PUNPEE『The Sofakingdom』レビュー:掘り下げるほどに無数のメッセージが散りばめられた作品

 映画のように楽曲を展開させる手法は、限定MixCD『MOVIE ON THE SUNDAY』(2012年)あたりから顕著になり、満を持してリリースされた初のアルバム『MODERN TIMES』(2017年)ではタイムスリップ物のSF映画のようにアルバムに仕上げた、力作にして名作だ。今作『The Sofakingdom』もEPとはいえど、作りこまれた構成となっている。心踊るビートに情景が浮かぶサウンドで展開を持たせ、親しみやすい声と言葉でストーリーが語られる。何度も聴くと気が付く小さな仕掛けも多分に盛り込まれ、今作も映画のように作り込まれている。「The Sofakingdom VR」では自身がナビゲーターをしていたラジオ番組のジングルから、様々な音がザッピングして切り替わる。次第に鬱蒼としたピアノが入るのだが、徐々にドラムロールが小気味良く挟まれるビートが乗り、期待感を静かに高めてくれるだろう。VR空間に接続して続く「GIZMO (Future Foundation)」では鬱蒼とした前曲からシームレスに疾走感ある曲へと変化する瞬間が楽しく、ファンたちはこの時点で今作もまた名作である確信をしたはずだ。

PUNPEE - 夢追人 feat. KREVA

 続く「夢追人 feat.KREVA」はハイライト。日本語ラップを聴いてこなかった人からするとPUNPEEとKREVAの組み合わせは唐突に思えるかもしれないが、PSG『David』や『MOVIE ON THE SUNDAY』に好評を寄せていたのがKREVAであり、日本語ラップ冬の時代でもヒットチャートに残っていたのもKREVAであった。日本語ラップのシーンにとってKREVAとは成功を収めたOBと言える立ち位置であり、KREVAの登場は満を持して別のユニバースから召喚されたヒーローのようなものなのだ。夢を追いかける側の視点からヴァースを蹴るPUNPEEは、KREVA「瞬間Speechless」(2009年)のイントロをハミングしてその偉大なる先輩を迎え、登場したKREVAは追われる側としてリリックを展開する。2方向からの視点で“夢”を語る展開は、ストレートなタイトルからは予想できない仕掛けだ。また両者がドラムに言及していることも触れずにいられない。いかにラップがメロディアスになろうとも、ヒップホップの魅力はメロディではなく、ビート。機材やソフトウェアが発展しても2人がMPCを使用し続け、KREVAに至っては研究と呼べるほどにMPCを愛用していることを考えれば、メジャーな存在になっても太いドラムを鳴らし続ける所信表明とも言える部分だ。

 「Operation : Doomsday Love」はSFチックな言葉が並ぶが、紛れもなくラブソング。METEORを曲中で登場させて転調させたり、今思えば秋元才加との交際を匂わせていた「Last Man Standing (I am Tanaka?)」(2016年)の前日譚を思わせる作りとなっていて、ラブソングすらも多くの仕掛けを盛り込むオタク気質には、“らしさ”すら感じる。最後は実弟であり、時に互いを刺激するライバルとも言える5lackを招いての「Wonder Wall」。同名の代表曲を持つOasisのリアム兄弟のような仲ではないが、この2人はベタベタのブラザーフッドともならず、見事に対照的。キャッチーで自らを卑下する兄に対し、クールでミステリアスな5lackとの間には、明け透けでない信頼感と互いを尊重する距離感が現れている。兄は弟の昔の曲「Hot Cake」を分かりやすく引用し、弟は兄が男らしさを見せた「Pride feat. ISSUGI」を素っ気なく踏まえている構造も対照的だ。5lackがかつてなく、歌に近いフロウをしている点も、ぜひ聴いていただきたい。ある意味、前曲よりもストレートなラブソングとも言える。

 以上、婚約発表後のタイミングと、映画『レディ・プレイヤー1』のようなVR没入型の世界観も相まって、あっという間に楽しく終わってしまう20分弱の本EP。しかし、聞き終えた時に微々たる気持ち悪さも感じるだろう。それは映画のように楽しい今作から抜け出しても、現実がディストピア映画のようになってしまっているからだ。

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