SUPER BEAVER、最低な2020年の中で届けた“最高の瞬間” ライブハウスでの再会誓った横アリ生配信ワンマン

SUPER BEAVER、横アリ生配信ワンマンレポ

 「我々SUPER BEAVERは今年で結成15周年です。15周年イヤーなんでおもしろいことをやりたいなと思ってアリーナツアーを組んでみましたが、9割9分9厘頓挫しました」と笑いながら渋谷が話し始める。「最低だったこの1年、そのなかでも最高の瞬間を作れたらいい」。「最低のなかの最高」。すごくいい表現というか、この観客のいない横浜アリーナでのライブを言い当てるのに、それ以上の言葉はないのではないかと思う。その渋谷の言葉を受けて柳沢は「楽しいことをどうやったら届けられるかをずっと考えて今日があります」、上杉は「こういう形で僕たちのことを知ってくれる人がひとりでもいるなら、すげえポジティブだと思う」、そして藤原は「こういうときこそ歌えるバンドでありたいなと思ってやってきた」とそれぞれの思いを口にした。まるで自分たちに言い聞かせるようなメンバーの言葉だ。

 眩しいギターのサウンドと力強く打ち鳴らされるドラム。画面越しのコール&レスポンスも繰り広げられた「予感」、そして「できれば一緒に歌いたかった」といって披露された彼らのライブにおける大定番曲「東京流星群」ではミラーボールに反射する光の粒がアリーナ中の天井に流星の群れを描き出す。ここにきてメンバーの表情もリラックスして見える。そして文字通りこの日のハイライトを刻んだ人生讃歌「ハイライト」。まばゆい光に包まれながら渋谷の歌と柳沢、上杉、藤原の「ラララ」の声が折り重なる。そしてこの日最後の曲「人として」へ。ライブの始まりと呼応するように静かな渋谷の歌声が横浜アリーナに反響する。〈信じ続けるしかないじゃないか 愛し続けるしかないじゃないか〉という切実な歌詞が今へのメッセージとなって広がっていき、そこにストリングス(演奏は美央ストリングス)が色をつけていく。ひとつひとつの音を噛みしめるように、思いの丈を注ぎ込むように、4人は最後まで音を鳴らし続けた。

 筆者はこのライブを、配信の画面ではなく現場で目撃する機会をいただいた。「いい景色とは言いがたい」。照明に照らされたがらんどうのアリーナを見回しながら渋谷はそう言っていたが、まさにそのとおりで、「よろしくお願いします!」というメンバーの声が響いた開演前から、「はい、終了です!」というスタッフの声が飛んだ終演時まで、彼らの思いのこもった演奏がエモーショナルであればあるほど、切なくてしょうがなかった。バンドとスタッフ以外誰もいない横浜アリーナの風景には、そこに設置された数多くのライトやLEDが放つ美しい光をもってしても埋められない寂しさと虚しさが漂っていた。

 「あなたがおうちでいくら歌っても、俺たちには届かない」。「予感」を歌う前に渋谷はそう正直に話していた。配信でも、画面ごしでも声は届く、思いは届く――そんなの嘘っぱちだ、と。「でも」。渋谷の言葉は「届かなかった時間が、何かしらの形で、新しい形で返ってくると信じてる」と続いた。そう、今ではなく未来で、この経験は違う喜びを生み出すだろう。その予感と期待が、このライブの原動力だった。最後のMCで渋谷は「『次はライブハウスで会いましょう』……と言いたい。だから言う。ライブハウスで会いましょう」と約束した。そして発表されたニューアルバム(2月3日発売)のタイトルは『アイラヴユー』。この2020年、彼らが何を思って音楽を続けてきたのか、この日のライブとそのアルバムタイトルが、すべてを物語っているように思えた。

■小川智宏
元『ROCKIN’ON JAPAN』副編集長。現在はキュレーションアプリ「antenna*」編集長を務めるかたわら、音楽ライターとして雑誌・webメディアなどで幅広く執筆。

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