ジャスティン・ビーバーと信仰の関係性(1) 福音を授かり、新たな時代迎えたポップスター

無神論者が増え続ける時代の中で、現代的アプローチで勢力を拡大する「ペンテコステ派」 

 ヒルソング教会は、1983年、ペンテコステ派のキリスト教牧師であるブライアン・ヒューストンとその妻であるボビー・ヒューストンによってオーストラリアで設立され、以降、世界中に勢力を拡大していき、今では日本を含む28カ国に教会を構えるほどに成長した教会である(参照)。

 「ペンテコステ派」と書いたが、一口に「キリスト教」と言ってもその分類は信仰の在り方や聖書の捉え方などで非常に多岐に渡る。ヒルソング教会は分類で言えば“プロテスタント”で、“福音派”で、“ペンテコステ派”というわけだが、どの言葉についてもなかなか日本では馴染みがないため、非常にざっくりと説明しておくと、下記の通りとなる。

プロテスタント : 米国における、最も信徒数の多いキリスト教の分派。16世紀のヨーロッパにおける、カトリック教会への抗議によって始まった宗教改革の影響により誕生したもの。「信仰と善行」が救いへの道であり、聖書と聖伝を同程度に重要視するカトリック教会に対して、「信仰のみ」が救いへの道であるとし、聖書のみを中心とする聖書中心主義が特徴。

福音派 : プロテスタントの主なグループの一つで、聖書を尊重しつつ、あくまで社会の福祉や改善に重きを置く「主流派」と異なり、聖書に絶対的価値を置くという原理主義的な特徴がある。そのため、結果として保守的な傾向があるが、神学的には保守でも政治的にはリベラルな「福音派左派」の存在など、決して総じて政治的に保守というわけではない。

ペンテコステ派 : プロテスタント系福音派のうち、「聖霊による洗礼」を受けること。そして、意味不明な異言を発するといった神の存在を実感するような宗教的体験(聖霊体験)が存在すること、それを追求することを信念として掲げる点が特徴的な教派。神との結びつきを育むために、歌やダンスなどで激しく感情を高ぶらせるといった特徴的な文化もある。また、聖書に対する原理主義的な側面も持つ。

(参考 : 『アメリカと宗教―保守化と政治化のゆくえ』(堀内一史著・中公新書))

 前述のジャスティンが福音を授かり、即座に洗礼を懇願する様子は、まさにペンテコステ派的な経験だと言えるだろう。一方で、ヒルソング教会を筆頭に、C3教会などの「オーストラリアで設立されたペンテコステ派メガチャーチの、アメリカへの進出と成功」というのは、近年のキリスト教における大きなトピックの一つでもある。また、その集会における“旧来のイメージと異なる様子”も話題だ。

 約8000人もの人々が集まったスタジアムにポップ・ロックサウンドが響き渡り、クリスチャン・ソングのライブが始まる。ステージはド派手なライティングに彩られており、客席に目を向けると、音楽に合わせて両手を挙げて盛り上がったり、モッシュピットのように人々が揉みくちゃになる光景が広がっている。演奏が終わり、現れた牧師に喝采が送られる。彼らは、ここに集まった人々にとってカリスマ的リーダーなのだ。集会のポスターは、まるで若者に人気のファッションブランドかのようにスタイリッシュにデザインされ、Instagramのストーリーに流れてきても、知らない人であればそれがキリスト教の集会だとは気づかないかもしれない(参照)。

Hillsong Conference 2019 Highlights

 前述の通り、プロテスタント系の中でも比較的原理主義的、保守的であるにも関わらず、そして、近年の米国では無神論者が増加傾向にあるにも関わらず(参照)、現代において強い人気を獲得している背景はここにある。激しく感情を爆発させることが推奨される「沢山の人々との一体感」で満ちた空間、説教によって満たされる自己啓発的な感情、何より周りにいる優しく、温かく接してくれる人々。クールで大規模な音楽フェスティバルと、自分に合った自己啓発セミナーが同時に行われているような状態とも言えるだろう。しかも、そこにいる全員が共通の「洗礼」という体験を持っているのだ。

ジャスティン・ビーバーと信仰の関係性(2)に続く(12月15日掲載予定)

■ノイ村
海外のポップ/ダンスミュージックを中心に愛聴。普段は一般企業に勤めているが、SNSやブログにおけるシーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始。
ホームページ
Twitter

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる