THE YELLOW MONKEY、20年ぶりライブ盤がチャート首位に コロナ禍前と渦中のテイクから聴こえる“新しい歓声の響き方”

 けれども、本作によく耳を傾けてみると、結成30周年という節目に、新型コロナ禍の痕跡がじんわりと染み込んでいることがわかる。たとえばあるテイクでは、お気に入りの1曲の幕開けに思わず声をあげる会場のファンの姿を聴き取れるし、また楽曲が終わるとブラボーの歓声が聴こえる。しかしまた別のテイクでは、そうした歓声は控えられ、拍手の音が鳴り響くに留まる。客席からの声の不在。新型コロナ禍のライブにおいてもっとも顕著な変化のひとつだろう。2019年末の名古屋ドーム公演や2020年頭の京セラドーム大阪公演では当然のようにできていたことが、同年11月の東京公演ではできなくなっている。

 などと、「できなくなってしまった」ことにのみ新型コロナ禍の痕跡を聴き取るのは、やや悲観的すぎるかもしれない。なにしろ、また別の形でファンの声はここに収められているからだ。

THE YELLOW MONKEY – 「Sing Loud! あなたの声を、会場へ、メンバーへ。」第二弾

 東京ドーム公演が延期の憂き目にあってから、日程を改めてツアー再開されることがアナウンスされた際に始まったのが、「Sing Loud! あなたの声を、会場へ、メンバーへ。」という企画だ。カラオケや音楽SNS、LINE、ファンクラブといったチャンネルを駆使して集めたファンの声を、文字通り会場に響かせようという趣旨だ。「バラ色の日々 -Tokyo Dome, 2020.11.3-」の冒頭で、吉井和哉の「それでは一緒に歌ってほしいです」という一言に続いて流れる合唱はその企画で集められたもの。同様の歌声は「JAM -Tokyo Dome, 2020.11.3-」でも聴くことができる。

 配信ライブであったり、リアルライブであっても発声や収容人数などに制限のある状況において、それでもなお「ライブであること」という経験はどのように可能か。この1年、作り手受け手を問わず、「そんなことはどだい不可能だ」と身も蓋もないことを言い切ってしまうことができないあらゆる人々が、さまざまな試行錯誤を行ってきた。そんなことを振り返りながら聴く『Live Loud』は、バンドや楽曲そのものが湛える人懐こいような孤高なような独特の佇まいを越えて、奇妙なほど切実なライブ音楽として自分のなかに響くようだった。

 ほんの時代の気まぐれが生み出した、それ自体は良いとも悪いとも言い難いような経験が刻み込まれたライブ盤。おそらく、各公演のフルバージョンを現場なり配信なりソフトなりで観るのとはまた違う何かを、少なくともこの時代を過ごした人々にもたらすのではないかと思う。たとえばしばらく先の未来にこのアルバムを聴く人たちがどう思うかなんてわかりはしないけれども、とりあえず、後年のためにも今の所感をここに記しておく。

■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com

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