秦 基博、『おちょやん』主題歌含むシングル『泣き笑いのエピソード』全曲解説 時代を映し出す“カップリングでの新たな挑戦”

秦 基博『泣き笑いのエピソード』全曲解説

3. アース・コレクション(コペルニクス AT HOME)

 こちらも同じくアルバム『コペルニクス』収録曲で、“コペルニクスAT HOME”と名付けられているが「LOVE LETTER」とは少し異なる。原曲はブリブリのベースラインが効いたファンキーチューンだったが、それをガラリとリアレンジ。なんと秦の声のみのアカペラ多重録音で再構築した、“おうちでひとりでやってみた”バージョンなのである。

 「アース・コレクション」という楽曲自体、秦の音楽史の中では異彩を放つもので『コペルニクス』でも大きなインパクトを放っていたが、このバージョンの斬新さも比類ない。とにかく最大のポイントは「全部、秦の声だけでやっている」こと。アカペラと書いたのでいわゆる山下達郎的なめくるめくビューティフルコーラスの嵐を想像する人もいるだろうが、(そういう要素はありつつも)ドゥンドゥン、パッといったボイスパーカッションを多用してサンプリング。これ普通にキーボードだろ、シンセベースだろ......と思っていた箇所も耳を傾けると秦の声(にエフェクトをかけて作成した音色)だったりするから仰天させられる。一見普通の絵かと思って見ると緻密な点描画だったと気付いたときの鳥肌感。秦は今年デビュー15周年を迎えるが、「まだこんな引き出しがあったのか」という底知れなさと、「ステイホーム中に地道にこれを作ってたのか」というWサプライズに満ちた異色作である。

4. カサナル

 カップリングに収録されたもう1曲の新曲は、秦らしい誠実さが感じられるスローバラード。〈離れ離れ 僕らは 途切れたのかな〉と問う主人公はそれでもいつか〈重なる軌跡〉を信じようとする。テーマも曲調も、シングル『ダイアローグ・モノローグ』のカップリング曲として収録された「五月の天の河」を彷彿とさせる1曲だ。印象的なストリングスアレンジを手掛けたのは、秦と親交の深いKAN。美しく品のある弦の調べは、秦の歌とデュエットするようにずっとそばに寄り添い続ける。

 実は2人のセッションには伏線がある。昨年発表されたKANの最新アルバム『23歳』収録の「キセキ」という曲に、秦がゲストギタリストとして参加したのだ。今回はいわば「キセキ」のお返しといったところなのだろう。

 アレンジ的には、1番は秦の弾き語りとチェロ(とポイントとなるシンバル)というシンプルな構成になっている。孤独な物思いからのはじまり。それが2番に入ると、まるで仲間が現れ希望とチカラを与えるように、さまざまな楽器が折り重なって深いアンサンブルを形作る。まさに“カサナル”のマジック。ここでも「泣き笑い~」同様、〈決して ひとりじゃないってこと 刻みつけて〉というメッセージは、言葉以上に音楽そのものによって私たち聴き手に伝えられる。

 こうして全曲を見ていくと、どの曲もどこかしら今の時代を映し出しているのかもしれないと気付く。誰にとっても我慢の日々を創作の糧に転換するのは、彼自身が書いたように〈転んでも ただでは起きない そう 強くなれる〉の心意気なのかもしれない。そう思うと本作は改めて「泣き笑いのエピソード」というところに収斂していくのである。

■清水浩司
広島の文章屋。現在、広島FMで『ホントーBOYSの文化系クリエイター会議』(毎週金曜10:30~11:00)やってます。

『泣き笑いのエピソード』

■リリース情報
24th Single『泣き笑いのエピソード』
通常盤(CD)UMCA-50059:¥1,200(+税)
初回限定盤(CD+DVD)UMCA-59060:¥2,900(+税)
三方背スリーブケース仕様

-CD-
泣き笑いのエピソード
LOVE LETTER (コペルニクス AT HOME)
アース・コレクション (コペルニクス AT HOME)
カサナル
泣き笑いのエピソード (backing track)

-DVD- 初回限定盤のみ
Hata Motohiro Live at F.A.D YOKOHAMA 2020
・シンクロ
・フォーエバーソング
・色彩
・恋の奴隷
・Lost
・在る
・Raspberry Lover
・9inch Space Ship
・スミレ
・ひまわりの約束
・鱗(うろこ)
・朝が来る前に
・Interview & Bonus Track「トラノコ」

■秦 基博 関連リンク
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