BABYMETAL初選出、AKB48不出場……『紅白歌合戦』がポップスターに求めるものとは 変化したアイドルのポジション

 また、「お茶の間」的なコンテンツである『紅白』は、バラエティ色の強い総合的なエンタメ番組としての性格を強めてきてもいる(参考)。

 そのようなバラエティ的な演出や企画性は、しばしば出場者にとってのメインパートである楽曲披露の中身を侵食していく。ごく直近の女性アイドルの事例でいうならば、2019年『紅白』の乃木坂46「シンクロニシティ」は、いちアーティストとしての作品上演の尊重よりも、バラエティ的な絵面が重視された演出であった。『紅白』出場とは、歴史を積み重ねたオーソリティに選ばれる晴れがましさの側面と、独特の癖をもつ同番組の演出といかに折り合うかの側面とを、複雑にあわせ持っている。常連グループになればなるほどに、「国民的」を企図する番組の成立を担うロールとしての立場は重くなる。

 ただしまた、上記したような常連出場者たちの継続的な活動がある一方で、唯一無二の立ち位置で活躍するBABYMETALや、「お馴染みの顔」になる前夜の段階にいるNiziUら、冒頭でふれたアーティストたちの初選出は、常連グループとはまた異なる価値や役割を負っているはずだ。あるいは、独特の表現スタイルを構築しながら『紅白』の常連になって久しいPerfumeなどの存在をみるとき、アイドルが「国民的」な場所で築くことのできるポジションは、決して一様でないことがわかる。「『紅白』に出場する女性アイドル」という枠組みは、統一的なカテゴリーのように見えて、それぞれにベクトルの異なる意味を含んでもいる。
 いずれにせよ変わらないのは、『紅白』に選出されることが、71回目の開催を数える今日にあっても、大きな栄誉として広く信じられているということだ。出場がグループやメンバー各人の糧になり、背中を強く押すものである限り、「国民的」としての『紅白』の機能は今もって確かに息づいているといえよう。

■香月孝史
1980年生まれ。アイドルカルチャーほかポピュラー文化を中心にライティング・批評を手がける。著書『乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟』『「アイドル」の読み方 混乱する「語り」を問う』、共著『社会学用語図鑑』など。

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