香取慎吾の歌声は、思い出と共に刻まれた“特別な音”だ 「歌ってみた動画」から感じるエンターテイナーとしての気概

身体性のある作品を創るアーティスト

 また同時に、私たちのなかに香取の歌声というものは特別な音として記憶されている。それは、国民的アイドルグループのSMAPとして日本中に響き渡った数々のヒット曲が、私たちの数々の思い出と共に刻まれているのはもちろん、なかには香取がソロでリリースした「慎吾ママのおはロック」など物心ついたころには一緒に歌い踊る存在として、当たり前のようにあった歌声となっている人も少なくないはずだ。

 あの独特な声は、テレビCMで聞こえてきても「ん!?」と反応してしまう唯一無二の音だ。彼が歌うと、その声はさらに親しみのある音として私たちを包み込む。「炎」の歌詞にある〈未来のために〉の部分の“未”や“に”の母音である「い」の言葉に、香取のクッと上がった口角からノドの奥、そして鼻へと拔けていくような音の広がりを感じる。

 香取は、よく番組に出演したり、ライブを行なうときに「一緒に遊びましょう」という声を視聴者や観客にかけている。笑いを作ることも、そして何か作品を創り上げることも、全て「楽しい」遊び。そう思うと、彼が歌うことも身体を使った遊びなのかもしれない。

 彼がアーティストとして芸術作品を多く生み出しているなかでも、自分自身の身体をモチーフにしたものがいくつも見られた。心臓の音がなるモニュメントや瞳の写真、髪の毛を並べて作ったもの、なかには内視鏡の画像もあった。

 自分の身体を使って、何ができるのか。世の中をどう驚かせ、どう喜ばせることができるのか。そんな挑戦を彼は生涯をかけて続けているようにも思える。そんな香取にとってYouTubeという場は、無限の可能性を秘めたアトリエなのかもしれない。

 愛情豊かなパロディ力×多くの人が魂レベルで刻まれた歌声×あくなき探究心で、ヒットソングを次々と料理していく香取の「歌ってみた動画」。『LiSA『炎』-MUSiC CLiP- 再現して歌ってみた!』の100万回再生超えと同時に、香取のYouTubeチャンネルは登録者数40万人を突破した。今後、さらに世界的なヒットソングの「歌ってみた動画」を作っていくこともできるのではないだろうか。

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