、雑誌/WEBを軸に書いてます。今年、自分が音楽を聴くきっかけになった漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の作者・荒木飛呂彦先生に六本木で偶然すれ違い、心臓が飛び出るほどビックリしました。その昔、荒木先生が少年『ジャンプ』の作者一言コメント欄で、レッド・ツェッペリンをお薦めしてて、それをきっかけに今では音楽ライターをやっています。人生はわからないものです。

■映画祭概要
『TBSドキュメンタリー映画祭』
2021年3月18日(木)~21日(日)ユーロライブにて開催
※配信上映あり
TV放映版から新たに編集をした作品に加え、劇場公開作を含む全22作品を上映。各上映には監督、その他ゲストによるトークイベントを開催予定。

『TBSドキュメンタリー映画祭』イベントページ

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