東京事変、貫禄の演奏と魅惑の歌声で聴かせた“新たなトライアル” 無観客でも“共感のサイン”交わし合った充実の配信ライブ

東京事変、“共感のサイン”交わした配信ライブ

 穏やかなピアノとともに歌い始めた「スーパースター」は、今までのどんなバージョンとも違う色合いで響いた。憧れのスーパースターに会えるよう自分を磨くという歌だが、ライブやツアーが以前のようにできない状況にあって自分を鼓舞するために歌っているように思えた。他の曲もツアー用にセットリストを組んだ時とは違う意味合いになっているものがあるだろう。

 伊澤がショルダーキーボードで前に出た「乗り気」、椎名が手旗を高く掲げて振った「閃光少女」は、喉元までボタンを止めた白いブラウスと白いプリーツスカートで直立する姿が少女のようにキリリとしていたが、同じ衣装なのに「スーパースター」では印象がガラリと変わった。スカートをつまみ上げたりホイッスルを吹きながら10センチ以上ありそうなピンヒールでリズムに合わせて歩んだり、自由で奔放な様子だ。曲の終わりにはバレリーナのようにお辞儀をした。

椎名林檎

 驚かされたのは「今夜はから騒ぎ」。チュールのついた黒い大きなハットを被った椎名は胸元が大きく開いた黒いボディコンシャスなドレス姿になり、なめらかなボディラインを見せつけるように横向きに立ってタンバリンを叩く。歌の端々に蠱惑的な声が入り大人のムードが漂った。その姿で拡声器を持った「OSCA」はバンドともども挑戦的にテンポアップしていき、さらにアグレッシブに変容した「FOUL」に突入、終盤への狼煙を上げたのだった。

 椎名がギターを持った「勝ち戦」は落ち着いた演奏が場内を満たし、「透明人間」はビートを控えめに弾ませながら伸びやかに歌った。ラストは「空が鳴っている」。白一色の照明の中で引き締まった空気を醸し出したこの曲は、これからも動き続けていくという東京事変の宣言のように聴こえた。スリリングなロングトーンで〈神さまお願いです、あきらめさせて〉と歌う椎名は、そう願うほど強い衝動を秘めていると思わせた。

 点滅する照明にクレジットが浮かび上がり、誰もいなくなったステージが暗くなった。本来なら素晴らしいライブを観た後の高揚感に包まれたであろう会場で、撮影スタッフだけが見える客席はアイロニカルな情景にも見えた。ライブ映像が終わり、画面にはカラーバーが表示された複数のモニターと、5人のサインが並んでいた。「またね!!」と浮雲が書いている。次は配信でないライブで彼らと会えるといいのだが。

 冒頭に書いたように、東京事変はありきたりの観客との応酬を求めるタイプではないから、こうしたライブ配信もあまり違和感なく楽しめるということはあるかと思う。また広い会場を撮影のためだけに使っているので通常のライブ収録と違ったカメラワークもあっただろう。ライブにとってのニューノーマルがどんなものか世界中のアーティストが模索しているなか、東京事変も一つのトライアルを成功させた。これが彼らだけでなく他のアーティストにとっても、次へのステップになることを願っている。

■セットリスト
『東京事変2O2O.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ』
1.新しい文明開化
2.群青日和 
3.某都民
4.選ばれざる国民
5.復讐
6.永遠の不在証明
7.絶体絶命
8.修羅場
9.能動的三分間
10.電波通信
11.スーパースター
12.乗り気
13.閃光少女
14.キラーチューン
15.今夜はから騒ぎ
16.OSCA
17.FOUL
18.勝ち戦
19.透明人間 
20.空が鳴っている

東京事変 HP

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる