ポール・マッカートニー、最新作をより味わい深く聴くために 過去2作含む“マッカートニー”シリーズの歴史を辿る

ポール・マッカートニー、“マッカートニー”シリーズの歴史

 ポールは本職のベースを始め、ドラムス、キーボード類も弾きこなすマルチプレイヤーで、プロデュース能力も高く自己完結性が高い人だけに、だからこそ逆にバンドやパートナーを求めてきたのが、この人の歩みだ。それが一種の飽和点に達したとき、自身の中に蓄えられたアイデアを解放し吐き出すのが、単独レコーディングの“マッカートニー”シリーズなのかもしれない。

Paul McCartney - Waterfalls (Official Music Video)

 今回、コロナ禍により強制的に自らの倉を開けることになったが、前作の『エジプト・ステーション』(2018年)もとても高い完成度だったが、その快調さは高レベルで維持され、苛立つようなギターの音と「僕に会いたいと思うか」との問いが、世界中が直面している異常な状況を描くかのような「ロング・テイルド・ウィンター・バード」で始まるものの、決して悲観的であったりネガティブに走らないのがこの人ならではの表現だ。胸にすぐに飛び込んでくるメロディが美しい「プリティ・ボーイズ」、「ウィメン・アンド・ワイヴズ」には心から癒やされる。

ポール・マッカートニー

 そんなアルバムの核心となっているのが6曲目に置かれた「ディープ・ディープ・フィーリング」で、約8分半の本作最長曲はポールの得意な何曲分かのアイデアがつながれており、その中で自身と深く向かい合う姿が浮かび上がってくる。厳しい状況だが、それを良い機会ととらえて進もう、そんな思いが迫ってくる。まさにこの人ならではの『マッカートニーⅢ』だ。

■大鷹俊一(オオタカ トシカズ)
ビートルズに衝撃を受けて以来、英ロック全般、パンク/ニュー・ウェイヴ以降
の米英ロックを中心に各種媒体に書き続けている。主な著作は『レコード・コレ
クター紳士録』(ミュージック・マガジン社)、『ブリティッシュ・ロックの名盤
100』(リットー・ミュージック)など。また監修本多数。

■リリース情報
ポール・マッカートニー
『マッカートニーIII』
2020年12月18日(金)発売

【スペシャル・エディション】1CD
2,500円+税 UICY-15964 限定盤
<日本盤のみ>
日本盤のみボーナス・トラック4曲収録
解説・歌詞対訳付
SHM-CD仕様
限定盤

【通常盤】1CD
2,200円+税 UICY-15966
<日本盤のみ>
解説・歌詞対訳付
SHM-CD仕様

■関連リンク
ポール・マッカートニー 日本公式サイト

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