KSUKEがニューシングルに込めた、DJ/音楽プロデューサーとして思うこと 「日本人として世界と闘える武器とは何なのか」

KSUKE、ニューシングルに込めたこと

日本ならではの良さを追求していきたい

ーーKSUKEさんの作品だけにフォーカスしても、ほんとうにさまざまな曲がありますよね。2020年に入ってからも、1月にリリースしたシングル「Ohayo!」と、今回のニューシングル「Contradiction(feat. Tyler Carter)」では、まったく表情が異なります。

KSUKE:曲を作る前提として、聴いてくれる人たちを躍らせたい、とにかく楽しんでもらいたいと思っているので、僕のことを知っている人たちには、キャリアを通して統一感も感じてもらえているとは思いますけど、コンセプトによってまったく異なるタイプの曲が生まれますね。「Ohayo!」は「beatmania」に提供したゲーム音楽なので、疾走感のある部分もあれば、それだけだとプレイ中に手が疲れちゃうんで、ちょっと休めるパートもある。そういった要素を“1日の生活”に当てはめて作ったんです。「Contradiction(feat. Tyler Carter)」は、新型コロナウイルスの影響で、予定がいろいろなくなっちゃいましたけど、フェスやクラブで盛り上がる曲にしたくて、2017年くらいからブラッシュアップを繰り返して温めてきた曲です。だから展開がすごくシンプル。そこに、バトルもののアニメ『THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール』のオープニングテーマのオファーをいただいたので、さらにアクション性を求めて完成した曲ですね。

[Official - The God of High School - OP] KSUKE - Contradiction feat.Tyler Carter (TV Version)

ーーもともとロックがお好きだったと伺いましたが、ご自身の曲で、過去にここまでロックに接近した曲となると、「TAKE OFF feat. Toyo from New Breed」(2015年アルバム『SPACE SHOUT』に収録)くらいですかね?

KSUKE:エレクトロとロックを融合させた曲は、これまでにも何曲かあったんですけど、バランス的にはそうかもしれません。もっと突き詰めると、イントロがあってバース、ビルドアップ、ドロップと、ここまではっきりと多くの人がEDMだと思う展開の曲に、ロックの要素をミックスした曲は初めてですね。

ーーゲストボーカルにIssuesのタイラー・カーターを迎えた経緯を教えてもらえますか?

KSUKE:いろんな人にトラックを聴いてもらうなかで、タイラーに歌ってもらえたらいいねって、話はしていて。オファーしたらほんとうに歌ってくれることになったんです。

ーー原作は韓国で、アニメの制作は日本。そのタイアップ曲をアメリカ人のタイラー・カーターが歌ったことで、海外からの反応もいつもより多かったんじゃないですか?

KSUKE:そうですね。アニメが好きな人は世界中にいますし、Issuesは本国では知名度の高いバンドなので、「タイラーがアニメの曲を歌ってるぞ。しかもEDMだ」みたいな反応も多くもらいました。いい意味でも悪い意味でも、意外性を感じてもらえたんだと思います。僕は否定的な意見が出てこそだと思っているので、いろんな声があることは、すごく興味深いですね。

ーーサウンド面では、ロック然としたギターワークがエレクトロにすごくハマっていると思いました。

KSUKE:バースでは生で弾いたギターを思いっきり鳴らしたんです。ドロップは、シンセをギターっぽい感じにして、でもそれだけだとパワーが足りないと思ったので、後ろにうっすらギターを足したんですけど、それがうまくいきました。

ーーイントロ~バースの歌メロが拍に対してズレているのはわざとですか? ダイレクトに響くポップな強さを維持したまま、“Contradiction”すなわち“矛盾”を演出したようにも感じたのですが。

KSUKE:そこは狙っていなくて、偶然ですね。タイラーの歌い方もあると思うんですけど、僕もミックスの時に「あれ?」って、思いました。でも、そこをグリッドに沿って綺麗に合わせようとするとグルーヴがなくなるというか、逆に変になっちゃうからそのまま残したんです。歌が完璧に合っているのはドロップの前だけですね。ギターの音もズレたまま残してるんですけど、そういうバランス感覚は、コロナナモレモモでマキシマム ザ ホルモンというロックバンドの曲に、電子音をはめてリアレンジさせてもらった経験が活きていると思います。

ーー歌詞と“矛盾”の関係性についてはいかがでしょう。

KSUKE:歌詞はタイラーが書いてくれたんですけど、「特に深い意味はない」とのことでした。何か特定の出来事に向けたものではなく、つじつまが合わないことって誰の心の中にも大なり小なりあるもので、そのことで悩んだりうまくいかないことがあったりしても大丈夫だよって、そういうことですね。だから、歌詞に対する解釈は、彼と僕でもまた異なると思います。

ーーでは、KSUKEさんの抱える矛盾とは?

KSUKE:ちょっと話が逸れるかもしれませんが、“EDM”とか“クラブ”という言葉が雑に扱われすぎていると思うんです。“渋谷のハロウィンに合う音楽=EDM”からの“街がクラブ化した”みたいに、風紀の乱れの象徴のように言われることがあるじゃないですか。

ーーあそこで騒いでいる人たちが、実際にどれだけクラブに通っているのかっていう。

KSUKE:そうなんですよ。クラブって、もっとちゃんとエンタメしてますよね。

ーーそう思います。堅い言い方になりますけど、人間形成においても重要な場所に成り得ます。

KSUKE:僕は部活もしてなかったし、ずっと一人でアニメを観たりゲームをしたり、パソコンを触ったりしていたので、コミュニケーションが苦手で。でもクラブに行くようになってから、先輩という存在に触れて、音楽のことやDJのことをたくさん教わったし、お酒の飲み方とか、やっちゃいけないこととか、勉強という言葉は好きじゃないけど、大切なことをたくさん学びました。とは言え、決して綺麗なことばかりではない。でも、それって昼でも夜でもどこの場所でもそうで、クラブだけが突出して乱れているわけではないのに。DJだってそう。立派に生計を立てられる可能性があるし、もっと憧れられてもいい職業だということは、伝えていきたいですね。

ーーコロナ禍における、今後の活動についてはどうでしょう。

KSUKE:クラブって、そもそもソーシャルディスタンスを保つのは難しい場所だし、ユーザー側の立場になると、医療や最低限の生活と密接に関わる場所への関心よりも、後回しになってしまうのもわかります。そんななかで、僕らはとにかく安全に楽しんでもらいたという気持ちをしっかり持って活動していくことなんじゃないでしょうか。何が正解か、僕は医者でもないのでわかりませんけど、とにかく今は、考えることが大切だと思っています。

ーー今はどんなことを考えていますか?

KSUKE:DJに関しては、今は休むという選択を取っています。表現活動としては、今だからこそできることをやっていこうと。クラブでの人との出会い、現場でのインプットが減ることは痛いですけど、そのぶん、DJとしてだけでなく、クラブに付随するいろんな表現がどのように成り立っているのか、あらためてちゃんと調べたいと思っています。

ーー曲作りについてはいかがですか?

KSUKE:今までも意識していなかったわけではないんですけど、日本国内にしっかり目を向けて、日本ならではの良さを追求していきたいですね。海外のダンスミュージックに憧れるだけではなく、日本人として世界と闘える武器とは何なのか。だから、このタイミングで「THE GOD OF HIGH SCHOOL ゴッド・オブ・ハイスクール」というアニメのタイアップを手掛けられて良かったです。原作は韓国で、それが日本のクリエイターによってアニメ化され、作品のテーマ曲を日本人の僕が作って、アメリカ人のタイラーが歌う。そこで日本ってすげえなって、思ってもらえたら嬉しいですね。

ーー音楽における日本らしさとは何ですか?

KSUKE:今までも和のフレーズを入れた曲は作りましたけど、例えば琴を使うとか、単純にそういうことじゃなくて、日本人の生活や人間性だと思うんです。アニメやゲーム音楽、J-POPもそう。日本人って、子供の頃にピアニカかリコーダーを必ず習うじゃないですか。メロディを最初に教わるんですよね。

ーーピアニカを入れる手縫いの布ケースを、母に作ってもらった記憶があります。

KSUKE:でも打楽器は習った人はほとんどいない。海外は、部屋が広いとかそういうこともあると思うんですけど、子供の頃から打楽器との距離が近いらしいんです。そう考えると、日本人がメロディを重視する傾向って、生活から生まれた国民性でもある。だから、そういうことに抗うことなくやっていけば、自ずともっとおもしろい曲ができるんじゃないかと思います。

■リリース情報

「Contradiction (feat. Tyler Carter)」
配信開始日 
・フルバージョン:2020年7月3日(金)
・テレビバージョン:2020年7月7日 (火)
配信はこちら

オフィシャルサイト

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