大森靖子が語る、“自分自身”を歌うことと共感性への思い 「決めつけると細かい違いがなくなっちゃう」

大森靖子が語る、“自分自身”を歌うこと

何かを「嫌い」って思う度に自分が傷つく感覚がある

ーー「CUNNING HEEL」「ANTI SOCIAL PRINCESS」の作曲のK2-Deeさんは、THE つんくビ♂トのメンバーだった人ですね。アルバムで、大森さん以外の作家の曲が2曲も続くのは珍しくないですか?

大森:初めてですね。K2-Deeさんとは、道重さゆみさんの曲を一緒に作ることが多くて。道重さんへの曲で、自分の曲よりも自分のことを書けたという感覚が何曲があって、すごく深い曲を道重さんが歌っている超現象が起こっているんですけど、「K2-Deeさんのメロディに合わせるからこそ出せる自分もいるんだ」みたいな。だからK2-Deeさんとめっちゃ仕事したかった。で、「2曲ください」って言ったら4曲デモが来て(笑)。

ーー「CUNNING HEEL」では、「パパ」がやってきますね。

大森:これはパパ活のイメージですね。パパ活の漫画を描いている劇画チック系の作家で何人か好きな人がいて。それに寄せた記憶があります。

ーーパパ活は「シンガーソングライター」にも出てきますよね。大森さんの中でも今っぽいトピックなんですか?

大森:援交がパパ活という名前に変わったことが、自分の中で衝撃がでかい。ポップカルチャーみたいな(笑)。「援交だったじゃん! パパ活はポップすぎるだろ」って(笑)。売春がどんどんキャッチーになっていって、ごまかされている。その漫画の中で、「学校ではわかってもらえない私の感情をパパはわかってくれる」って本当に愛しちゃったら、パパが「おもちゃじゃないものはいらない」って離れていくのを描いているのがすごく好きで、その感じ。高校生の頃は私も「この学校に私のことをわかってくれるやつはいない。出会い系で出会ったおじさんのほうが私のことをわかってくれる」みたいに思っていたな。

ーー「S.O.S.F. 余命二年」は、シンガイアズの演奏と大森さんの歌と言葉が共振しているかのようなすごいトラックですね。「S.O.S.F.」とはなんなんですか?

大森: 緊急事態SF。ツアー中に毎回即興で弾き語りしていて、「今日いい曲できたから、とりあえず録音を聴いて曲を作ってみようかな」みたいな軽い感じで作った曲で。自分の中に作る宇宙、SFがすごく好きで、音楽で時間の流れ方を変えられたり、もう会えない人と会えたり、そういうSFって自分の中で作れる。それができるメンタル状態って緊急事態が多い。そういう音を出したいみたいな。

ーーそれはコロナ禍での緊急事態とは関係ないんですか?

大森:その前からあったし、表に出ていないだけで同じような状況ではあったので。もともと絶望しているから、別にコロナで絶望していないというか(笑)。絶望していない人ってやばくないですか? 世の中こんなにやばいのに。「絶望して落ち込め」と言っているわけではなくて、世の中のやばさを認識できていない。知見が甘いだけでしかなくない?

——〈帰りたいデートが好き〉と歌いだす「真っ赤に染まったクリスマス」は、あまのじゃくな大森さんらしい歌詞だけれど、一番世間に理解されづらいと思うんです。大森さんも、どうすれば反響が大きいか予想がつくと思うし、無難な道もわかっていると思うんです。それを避けてでも歌いたかったことなわけですよね。売れ線に行く意識はないんですか?

大森:売れ線側に行くことは、逆にいつでもできることだから今やってもな、って。そういうのはZOCで頑張るって決めたので、ちょっと深みにいけるほうを選んじゃったかな。メジャーのフィールドとはいえ、街でずっと流れているようなアーティストじゃないので。半強制的に聴かされるような感じではなくて、聴きたいと思う人がクリックをして聴ける状態だと思うので。

ーーそういうスタンスで『Kintsugi』を作ったのがすごいですよね。今の若い人たちは、ソーシャルな状態じゃないと生きていけないじゃないですか。なかなか自律的に生きられない。大森さんはそういうのが関係ない境地にいて、みんな「なんでこの人は嫌いなものを嫌いってはっきり言えるんだろう?」って驚くと思うんですよ。

大森:まぁ生きづらいけど、別にそこに共感されたくないし、わかられたくもない。一緒の人がいたら確かに勇気にはなるけど、決めつけると細かい違いがなくなっちゃう。「そっちはそう考えているんだね。自分はこう思うけど」でいいはずなのに、それがひとつの意見にならなくて、「それは正論じゃないよ」って潰し合っている、それが全くわからない。「良くないと思うけど、こういうことがあったからこう考えちゃったのかな、仕方ないね」ぐらいでいいじゃん。どんな差別的なことを言っていても、「この人はこういう風に生きてきたからこうなったのかな?」ってところまで考えられないんだったら何も言うべきではない。例えば、この前ネットで起こったタイツの広告の炎上も、「もうタイツ買いません」ってなっちゃって。少し想像すれば広告の人の視野が狭かっただけなのがわかる。もちろんそれは是正していくべきだけど。「『もっと履きやすいタイツを』って大事に物や広告を作ってきて、たくさん費やしたものを、この炎上ひとつで潰されることは許されるのかな?」とか考えちゃって。「そっちを考えられる人ってこんなにいないんだ」ってがっかりしちゃった。

ーー大森さんは、すごく想像力を働かせますよね。疲れないんですか?

大森:疲れる。でも、自分ができていない時もあるので。だからこそ自分に対して怒りもありますね。人を嫌いな気持ちって結局のところ自分が嫌いな気持ちで、「あなたを信じられなくなりました」って「あなたを信じるという私の価値観が間違っていました」という自己否定だから、何かを「嫌い」って思う度に自分が傷つく感覚がめっちゃある。

ーーたくさん傷を抱えてくる中で、先行配信されていた「NIGHT ON THE PLANET」「シンガーソングライター」「counter culture」「KEKKON」「堕教師」の反応はどう受け止めましたか?

大森:「丁寧に作ったものって丁寧に享受できる人が聴くんだな、それ以外には届かないんだな。まぁ届かなくてもいいや」って感じ。それでいいと思って作っている。まあ届いたら幸せですけど。伝わらない人がいるのはもう知っているから、それはそれで仕方ない。でも、アルバムは聴いてほしい、音がいいから(笑)。音質とアレンジとメロディがいいから、歌詞は無視して聴いてくれれば。

ーー「大森靖子ってこういう歌詞を歌う人でしょ」みたいなパブリックイメージが邪魔になる時もありますか?

大森:たまに「こういう暗いことを押し付けないでください」って言われて、「そういう人が普通にZOCを聴いているのか」みたいな。私が作っているのに(笑)。ちょっと伏せてはいるけど、隠しきれない私の憎愛みたいなものは絶対にZOCに含まれているじゃないですか。逆にそれでも聴けるんだ、って。でも、今回のタイトルは自分的には渋くしたつもりで。いつもはコンセプトを作って、ちょっとずらしてキャッチーにしたものをアルバムのタイトルにしているけど、今回はコンセプト自体を普通にタイトルにした。だから無理な着飾りをさせていない、アー写も。

ーー今回のアルバムは自分のことを何割ぐらい出せたと思います?

大森:もう次のアルバム作っていて(笑)。この時点での100%は出しているけど、またすぐ生まれてくる。お腹が空く、みたいな。

ーー『Kintsugi』のレコーディング期間はいつ頃にだったんですか?

大森:2月から9月くらいまで。

ーー緊急事態宣言があっても全然影響を受けていない。

大森:そうですね(笑)。コロナで落ち込んだ人と全く同じ心境かもしれない。

ーーそこに不思議なシンクロが発生する可能性はありますよね。またすぐ次が生まれるとなると、それは『Kintsugi』とは別の何か?

大森:ひとつの軸に固定するやり方ではなく、いろんな方向で曲を作りたい。

ーー同業者からしたら「なんでこんな勢いで曲を作れるのか」と思われそうですよね。

大森:つんく♂さんも小室哲哉さんも、当たり前のように年間100曲とか全然作っていたから、同じくらい作らないと同じぐらいにはなれない。「なりたい像」があれぐらい量産できる人。数を打つのが天才だと思うから。

ーー作曲家のフィールドで評価されたいと思いますか?

大森:評価されたいとかはないけど、本当は自信があります。良いメロディや、頭にこびりつくメロディは得意だな、とは思っていますね。

(衣装=rurumu:)

合わせて読みたい 

・「シンガーソングライター」インタビュー
大森靖子が語る、“考える”ことの重要性 新曲「シンガーソングライター」に込められた真意
・「counter culture」インタビュー
大森靖子が考える、“カウンターカルチャー”のあるべき姿 「人間が進化するために、常に疑問を投げかける人が必要」
・「KEKKON」インタビュー
大森靖子に聞く、“結婚”にまつわる自身の生き方とスタンス 「同じ理想を向いていたら絶対にぶつかることはない」
・「NIGHT ON THE PLANET –Broken World-」インタビュー
大森靖子の“言葉”に対する意識 全編英語詞に挑んだ経緯、独自のファッション観も明かす

■リリース情報

『Kintsugi』
発売:2020年12月9日(水)
<Red盤> CD1+CD2+Blu-ray
価格:¥6,200(税抜)
<47盤> CD1+CD3+DVD
価格:¥4,700(税抜)
<通常盤> CD Only
価格:¥3,200(税抜)
購入はこちら
Streaming&Download

<Red盤> CD1+CD2+Blu-ray +ピヤホン+クリアポスター付き
価格:¥8,473(税抜)
<47盤> CD1+CD3+DVD+ピヤホン+クリアポスター付き
価格:¥6,973(税抜)
<通常盤> CD Only+ピヤホン+クリアポスター付き
価格:¥5,473(税抜)
購入はこちら

<FC盤>3CD+Blu-ray+DVD※FC限定販売商品
価格:¥13,000(税抜)
FC盤限定グッズ付き ファンクラブはこちら

【収録内容】
<CD 1>
01. 夕方ミラージュ
02. えちえちDELETE
03. NIGHT ON THE PLANET
04. シンガーソングライター -Kintsugi-
05. counter culture
06. 堕教師
07. CUNNING HEEL
08. ANTI SOCIAL PRINCESS
09. S.O.S.F. 余命二年
10. 真っ赤に染まったクリスマス
11. KEKKON -Kintsugi-

<CD 2>
大森靖子 クリスマス プレミアムコンサート
"真っ赤に染まったクリスマス" at 横浜みなとみらいホール
ライブ音源を可能な限り収録

<CD 3>
超歌手大森靖子2019 47 都道府県TOUR
"ハンドメイドシンガイア" at 新木場STUDIO COAST
ライブ音源を可能な限り収録

-Blu-ray-
大森靖子 クリスマス プレミアムコンサート
"真っ赤に染まったクリスマス" at 横浜みなとみらいホールライブ映像

シンガーソングライター Music Video
counter culture Music Video
KEKKON Musici Video
NIGHT ON THE PLANET -Broken World- Music Video

-DVD-
超歌手大森靖子2019 47 都道府県TOUR
"ハンドメイドシンガイア" at 新木場STUDIO COASTライブ映像

<特典情報>
*タワーレコード:A5クリアファイル
*HMV:外貼りシールステッカー
*TSUTAYA:ジャケットサイズステッカー
*mu-moショップ:缶バッジ
*その他店舗:生写真
*Amazon:メガジャケ
*楽天ブックス:ポストカード
*LINE LIVE:直筆サイン入りB2サイズポスター

■ライブ情報
『ひっそりカウントダウン〜2021TOKYO〜』
開催日時:2020年12月31日(木) OPEN 21:30/START 22:40
会場:新宿LOFT
出演:大森靖子シンガイアズ

・オンラインチケット:2500円(税込)
券売期間
アーカイブ期間:~2021年1月3日(日)23:59まで
詳細はこちら

大森靖子オフィシャルサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる