デュア・リパ『Studio 2054』で魅せた、ポップミュージックの理想郷 ノスタルジアと未来両立させた新感覚ストリーミングライブ

デュア・リパが魅せた、ポップミュージックの理想郷

マイリー・サイラス、J. バルヴィン、カイリー・ミノーグ、そしてエルトン・ジョン……! 世代とジャンルを横断するゲストパフォーマンスの連打

 「New Rules」を終えると、場面は洋風の豪華な部屋へと切り替わる。部屋の中で男子達がビデオゲームを楽しんでいる中、パフォーマンスを終えたデュアが入ってきて、見たいものがあるからとテレビのチャンネルを切り替えると、そこには「Prisoner」を歌うマイリー・サイラスの姿が! ビデオテープのような粗い質感の映像の中で、マイリーとデュアが仲睦まじく同楽曲を歌い上げていく。

 映像を終え、カメラが部屋の中へと戻ると、今度はデュアとパフォーマーによる「Un Dia」が始まり、先ほどのテレビにJ. バルヴィン、バッド・バニー、タイニーが映し出され、部屋の中にいるデュアとテレビ画面に映る3名による共演が行われる。楽曲を終え、カメラが右を向くと、今度は実際に部屋の椅子に座っているアンジェルが映り、そのまま二人による「Fever」へと繋がっていく。ここでも、「完全に画面の中の2人」→「画面と実際の空間の共演」→「実際の空間での共演」と徐々に画面から出てくるような流れを汲んでいることがわかる。そして、そのまま二人は部屋を出て次の場所へと向かっていくのだ。状況的に全員を同じ会場に集めることができないという条件下にも関わらず、豪華ゲストの客演においてもあくまでデュアはそのこだわりを貫いている。

Dua Lipa, Angèle - Fever (Official Music Video)

 二人が向かったのは、今度はさながら都市部のナイトクラブを再現したような空間だ。先ほどのナイトクラブとは異なり、こちらはDJブースとその背後にシンプルなネオンの照明とLEDだけを構えた、洗練されたスタイリッシュな世界観となっている。LEDには世界各地の地名と"NOW TUNED IN TO STUDIO 2054"という言葉が映り、改めてこの『STUDIO 2054』からパフォーマンスを世界中に中継しているのだというメッセージが伝わってくる。

 こちらではBuck BettyがDJを務め、Daft Punkの「Technologic」とミックスしながらデュアの到着に合わせて「One Kiss」をクールにプレイ。DJの横に位置取ったデュアが歌い、フロアの観客に扮したパフォーマー達が自由にダンスを楽しむ(なんとコーラス隊もフロアに紛れて踊りながら歌っている)。まるで実際のナイトクラブでのパフォーマンスのように盛り上がるフロアだが、DJが繋いだのはカイリー・ミノーグの「Real Groove」! そして、フロアからマイクを持ったカイリー本人が登場し、歌いながらDJブースへと向かってくる。DJブースに揃ったデュアとカイリーは、そのまま二人でパフォーマンスを披露。大ベテランにも関わらずブース上で大胆な姿を見せるカイリーも、ついに大先輩との共演を実現したデュアも非常に楽しそうだ。DJはそのままSilk City(Diplo & Mark Ronson)の「Electricity」へと繋いでいくが、徐々にフロアで自由に踊っていたパフォーマー達がフォーメーションへと移行していき、そこにデュアが合流していく。序盤は参加していたカイリーも気付けばいなくなっていた。

 楽曲を終えると、不意にノイズが入り、パーティ会場に静寂と暗闇が訪れる。デュアの姿は見えなくなり、先ほどまで大いに盛り上がっていたダンサー達も立ち止まり、一様にある一点を見つめている。彼らが見つめる先にあるスクリーンに映し出されたのは、御大エルトン・ジョン。ピアノを弾きながら、一人で「Rocketman」を歌い上げていく。ここまで世代もジャンルも異なる様々なミュージシャン達が次々と参加してきたが、この流れ、そしてポップミュージック全てを総括するような美しい瞬間だった。それにしても、ここまでのミュージシャンを揃えてしまうデュアの求心力の高さにも改めて驚かされる。

Elton John - Rocket Man (Royal Festival Hall, London 1972)

『Studio 2054』とダンスミュージックの歴史を祝福する完璧なフィナーレ

 「Rocketman」を終えると、場面は再び冒頭のセットへと切り替わる。だが、今度は画角が4:3から16:9に拡大し、画面の質感もハイファイだ。さらに、先ほどDJがプレイしていた「Technologic」を今度は何とバックバンドがプレイし、「Hallucinate」へと繋いでいくのだが、基本的なセットが変わっていないにも関わらず、最初のパフォーマンスに感じた懐かしさはすっかりなくなっていることに驚かされる。このアプローチからは「基本的な素材を変えなくても捉え方を変えることで、現代に通用するものにアップデートすることができる」という『Future Nostalgia』に代表されるデュアのクリエイティビティにおける指針を強く感じるし、何よりパフォーマンスの完成度の高さが完全にそれを証明している。おそらく最初の撮り方自体が、単なるノスタルジアではなく、この全体像を踏まえて計算されたものだったのだろう。

 そしてラストを飾るのは、大ヒット曲の「Don't Start Now」。一人マイクを持って堂々と歌い上げるデュアだが、おもむろに走り出すと、これまでの流れを総括するようにこれまでパフォーマンスを披露してきたそれぞれのライブスペースを一気に駆け回っていき、改めてここまで使ってきた様々なステージが全て繋がっていたことを証明する(洋風の部屋のセットではカイリーとアンジェルが楽しく踊っているというサプライズも)。さらにトドメとばかりにバックバンドが最も偉大なディスコソングの一つであるABBAの 「Gimme Gimme Gimme (A Man After Midnight)」のメロディを重ねていく。かつてあのマドンナも「Hung Up」で同楽曲をサンプリングしていたが、多幸感溢れる空間に完璧にハマっており、ダンスミュージックの歴史の最先端がデュアにあることを証明していた。まさにこの『Studio 2054』を締めくくる完璧なフィナーレであり、全パフォーマンスを終えてデュアとパフォーマーが成功を喜んで大はしゃぎする中、エンドロールが流れ、1時間10分のパフォーマンスは幕を閉じた。

Dua Lipa - Don't Start Now (Official Music Video)

 今回のライブパフォーマンスは、厳密には完全に一発撮りというわけではなく、おそらくFKA twigsやマイリー・サイラスのパートなどは事前に収録されたものだろう。とはいえ、少なくとも5つのライブセットをリアルタイムで移動しながら、それでいて常に美しい構図を保ち続けるカメラワークとフォーメーションの中で1時間10分のセットを演じきるというのは尋常ではない労力であり、デュアのパフォーマーとしての力量を改めて証明する挑戦でもあった。『Studio 2054』は単なるライブパフォーマンス以上に、その執拗なまでの「美しい構図」へのこだわりの集大成とも言える作品であると言えるだろう。ある意味では一つの会場でのライブをする必要が無い今の状況だからこそ実現できた贅沢な取り組みとも言える。

 また、今回のイベントに付けられた『Studio 2054』というタイトルは、おそらく1970年代から80年代にかけてニューヨークに存在した伝説的ナイトクラブ、『Studio 54』が元となっている。この"54"を今から34年後の未来を想起させる"2054"と置き換えることで、ノスタルジアと未来を両立させてしまうというのが今回のイベントのコンセプトなのだろう。カイリー・ミノーグやエルトン・ジョンといった当時から活躍するレジェンドとFKA Twigsやマイリー・サイラスといった現代のアーティストが自由に混ざり合い、さらにバンドとDJも交差し、ステージセットや撮影方式まで新旧のテクニックを織り交ぜ、それら全体をデュア本人とパフォーマーが繋いでいく。『Studio 2054』は、まさにポップミュージックの理想郷であり、間違いなく『Future Nostalgia』を創り上げた今のデュア・リパにしか作ることのできない空間だった。

 ちなみに本イベント、見逃した方のために配信元のLIVE Nowでアーカイブの販売も行われている。アフターパーティーを除く全ての内容が収録され、ライブ配信時よりも安価の10ドルで購入することができるので、ぜひ楽しんでいただきたい(アーカイブ販売はこちら)。

■リリース情報
『Future Nostalgia (Bonus Edition)』
2020年11月27日(金)全世界同時リリース
2CD/2,900円(税抜)
『Future Nostalgia』+ Remix Album『Club Future Nostalgia』<2枚組>

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