石崎ひゅーい、悲しみやせつなさを体現した「さよならエレジー」 8年ぶり『Mステ』生パフォーマンスを見て

石崎ひゅーい『Mステ』パフォーマンスを見て

 今回の生放送での「さよならエレジー」では、この歌の本質が激流となって現れていたように感じた。この曲には人間一人ひとりが抱える孤独感というテーマが内在している。その重たさを引き受け、受け入れ、携えながら生きていくこと。アコギをかき鳴らし、声をからさんばかりに歌うひゅーいの姿は、その悲しみ、せつなさそのものを体現していた。

 この歌は、ひゅーいが菅田将暉という人をイメージしながら書いた作品である。一緒に曲を作ることになり、ひゅーいは何日も菅田のことを思い、歌詞とメロディを考えたという。そこからあのマイナーコードのメロディが浮かび、〈孤独〉や〈さみしさ〉に直面し、〈愛〉を求める思いが根底にある言葉たちが生まれてきた。

 この時ひゅーいは、菅田という人が内側に抱えるものを感じ取ったのだと思う。若くして俳優の世界に飛び込み、さまざまな役どころや現場での経験を重ねながら生きてきた彼に思いを重ねながら、ひゅーいはそうした影の部分を描こうとした。そこで渦を巻く悲しみやせつなさを吹き飛ばすような、アップテンポのロックナンバーにして。

 そして今回、あらためて思ったのは、「さよならエレジー」は、菅田という人間を映し鏡にしながら、ひゅーいの個人性もまた浮き彫りにした楽曲であることだった。われわれは日頃、コラボとか共演という言葉を何気なく使っているが、複数の人間が共に何かを生み出そうとする際、そこには必ず共通点、共通項が存在する。もっと軽く言えば、共感ポイント、重く言うなら、業(ごう)とか、傷痕の形が似ているとか。

 「さよならエレジー」に横たわる孤独感は、おそらくひゅーい自身も抱えているものだ。ソロで何かを表現する仕事をしているという点でもちろんそうであるだろうし、何よりも彼という人間が、ついつい、ひとりぼっちになってしまうような……決して望んでいるわけではないのに、孤独を抱え、孤高になってしまうような性質だからではないか、と思うのだ。

 こう考えるのには、いくつかの理由がある。僕が過去にひゅーいにインタビュー取材をした中で印象に残っている話に「ふだんは部屋の中で、ひとりでじっとしてるんです」「たまに外に出て、誰かと飲むくらいですね」という言葉があるからだ。彼は仲間と集まって一緒に盛り上がったり、積極的に外に出て、他者と交流するような人間ではないのだ。

 実は個人的に、そんなひゅーいの人間性を垣間見た瞬間もあったのだが、やはりハジけるような性格ではないのだと思う。もともとがシャイで、どちらかといえば人見知り。愛想笑いや、とりつくろった表情をするのが苦手。正直で、裏がなくて、それで困ることも時々起こるような不器用さ。でも実は人恋しくもあって、誰かとつながっていたい。その上にソロで音楽をやっているのだから、孤独感というものはどうしてもついて回るのだろう。今回の「さよならエレジー」のパフォーマンスに、そんなひゅーいのシルエットが見えた。

 そしてもうひとつ実感したのは、ライブパフォーマーとしての成長だった。歌と演奏にすべてを集中し、その瞬間に伝えるべき感情をしっかりと伝える。それもTVの向こう側にいる大多数の大衆に向けて。

 番組の「恋うた」というテーマで、出番の直前にはシンガーのひらめの呼びかけで“指ハート”を作り、優しく笑っていたひゅーい。しかしその後の「さよならエレジー」はあまりに壮絶で、強烈だった。その緊迫感は、あの夜の番組の中では浮いていたほどだった。が、それゆえに心に強く残った視聴者は多かったのではないだろうか。

 この「しっかりと伝える」ことを生放送の本番できっちりとやりきるのは、プロのミュージシャンとしては当然あるべき姿だ。ただ、過去のひゅーいはそれが充分にできていないことがあった。時には気持ちだけが先走ってしまい、伝えたいものが伝わらないこともあったはずだ。 

 僕はデビュー前からライブを見ているのだが、2012年当時のひゅーいはライブハウスの小さなステージで飛んで跳ねて、つまづいて転んでと、とにかく衝動のままに暴れながら歌っていたのだ。モニターに頭をぶつけるのは当たり前で、動きすぎてライブの後半では息が上がり、バラードを歌いきれない夜もあったほど。全身全霊、すべてをぶつける以外の方法を知らないかのようだった。

 そしてこれも番組内で流されたのだが、2013年、初めての『Mステ』出演時のひゅーいが見せたのは、そうした当時のパフォーマンスそのものだった。銀の紙吹雪の演出があり、その嵐の中で、やはり滑って転んで叫びまくって「夜間飛行」をプレイした彼。後日、顔を合わせた時は「あの放送を見た人から<放送事故>とか書かれたんですよね」と、淡々と語っていたものだ(くり返しっぽくなるが、日常的に話したり接したりする時の彼はまったくテンションが高くない。むしろ、とてもおとなしい)。

 ただただ全部のメーターを振り切って、思いきりやる演奏スタイル。ただ、それは見る人によっては初期衝動に身を任せていると思われかねない要素もあった。

 しかしこうした番組出演や芝居も含めたステージ、役者業などのさまざまな経験が本人の成長を促したのだろう。この翌年頃からのライブでは、ただ走り回るようなことがなくなった。頭のどこかでペース配分を考え、歌をしっかり歌いきることができるようになっていったのだ。当時は弾き語りツアーやカバー企画などのライブをたくさんこなすようになり、そこで「ライブは自分とお客さんと一緒に作っていくもの」という感覚も体得していったのではないかと思う。そんな積み重ねの結果、ひゅーいは赤坂BLITZやZeppなどの大会場でのライブも成功させていった。

 ただ、このパフォーマンスの方向性の変化は、正攻法とはいえ、最初のうちは彼自身なかなかなじまなくて、これでいいのか? という感触のほうが残っていたようだ。そこには、完全に振り切れ、全部を出し切るライブをしなくなった自分への戸惑いもあったと思う。これもまた、先ほどの2018年より前の話である。

 しかし先週の「さよならエレジー」のひゅーいには、もはやあの頃の青さや甘さはなかった。孤独の悲しみとせつなさと、その重みを引き受け、自分の道を歩んでいく覚悟すら感じられる、圧巻の歌だった。8年ぶりの『Mステ』で彼は、アーティストとして成長した姿を見せてくれた。

 そして番組終了後、感想をツイートしたひゅーいに対して、あいみょんがリプライを送っていた。まだアマチュアだった彼女は8年前の『Mステ』を見ていたのだ。

 アーティストとしてたくましさを増したひゅーいが見せた歌の力、そこに込めた感情の強さ。これからの彼がどんな歌を歌い、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか。いっそう楽しみにしている。

■青木優(あおきゆう)
1966年、島根県生まれ。1994年、持ち込みをきっかけに音楽ライター業を開始。現在「テレビブロス」「音楽と人」「WHAT’s IN?」「MARQUEE」「オリジナル・コンフィデンス」「ナタリー」などで執筆。

 

■配信情報
各配信・ストリーミングストアにて2月19日(金)0時~配信スタート
「さよならエレジー - From THE FIRST TAKE」
「花瓶の花 - From THE FIRST TAKE」

■番組情報
テレビ朝日系『ミュージックステーション 3時間スペシャル』
2021年2月19日(金)18:45~21:48 ※一部地域を除く

■ライブ情報
『石崎ひゅーい東名阪弾き語りワンマン追加公演「世界中が敵だらけの今夜に-リターンマッチ-」』
2021年2月13日(土)東京都・浅草橋ヒューリックホール 17:00開演 (16:00開場)
2021年2月23日(火・祝)愛知県・名古屋Electric Lady Land 17:00開演 (16:15開場)
2021年2月28日(日)大阪府・UMEDA CLUB QUATTRO 17:00開演 (16:30開場)
チケット:全席指定 5,000円(税込・1ドリンク別途)※未就学児入場不可。
一般発売:1月23日(土)

石崎ひゅーい HP

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