KinKi Kidsは今日も”音楽の力”を体現しているーーアルバム『O album』で新しい時代に向かって届けるふたりの歌

竹内アンナから松本隆&細野晴臣まで…引き出されるボーカルの表情

 今作でひときわ存在感を放つのは「ジェットコースター・ロマンス」と同い年のアーティスト・竹内アンナによる「感情愛情CRAZY」。

 重厚でありつつポップなサウンドは、展開が読めない面白さがある。また、アッパーな楽曲とマイナーな声の融和により、絶妙なストーリー性が生まれている。

 成海カズトによる「響 -hibiki-」は、ドラマチックなイントロで惹き込む中毒性の高い楽曲。個々のソロパートにも起承転結があり、光一、剛、それぞれの表現が味わい深い。

 美しい歌詞と、変化球的なメロディラインのギャップが心地よく、長く愛されるスルメ曲になりそうだ。

 漂う“和”が美しいピアノバラード「新しい時代」。堂本剛の詩とマシコタツロウの曲、KinKi Kidsのボーカル。それぞれの“らしさ”が、ただただ濁りなく融合した名曲だ。

 剛が、ステイホーム期間中に綴ったという歌詩には、彼の感性が優しく光る。〈このいまが寂しい〉。シンプルだが、これ以上ない表現だ。ファンに寄り添い続けた剛が書くからこそ“寂しさ”はリアリティをもち、感じた愛の矛盾に共感する。今年、多くの人が抱え続けた言いようのない想いが、ここに描かれている。

 現在、ジャニーズ公式YouTubeチャンネルで同曲のミュージッククリップが公開されている。多くは語らない。見てほしい。

KinKi Kids「新しい時代」Music Clip (from O album)

 作詞・松本隆、作曲・細野晴臣。クレジットにさえ興奮した「99%」。シティポップの風味をもつ楽曲には、ジャジーなテイストとエキゾチシズムが漂う。歌詞もじっくりと噛みしめたい。噛みしめたいようで、流れるままに聴いていたくもある、ムーディな曲だ。

 彼らがこういう曲を歌うと、いまだに「大人な曲」と表現してしまう。失われない眩しい面影が、そうさせるのだろうか。

 しかし、こうした艶のある楽曲とKinKi Kidsの親和性が高いのも事実。18歳で「硝子の少年」を歌いあげた二人。あの上質な背徳感のようなものを「99%」に感じた。

KinKi Kidsが届けてくれる“これから”に差す優しい光

 「100年後の空にはなにが見えるんだろう」では、当たり前ではない「奇跡」……“いま”を切り取った松井五郎の歌詞が、織田哲郎らしいフォルクローレ色のあるサウンドと、キャッチーなメロディに乗る。

 ジャニーズサウンドを支えてきた作家陣による、包容力のある普遍的なメッセージ。それを歌い続けるのもまた、KinKi Kidsの意志であり、使命なのかもしれない。

 ラストの「STARS」は、まさしくアルバムコンセプトの“Over”、新たなステージへの一歩を感じさせる1曲だ。制作は、2004年からKinKi Kidsコンサートのバンドマスターを務め、彼らの音楽を誰よりも知る吉田建。

 エンドロールのような、あるいはカーテンコールのような曲だ。楽しかった時間にひととき別れを告げ、明日への希望を抱く、そんな曲。

 美しさのあまり、ほんの少し切なくもある。けれどこの曲を聴き終えたとき、心に残るのはきっと灯。アウトロのない潔さが、むしろ余韻を残す。

 「STARS」がアルバムを締め括ることで、この混沌とした時代にも、KinKi Kidsが届けてくれる“これから”にも、優しい光が差すのを感じた。

 KinKi Kidsは今日も、音楽の力を体現している。

■新 亜希子
アラサー&未経験でライターに転身した元医療従事者。音楽・映画メディアを中心に、インタビュー記事・コラムを執筆。
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