木村拓哉、2020年以降も揺るがないトップスターの座 昨今の“キムタク旋風”を解説

バナナマン・設楽が驚いたキムタクの心づかい

 映画、ドラマに出演する際、スタッフなど関係者への配慮が深いことでも知られている木村。木村の作品づくりへの真摯な姿勢と、一緒に取り組む仲間たちへの心づかいに関心が向いたのも、「2020年の木村拓哉」の特徴のひとつだ。

 2月17日、お笑いコンビ・バナナマンの設楽統はバラエティ番組『バナナマンのドライブスリー』(テレビ朝日)の公式Twitterで、ドラマ『MR.BRAIN』(2009年)への出演時、木村から受け取った差し入れが「エゲツなかった」ということを明かした。大勢の関係者に対し、高級焼肉店・叙々苑の弁当や人気ブランド・ヒステリックグラマーのシリアルナンバー入りTシャツなどを配ったのだという。

 ほかにも今年、ドラマ『BG〜身辺警護人〜』(テレビ朝日系)の撮影現場で、マクドナルドのハンバーガーやサラダなどを種類豊富に用意し、スタッフ全員分を差し入れ。その模様は木村のWeiboに掲載され、机いっぱいに埋め尽くされた各メニューの写真が話題となった。

 作品に出演する多くの役者は、飲食の差し入れをして現場のスタッフや共演者を労う。それ自体は決して珍しいことではない。でも芸能界をよく知るバナナマン・設楽をして「エゲつない」とびっくりさせるくらいなので、木村のおもてなしは超越したものがあるのだろう。

 木村はドラマ『ロングバケーション』(1996年)の撮影時、「みなさんは僕が主役と言ってくれるけど、僕はドラマを作る全員の共同作業だと考えています」(『キムタクバイブル 木村拓哉のキーワードを読み解く!』)と話している。

 書籍『SMAP×SMAP COMPLETE BOOK 月間スマスマ新聞VOL.2〜RED〜』(2012年)でも、「メークさんや美術さんとちょっとコミュニケーションをとれるところにいたい」「何を食うか、何をしゃべるか、何を歌うか。考えてくれるのもスタッフだし。スタッフがいて、初めて成り立っていることだから」と、各現場のスタッフのおかげで今の自分があることを強調している。

 どの作品でも常に主役級をつとめる木村。でも、どれだけ自分が注目を集めようが、「主役は作品に関わる全員である」という信念をもとに長年活動してきた。「キムタクのためなら」と意気に感じる関係者もきっと多いことだろう。木村の評価の高さは、そういったところに結びついている。

姿勢の良さでキャラクター像を表現した『教場』

 「2020年の木村拓哉」を語る上で絶対に外してはいけないドラマが、1月にオンエアされた『教場』である。警察学校を舞台に、木村演じる冷酷無比な教官・風間公親が、厳格なルールや監視下を敷き、生徒たちをふるいにかけていく物語だ。

 木村は、若々しく躍動する役のイメージが強い。『HERO』(2001年)の検察官・久利生公平のように、常識にとらわれず、見た目も言動も型破りな人物役が確かによく似合うし、そういった痛快なキャラクターを木村の真骨頂として見る傾向がある。

 しかし木村は、影のある役を担ったときの作り込みや没入度が素晴らしい。映画『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(2009年)の他人の痛みを身代わりとなって引き受ける特殊能力者・シタオ、『無限の住人』(2017年)の死にたくても死ねない伝説の人斬り・万次など、心身ともに傷を背負いこんで孤独のなかをさまよう男を味わい深く表現できる俳優だ。

 また、自分で自分にプレッシャーをかけて、追い詰めながら、こちらの想像をはるかにこえる芝居を見せる部分も彼のすごさ。『CHANGE』の総理大臣・朝倉啓太役は特に圧巻だった。最終回スペシャルでラストの22分間を全国生中継。ワンカットの長台詞で締めくくるという離れ業をやってのけた。現代のドラマでは前代未聞ともいえるこのチャレンジ。視聴者としても緊張感が伝わってきた。そもそも22分もの間、画面を持たせることなんて木村以外に誰ができるだろうか。とにかく尋常ではない芝居だった。

 『教場』もそれらと並んで語りたい、木村の芝居の妙味が味わえた。木村自身が提案したという白髪のビジュアルは、これまでとは違ったキムタク像が漂っていて驚きの声が続々とあがった。さらに色付き眼鏡をかけて、顔色もほとんど変えない。さらに他人の横やりをはさませない淡々とした喋り。いかにも気難しくてシビアな雰囲気を入念に作り込んだ。

 何より良かったのが、木村の姿勢だ。ピンと立てた背筋、芯をしっかり通した首。その姿勢こそが風間の厳格さを物語っていた。2019年12月に発行された雑誌『AERA』でのインタビュー記事で、木村は「風間だけが無機質な静物のように存在している感じのイメージは伝えたかった」と話しているが、その不気味な静けさをあらわしていたのはあの姿勢であったと筆者は考えている。

 先述したように木村は若々しい役が多かった。でもこの『教場』を機に、実際の年齢相応の、腹に一物を抱えた中年役が増えていきそうな予感がしている。

 2020年になってもトピックスが絶えない木村拓哉。美空ひばり、石原裕次郎、吉永小百合、山口百恵、松田優作らのように語り続けられるであろう大スターの、さらなる進化を期待したい。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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