瑛人による1stアルバム『すっからかん』全曲解説 すべてをさらけ出した作品に詰め込んだ“瑛人という人間と音楽”

瑛人 アルバム『すっからかん』全曲解説

 瑛人が笑顔でいる理由

ーーアルバムタイトルにもなった歌詞も入っている「ハッピーになれよ」は、今作のキーとなる1曲だとも思います。これは、自伝を歌にしたような曲ですよね。

瑛人:そうですね。2020年8月にBuzzFeedから取材を受けたときに「小学4年生のときにワンフレーズだけ曲を作ったことがあるんですよ」って話をして、そこから「これ、曲にできるな」と思い返して詰めて作っていきました。

ーー小4のときのエピソードを聞かせていただけますか。

瑛人:小2のときに親が離婚して、小4のときに俺だけ父ちゃん家へ遊びに行ってたんですよ。日曜日、野球帰りに。そこで父ちゃんに彼女ができたっていうのを知ったんですね。なんとなく、それを母ちゃんに教えてあげようとして、でも小4だからちょっと気まずいしどうやって教えようかなと思って、お風呂で歌ってあげたんです。〈2年前はいつも一緒だったけど 2年経った今は一緒じゃないけど〉って。で、最後に「ハッピーになれよ」って歌ってあげたんですよ。だからこの曲は、小4の自分とコラボしてるみたいですね。

ーーここで書いているストーリーや景色は、瑛人少年にとって強烈に記憶に残るものだったんでしょうね。

瑛人:そうですね、記憶にはあります。

ーーこの曲を聴いても改めて思ったのですが、瑛人さんの音楽を聴いていると、アーティスト写真に写っているような笑顔に奥深さを感じるというか。すごくいいスマイルだけど、どこか哀愁を感じる、いろんなことをこの笑顔でなんとか耐えてきたゆえの笑顔なんだということを感じます。ただのピース野郎ではない。

瑛人:ああ……(自分で自分の写真を見ながら)たしかに、この笑顔ってどこか逃げ道の顔をしているときの顔ですね。

ーー笑うことで自分に逃げ道を作ってきた、みたいな?

瑛人:緊張してても笑っちゃうし、怒ってても笑っちゃうし、悲しくても笑うんですよね。「あはは」って笑うんじゃなくて、顔が笑い顔になっちゃうだけ。本当は面白くないけど、ニヤニヤしてしまう。もちろん、作り笑いとかではなくて本当に面白いときもあるんですけど。

ーーどういう想いや考えがあって、そういう行動を取ってしまうんだと思いますか。

瑛人:なんでだろうな……でも、母ちゃんもわりとそうです。真ん中の兄貴も。怒ってても笑う。逆に笑った瞬間に「あ、怒った」ってわかる、みたいな。感情が入るとそうなるんですよね。

ーー笑顔を浮かべることで、負の感情をなんとか誤魔化そう、なんとか立ち続けよう、という心の表れでもあるんですかね。

瑛人:それはあると思います。「チェスト」という曲で〈出会いと別れが急すぎて ほんとうかわからない時もある/そんな時はただひらすら 笑っていればいいよ〉って歌ってるんですけど、そこには自分が思ってることを書きました。超軽く聴こえるかもしれませんが、本当にそうだなって俺は思ってます。

ーー軽はずみな〈笑っていればいいよ〉ではなくて、そうしないと何も始められない、歩き出せないということもありますよね。

瑛人:めっちゃあると思います。

ーー瑛人さんの歌詞の書き方には、そういうご自身の普段の感情の動かし方が如実に表れているなと思っていて。怒りを表す言葉を書いた後、その次の行ではそれを変換したり和らげたり笑ったりして自分を保とうとする描写がある。そういう書き方が、この曲に限らず他の曲にも多いなと。

瑛人:ありますね。本当の怒りを歌にしてるけど、これはあくまで歌だし、怒りに共感してほしいわけじゃないので。俺はそっちのタイプじゃないと思ってて、聴いてくれた人がちょっとでもポジティブになってくれたらいいなと思ってます。

瑛人 / ハッピーになれよ (Official Music Video)

ーー今話題に上がった「チェスト」について聞かせてください。最後のアカペラになるところがヤバいですね。

瑛人:ヤバいですよね、すっごくいいですよね! 僕も本当に好きです。でも、俺が歌う上では、最後に「ラララ……」で逃げられるほうも歌いたかったんですよね。それも俺の癖で、落ちたままではなく、「ラララ……」でちょっと自分を保つところまで歌いたいっていう。俺が歌わなければこれでいいと思うんですけど、自分が歌うとしたら「ラララ……」で逃げるようにしたくて。なので、俺のワガママを聞いてもらって2パターン録ることにしたんです。

ーー自分がリスナーとして聴いたときは、最後がアカペラで終わるバージョンがいいなと思うということですよね?

瑛人:めちゃくちゃ思います! 泣くぐらい。ただ自分が歌うとなるとまたちょっと話が違うんです。今の俺ではまだ表現が難しくて。

ーーなるほど。そもそも、これはどういうきっかけで書き始めた曲ですか?

瑛人:これは処女作なんです。19歳のときに初めてちゃんと作った曲。学校に入って1曲目に作った曲で、シンガーソングライターゼミで「家具を曲にしましょう」という課題が出て、俺はチェストを選んで書き始めて。チェストって本来「タンス」ですけど、「引き出し」というインスピレーションで書いていきました。みんなにはわからない部分もあると思うけど……自分で読むと、あのときだなってことがいっぱい出てくる。当時のバイブスがアウトプットできた感じがします。

瑛人 / チェスト (from 瑛人STORY 〜Acoustic Studio Session〜)

ーー「カルマ」はメロウなR&Bで、アルバムの中でも曲調が際立ってますね。

瑛人:Shingo.Sさんという、清水翔太さんなどの楽曲も手掛けているトラックメイカーの方と、ソングライティングセッションという形で、Shingo.Sさんが音を作りながら俺もメロディを入れる、というやり方で作っていきました。音がShingo.Sさんのバイブスになっているので、いつもとちょっと違う、新しいメロディができたなって思います。

ーー実際これを歌うときも、他の曲とは違う気持ちよさがありますか?

瑛人:いつもよりちょっとモテそうだなと思いながら歌ってますね(笑)。

ーーあははは(笑)。これは、実話ではない?

瑛人:これもほぼほぼ実話です。1番は、毎度毎度のこと(笑)。2番は、「香水」の子のお話。

ーーえ、そうなんですか!

瑛人:はい。今はちゃんと、ほかの方と幸せになってるみたいです。

瑛人

ーー「リットン」は、おばあちゃんのことを歌った曲ですよね。

瑛人:そうですね。おばあちゃんの前で〈リットンリットン〉ってなんとなく歌ってて。なんで「リットン」が出てきたのかはわからないんですけど、なんで歌詞の中で〈リットントン〉にしようと思ったかというと、歩き方。おばあちゃんは片足がずっと悪かったので、片足で歩く音を伝えたくて。〈シワシワの手〉とは書いてあるけど、赤ちゃんへの子守唄にも聞こえるし。あまり特定はせずに、聴いてくれる方それぞれの解釈で感じてくれたらいいなって。

ーー聴いた人にとっての大切な人が自然と重なると思います。瑛人さんにとって、おばあちゃんはどういう存在なんですか?

瑛人:おばあちゃんは優しくて、大好きな存在です。でも今はほとんど話せない、認知症で。だから〈「名前を呼んでみて」 ふざけたハテナ(質問)だよね〉って。でも話すと笑うんですよ。

ーー「Don’t be afraid」も昔からあった曲ですよね?

瑛人:1年半ぐらい前、初めてHOTDOGSと作った曲です。HOTDOGSもかっこよくて、心が優しいし、大好きで、超リスペクトしてる兄貴2人です。すごく影響も受けてますね。

ーーもともとはどういう出会いだったんですか?

瑛人:出会いは俺の20歳の誕生日で。その頃、横浜で路上ライブをしてる人にギターとマイクを借りて歌うっていうことにハマってたんですよ。マイクジャックっていうんですかね。怒られたりもするし、大体断られるんですけど(笑)。

ーーなかなか冒険的な行動ですね(笑)。

瑛人:誕生日のときに横浜を歩いてたらめっちゃ好きな声が流れていて、それがHOTDOGSのMinoriくんで。話してみたら、俺からは「歌わせて」なんて言ってないのに、「歌う? やれよやれよ」って言ってくれて。歌ったら「めっちゃいいね」って、それで繋がったんです。そうしたら、専門学校も一緒だったという。歳は5個上なのでかぶってはないんですけど、そういうリンクもあって。

ーーすごい出会いですね。そんな出会いからできた曲を1stアルバムの中に入れるっていうのは感慨深いですね。

瑛人:めっちゃ嬉しいです! アルバムの収録曲に「HOTDOGS」って書いてあるのがめっちゃ嬉しい。

ーー今回アレンジを手掛けたmabanuaさんとの作業はいかがでしたか?

瑛人:最高でした! 「こんなこと言いたくないけど」って客観的な視点の意見とか、ちゃんと教えてくださって。だけど、僕たちの意見も受け入れてくださいました。

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