『鬼滅の刃』挿入歌「竈門炭治郎のうた」はなぜ涙を誘う? 椎名豪&中川奈美が音楽で代弁した、登場人物たちの決意と想い

竈門炭治郎のうた
椎名豪 featuring 中川奈美「竈門炭治郎のうた」

 そして、アニメを制作したufotableによる作詞にも注目してほしい。よく見ると作中に登場する台詞が散りばめられていることがわかる。例えば、〈泣きたくなるような 優しい音〉というフレーズは、アニメ第13話で善逸が炭治郎を表現する時に使った言葉。〈失っても 失っても 生きていくしかない/どんなにうちのめされても 守るべきものがある〉というフレーズは、アニメ第7話で炭治郎が婚約者を失った青年にかけた言葉にも通じる。「竈門炭治郎のうた」というタイトルがすでに表しているように、この曲は絶望から立ち上がり、禰豆子や同じく誰かにとっての大切な人を守る炭治郎の決意と、彼を見守る仲間の想いを乗せた楽曲なのだ。それが鬼と人間という種別を越え、炭治郎と禰豆子が力を合わせて敵に立ち向かう場面で流れることで、より心揺さぶられる。父と母、そして兄弟全員で幸せに暮らしていた頃のイラストが流れ、最後に残された炭治郎と禰豆子のカットで終わるエンディングもまたずるい。「竈門炭治郎のうた」が流れるアニメ第19話は、まさに“神回”であり、原作者の吾峠先生も「作画、演出、音楽すべてがすごすぎて作者もボロ泣きしました」と絶賛のコメントを出すほどだった。

 『鬼滅』のアニメはufotableの作画や演出の力、豪華声優陣による熱演に加え、椎名豪、梶浦由記が制作する音楽とそれを歌うLiSAや中川奈美の表現力が合わさったことで、奇跡的な社会現象を巻き起こしたのではないだろうか。もちろん『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』も素晴らしいが、劇場版の実質的な主人公・煉獄杏寿郎が認めた炭治郎と禰豆子の兄妹の絆、そしてキャスト、スタッフが渾身の力で作り上げたアニメのすごみを、改めて第19話とそこで流れる「竈門炭治郎のうた」で感じてほしい。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

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