長渕剛、ファンと想いを共有しながら歌い上げた“生き様と希望” LINE LIVE史上最大規模で行われた配信ライブを振り返る

長渕剛が歌い上げた“生き様と希望”

 「あなたたちが目の前の人に寄り添っている姿を見た時に、ここに希望があったと思った」と、看護師の女性に向けて歌われたのは「しゃくなげ色の空」。言わずと知れたこの状況下において「日本に希望を撃ち込みたい」と、AIとのコラボレーションで今年6月に緊急配信リリースされた歌。〈勝つ為に〉と繰り返されるこの歌は、多くの人の心に響き、そして医療従事者の方々に向けてのエールになったことだろう。そして、このコーナーの締めくくりは、笠井アナへの“快気祝い”として歌われた「交差点」。元々は長渕が20代のとき、男女2人の行き違いを歌った悲しい別れの歌であったが、30代、40代、50代、と歌われる度に別の意味を持つようになっていき、どこかあたたかさを持つような優しい歌になっていった。そして、この日の「交差点」はこれまでの中で一番あたたかいものだったことは、いうまでもないだろう。

「今何時? 23時か? 大丈夫? もうちょっとやるよ」

 そう言って、「GO STRAIGHT」「電信柱にひっかけた夢」と、男くさいナンバーを立て続けに披露する。重心低めのバンドアンサンブルが猛り狂う前曲。そして後曲はゆったりめで演奏され、ずっしりと重厚な雰囲気を色濃くしながら不器用な男の生き様、長渕の生き様を赤裸々に歌った。

 美しいピアノの伴奏で始まったのは「心配しないで」。1993年リリースのアルバム『Captain of the Ship』収録曲で、4公演目で倒れ緊急入院となり、中止となってしまった1994年の幻のツアー『LIVE’94 Captain of the Ship』以降、ほぼ歌われることはなかった。しかしながら、ファンの間では思い入れも深く非常に人気の高い曲だ。ビジョンに映された満天の星の中、〈夜明け前の光をもって お前に会いに行こう〉〈愛しているから 心配しないで〉と丁寧に歌う長渕の表情が印象的で、優しいハーモニカの響きがこの上ない余韻を残した。

 長渕曲には、そうしたシングルではないけれど人気の高い楽曲が数多く存在している。ラストに歌われた「MySelf」もそんな名曲のひとつである。

〈だから真っ直ぐ 真っ直ぐ もっと真っ直ぐ生きてえ
 寂しさに涙するのは お前だけじゃねえ〉

 事前に募集されたファンの歌声が長渕の歌と重なり、無観客ながらも大団円を迎えた。

「コロナなんかに負けねえ。いろいろあるだろうけど頑張ろうね。僕は明日が少し待ち遠しくなったよ、みんなと会えて」

 そう言って、2時間半に及ぶ長渕剛、初のオンラインライブ『ALLE JAPAN』は終幕した。「みんなの声が聞こえないから」と長渕は少し寂しそうにしていたが、それが逆に落ち着いた貫禄あるステージングを生み、いつも以上に歌に入りこんでいたようにも見えた。長渕のライブはオーディエンスが一体となり、拳を上げながら共に歌い、泣いて、笑って、という一体感が大きな魅力であるが、こうしていつもとはまったく違う環境で、魂のこもった歌をじっくり聴いて、その雄姿をしっかりと目に焼き付けるというのも良いものだ。

 ライブ定番曲にこだわることなく、「エールを送る」というテーマに則ったセットリストも良かった。この日歌われた16曲のうち、シングル曲は「ろくなもんじゃねえ」と「しゃくなげ色の空」の2曲だけだった。久々に歌われた歌、この状況下で新たな想いが込められた歌……。歌とは何十年経っても時代の中で生き続けるんだということを再認識した。長年のファンはあらためて長渕の歌に気づかされたことが多かったはずだし、近年長渕を知った人は、長渕の歌に込められたエネルギーに魅了されたことだろう。いろんな歌のいろんな表情が見えた、歌の力を思い知らされたライブだった。

 『ALLE JAPAN』は閉幕したが、ステージを降りた長渕をカメラが追う。楽屋にて、寄せられたチャットのコメントを確認すると、おもむろにギターを手にして突然歌い出した。

〈くよくよするなよ あきらめないで/Just like a Boy〉

 バンドメンバー、笠井アナも交えての「STAY DREAM」。これまでいろんな場面で歌われてきたが、こんなにもハッピーであたたかい「STAY DREAM」を聴いたのは初めてであり、衝撃だった。もちろん、良い意味でだ。

「形はいろいろ変わっても、変わらないものがあると確信しました」

 最後のMCで長渕はそう口にしていたが、このライブを観ていた10万人のオーディエンスも同じことを思ったに違いない。

 この半年の間で我々の日常は一気に様変わりした。特に音楽、芸術、エンターテインメントの形はすっかり変わってしまった。しかし、その本質にあるもの、音楽や歌が我々に希望や力を与えてくれる存在であることは何も変わっていない、そのことを長渕剛というアーティストが全身全霊で教えてくれた。そんなライブだった。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログTwitter

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